安全性などに問題がある高速道路の暫定2車線区間。会計検査院はそれにより「巨額な損失が出ている」としますが、日本は「暫定2車線の国」としても過言ではないのが現状です。

日本は「暫定2車線の国」?

 対面通行の安全性などに懸念がある高速道路の「暫定2車線区間」。最近それについて、お上の動きが急です。

 今年2015年10月には、会計検査院が「暫定2車線の高速道路による損失は巨額である」という分析結果をまとめました。それによると、対面通行での正面衝突事故による損失はここ10年間で300億円以上。制限速度が70km/hと低いことによる経済損失が175億円とのことです。

 暫定2車線の高速道路は現在、約2400km。うち1750kmが、中央線にプラスティックポールを立てただけの対面通行です。日本の高速道路総延長約1万kmに対して、実に約4分の1が暫定2車線なのです。ほかの先進国と比較すると、アメリカ2.3%、ドイツ1.1%、フランス0.2%。韓国4.5%。日本は「暫定2車線の国」と言ってもいいほどです。

なぜ上下線のあいだに分離壁を設置できないのか?

 会計検査院によると、暫定2車線区間を4車線化するのには、1kmあたり12億~36億円かかるのに対して、2車線のままコンクリート壁などを設置する場合は、1kmあたり1億4000万~2億5000万円で済むとのことで、4車線化の見通しがたっていない対面通行の区間では、分離壁を設置することなどを検討するよう求めています。

 過去、正面衝突による重大事故の発生をきっかけに、コンクリート壁設置が検討された区間もありましたが、2車線対面通行の場合、「設置するだけの幅員がない」という理由で断念されています。

 確かにコンクリート壁を設置すると、プラスティックポールよりも30cmほど幅を取るのでその分、路肩が狭くなります。もともと暫定2車線区間はトンネル部の路肩が1.25mしかないので、これが片側15cm削られると、緊急車両が路肩を進行するのが困難になるケースが増え、道路構造令上の規格も満たせなくなるでしょう。

 が、なによりも重要なことは、重大事故の防止です。事故の際に緊急車両が通行できることよりもまず、事故を防ぐことが第一なのは自明の理。緊急車両に幅の狭い特殊車両(首都高は幅狭のレッカー車を保有)や、あるいは軽自動車ベースの救急車を導入するのも一手でしょう。国交省はできるだけ速やかに、暫定2車線区間の簡易分離壁設置に動くべきです。

異常な日本の高速道路、考え方を変えれば

 ただ、既に4車線への拡幅が決まっている下記の区間については、その限りではありません。

三陸自動車道(仙台港北~利府JCT)
館山自動車道(君津~富津竹岡)
上信越自動車道(信濃町~上越JCT)
東海北陸自動車道(白鳥~飛騨清見)
舞鶴若狭自動車道(福知山~舞鶴西)
湯浅御坊道路(有田~御坊)
高松自動車道(鳴門~高松東)
長崎自動車道(長崎多良見~長崎芒塚)

 しかしこのほかにも、交通量が比較的多く、冬季の積雪によって正面衝突事故が起こりやすい区間は、優先的に暫定2車線から4車線への拡幅が望まれます。なにしろ2車線対面通行の高速道路自体、世界の常識から見れば“異常”なのですから。

 国交省の基準では、「交通量1万台/日」が拡幅の目安ですが、これを8000台/日に引き下げるとともに、積雪や将来性を加味すると、以下の区間(合計約700km)が“拡幅対象”になります。

磐越道(会津若松~新潟中央)
日本海東北道(豊栄SA~荒川胎内)
常磐道(いわき中央~岩沼)
東海北陸道(飛騨清見~小矢部砺波JCT)
舞鶴若狭道(舞鶴西~敦賀JCT)
阪和道(御坊~南紀田辺)
岡山道(北房JCT~賀陽)
米子道(蒜山~米子)
山陰道(宍道JCT~松江玉造)
徳島道(藍住~川之江東JCT)
高知道(高知~須崎東)

 残る暫定2車線区間は北海道・東北・九州に集中しますが、当面は中央にコンクリート壁を設置したうえで、有料区間に関しては暫定2車線の利用価値の低さに合わせ、料金を半額程度に下げるのが現実的ではないでしょうか。

過疎地は一般道の流れが速い分、暫定2車線高速は4車線区間に比べ、総合的に見て半分程度の利用価値しかないのが実情だからです。半額に下げれば交通量は3割は増えるでしょうから、その分、減収額も抑えられます。

 ただ心配は、暫定2車線区間の料金を安く設定すると、地元から「値上げになるなら4車線化するな」という声が沸く可能性があることです。これについてはまた別途、施策を考える必要があるでしょう。

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