交差点の中央に吊り下げられる形で設置される、通称「UFO信号機」。全国には、まだ現役のものがごく少数残っていますが、滋賀県長浜市にあるものは、唯一無二の形をしています。
琵琶湖のほとり、レトロモダンな町並みが有名な滋賀県長浜市には、「ここでしか見られない」といわれる日本で唯一のレア信号機があります。その名は「縦型UFO号機」といいます。
観光客で賑わう長浜大手門通り商店街から見た「UFO信号機」。ベージュ系の塗装と装飾で、レトロモダンな町並みに溶け込んでいるのが分かる(布留川 司撮影)。
そもそも、縦型でない横型のUFO信号機は10年ほど前までは全国で見ることができました。正式には「懸垂型交通信号機」と呼ばれ、都市部などの狭小な交差点でも設置できる信号機として1970年代に開発されました。
当時は全国に設置されましたが、その特殊な形状ゆえに更新時には通常の信号機に戻されることが多く、現在でも使われ続けているものはほとんどありません。では、なぜこれらがUFO信号機と呼ばれるのかと言うと、それは設置方法が特殊だからです。
交差点に設置される一般的な信号機は、十字路であればその4方向それぞれに電柱が立てられ、そこから横方向にアームが伸び、その先端に灯器(表示盤)が取り付けられています。
しかしUFO信号機の場合は、光る部分が一体型のいわゆる「集約灯器」と呼ばれる形状のため、吊り下げるポールと信号灯器がひとつで済むことから、交差点の設置スペースを削減することが可能というメリットがあります。
UFO信号機は、もはや絶滅危惧種と言える存在で、2025年4月現在、公道上で残るのは、大阪市東成区と広島県江田島市、そして冒頭に記した滋賀県長浜市の3か所のみです。
そして、大阪並びに広島のものが横向きなのに対して、滋賀県長浜のものは縦型。だからこそこの信号機は、前2者のものとはあきらかに異なる特徴をいくつも備えています。
レトロモダンな町並みにマッチするようにデザイン通常、信号機の赤・黄・青の3色の信号灯は横に並んでいますが、この信号機は3つの信号灯が縦方向に並んでいます。ゆえに、長浜の設備は「縦型UFO信号機」と呼ばれるのです。

「UFO信号機」を下から見た所。4方向に信号灯が装備されているのがよくわかる(布留川 司撮影)。
外見も通常の信号機と違って装飾されており、全体のベースカラーは信号機では標準となっているグレーではなく、周囲の景色に溶け込む落ち着いた茶色で塗装され、信号機の上部には菱形の装飾と傘状のカバーが取り付けられています。これは設置場所周辺の黒壁スクエアのレトロな町並みに合わせるためだと思われます。
また、信号機を吊り下げているポールは可動式のヒンジ構造となっており、必要があれば交差点外に動かすことができます。これは、長浜市で開催される催事で、車高が高い山車が通行する際に邪魔にならないための仕様だそうです。
全国の道路に設置された信号機は、実はすべてが同じ規格というわけではなく、地域の事情や製造会社の違いによってデザインや仕様が異なっています。一般の人々が道路を行き交い信号機を目にしているときに、その違いを意識することはないでしょう。
しかし、信号機にも時代に合わせた変化の歴史があります。消えつつあるUFO信号機も、社会の要望があったからこそ生まれたものであることは間違いありません。そういった意味で技術遺産ともいえるのではないでしょうか。
長浜にあるこの信号機が唯一無二の存在なのも、必要とされたからだと言えるでしょう。もし見ることがあったら、珍しい外見を楽しむだけでなく、その背景にある信号機の歴史にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
なお、設置場所はJR長浜駅からほど近い、観光スポット「黒壁スクエア」近くの交差点です。