日本一長い在来鉄道路線となっている山陰本線。風光明媚な車窓や国鉄形車両など、旅情を存分に味わうことができる路線に「青春18きっぷ」で乗車してみました。
2024年2月現在で日本一長い在来鉄道路線が山陰本線です。鉄道ファンからは「偉大なるローカル線」などと呼ばれ、風光明媚な車窓や国鉄形車両など、旅情を存分に味わうことができる路線です。「青春18きっぷ」では、最も旅情を感じることができるローカル線の一つかもしれません。
山陰本線の気動車(乗りものニュース編集部撮影)
今年の始め、リニューアルされた「青春18きっぷ」を使い、路線の起点となっている京都駅から鳥取駅まで移動してみました。
京都駅と鳥取駅は現在、特急「スーパーはくと」によって乗り換えなしで結ばれています。ただこちらは京阪神と鳥取を最短経路・最短時間で結ぶ智頭急行線を経由し、山陰本線とは全く別のルートで走ります。
まずは京都駅を7時34分に発車する園部行き普通に乗車。列車は223系と221系を連結した8両編成でした。今回乗車した223系は、もともと阪和線で使用されていた車両で、広い通路を確保した3列座席が特徴。1人がけの転換クロスシートもあるので1人旅に適しています。阪和線から転属してきても外観は変わらず、青と白のグラデーション帯のまま山陰本線で使用されています。
山陰本線の京都~園部間は「嵯峨野線」という愛称があり、沿線に観光地・嵐山などがあることから観光需要が高く、近年は混雑が深刻化しています。阪和線から転属してきた車両は座席を少なくしている代わりに通路が広いため、混雑緩和に一役買っています。
京都駅を出た普通列車が最初に停車するのは、2019年に開業した梅小路京都西駅です。この駅は京都鉄道博物館の最寄り駅でホームドアまで備えており、まだローカル線らしさは全く感じません。列車はしばらく高架を走り、嵯峨嵐山に到着。外国人観光客が下車していきました。
この駅から車窓は一変し、市街地から保津川の雄大な渓谷に変わり、保津峡をトンネルで越えていきます。途中でトロッコ列車が走る嵯峨野観光鉄道の線路が分かれていきますが、この路線も「元・山陰本線」。1989年の山陰本線の複線化に伴い、不要になった川沿いの旧線を観光鉄道に転用した路線で、人気を集めています。
駅のそばにサッカー京都サンガF.C.のホーム「サンガスタジアム」がある亀岡駅を過ぎ、8時20分に園部駅着。ここで向かい側に停車していた8時22分発の福知山行き普通列車(2両編成の223系)に乗り換え、9時48分に北近畿の交通の要衝である福知山駅に到着しました。ちなみに、山陰本線の沿線は明智光秀ゆかりの地でもあります。
次に福知山駅から10時12分発の城崎温泉行き普通列車に乗車します。車両は緑一色に塗られた国鉄形電車の115系でした。途中、梁瀬駅から兵庫県に入り、播但線との分岐駅である和田山や、コウノトリで有名な豊岡を通って城崎温泉には11時32分に到着。国鉄形車両ならではの重厚なモーター音や独特の乗り心地を楽しむことができました。列車は円山川に沿って進み、車窓もローカル線らしくなってきます。
115系やキハ47形も健在ラストランナーは、城崎温泉発鳥取行きの普通列車です。新大阪からやってきた特急「こうのとり」3号からの乗り換え客を受け入れ、11時56分に城崎温泉を発車しました。

海沿いを走る山陰本線(乗りものニュース編集部撮影)
ここからは非電化区間です。車両は朱色(首都圏色)のキハ47形気動車で、鉄道ファンからは「タラコ」と呼ばれて親しまれています。
ローカル線らしさはぐんと増し、「北前船」の寄港地として栄えた竹野を過ぎると、日本海が見えてきます。カニで有名な香住駅には、駅構内に大きなカニのモニュメントが飾られており、車内からも見ることができました。
鎧駅に着いたらカメラの準備をしておきたいところ。鎧~餘部間で、沿線最大のハイライトである餘部橋梁を通過するためです。列車は全長310m、高さ41.5mにおよぶ餘部橋梁をゆっくりと通過し、日本海を一望することができました。
現在の餘部橋梁は、2010年に架け替えられた2代目にあたり、初代の旧橋梁は珍しい鉄製の「トレッスル橋」でした。通常の桁橋は橋桁をコンクリート橋脚などで支えますが、トレッスル橋は橋脚が「A」型の断面のトラス構造となっています。各部材が華奢で優美な印象となり、風景に比較的溶け込みやすく、旧橋梁は「餘部鉄橋」と呼ばれて長らく親しまれました。
ただ海沿いの高い位置にあることから、強風の影響による運休が相次ぎ、1986年には回送列車が地上へ落下する悲惨な事故が発生しています。老朽化にともない、2007(平成19)年から新たなコンクリート製の橋の建設が始まり、約3年半の工事を経て生まれ変りました。かつての鉄橋は、餘部駅のある西側の一部が橋脚とともに残され、観光スポットとなり、かつての姿を今に伝えています。餘部駅では観光客も下車していきました。
列車は山陰本線の兵庫県最西端駅である居組駅を過ぎ、東浜駅から鳥取県に入ります。城崎温泉から約2時間ほどで高架の鳥取駅に到着しました。
「青春18きっぷ」はリニューアルで自動改札機の利用が可能となりましたが、鳥取駅には自動改札はありません。都市部では珍しくなった、駅員が切符をチェックする有人改札が残っています。しかし、その光景も3月14日までで、15日にはついに自動改札が導入されます。
京都駅からの所要時間は6時間26分でした。「スーパーはくと」であれば約3時間で到着しますが、山陰本線には国鉄形の車両をはじめ、昔から親しまれてきた数々の“絶景”を存分に堪能できます。ただ、鳥取駅の有人改札の光景だけは、令和にアップデートされつつあります。