JR東日本はゴールデンウィーク期間中の2025年5月、既に定期運用を終えた人気車両を臨時特急で登板。同車は“華麗なる復活”を遂げましたが、実は再登板が待ち受けている可能性があります。

255系走るの!?

 JR東日本は2025年5月のゴールデンウィーク期間中、千葉県・房総半島を走る臨時特急の一部で、JR発足初期の直流特急形車両である255系を走らせました。引退したはずの車両の思いがけない“再登板”は話題を呼びました。

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JR東日本の特急「しおさい」81号として走る255系(大塚圭一郎撮影)

 運行されたのは5月3日の総武本線を通る東京―銚子の「しおさい」81号と82号、5月4日、5日に内房線を通る新宿―館山の「新宿さざなみ」1号と4号です。

 先頭部に大型の1枚窓を設け、下に前照灯と尾灯を横1列に配置した斬新なデザインの255系の人気は健在で、沿線には大勢の鉄道ファンが押し寄せました。筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は255系の「しおさい」82号に乗車するとともに、関係者から今後の運用を探りました。

 255系は「Boso View Express(房総ビューエクスプレス)」の愛称を持ち、国鉄時代に製造された183系で運用されていた房総半島の特急を置き換えるため1993年に登場。鋼鉄製車体の上半分を白色と菜の花の黄色、下半分は太平洋をイメージした青色で塗っています。

 JR東日本は、神奈川県出身の小泉今日子さんが幼少期を振り返って「本当は、房総に行きたかった」とつぶやき、小沢健二さんらとともに255系で房総半島を訪れるテレビ広告を展開するほどの気合いの入れようでした。

 当時は東京湾の中央部を横断する有料道路「東京湾アクアライン」の建設や、東関東自動車道の延伸など房総半島で高速道路の整備が進むなか、255系の導入で「特急の競争力を高め、マイカーや高速バスに客足を奪われるのをできるだけ食い止める狙いがあった」(元JR東日本役員)と言います。

 255系は当初、「ビュー」を冠した「ビューさざなみ」と「ビューわかしお」の特急名で運転されました。しかし、1編成が5両のE257系500番台が導入された後の2005年に特急名から「ビュー」を外すとともに、255系は「しおさい」でも運用されるようになりました。

 元役員は当時を「東京アクアラインや高速道路延伸によるマイカーや高速バスへの乗客流出が想定より大きく、9両編成の255系はもてあますようになった」と振り返ります。

 JR東日本は2024年に「さざなみ」と「わかしお」の定期列車をE257系500番台、「しおさい」を6両編成のE259系にそれぞれ統一。「老朽化して傷みも出ている」(関係者)という255系は「お役御免」になり、一部の編成は廃車に追い込まれました。

一瞬で埋まった「残念なグリーン車」

 にもかかわらず、なぜ255系は2025年5月に復活したのでしょうか。

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255系のグリーン車の側面表示(大塚圭一郎撮影)

 筆者が複数のJR東日本関係者に話を聴いたところ「特急車両が足りていない」ことが背景にあり、多客期の移動需要に対応するために9両編成の255系を“動員”したそうです。

 運行した列車には予約が殺到してほぼ満席となり、なかでも「真っ先に予約が埋まったのはグリーン車だった」と言います。255系の4号車のグリーン車は「普通席のようなグリーン車」と揶揄されていただけに、意外に受け止める向きもありました。

 255系は普通車の座席こそ肉厚のクッションで、優れた座り心地です。これに対し、グリーン車の座席は普通車と見た目が大差なく、通路を挟んで2席ずつあるのも変わりません。細かく見れば、座席の前後間隔が1160mmと普通車より190mm長く、普通車にはない座席間の肘掛けがあり、立派な足置き「フットレス」も備えている点は優位なものの、普通車の足元にも棒状の「フットレストバー」があります。

 それでも、255系のグリーン車にはユニークな特徴があるだけに、乗っておきたい心理が働くのはよく理解できます。筆者もグリーン車を予約したかったものの、取れずに普通車にしたクチです。

 255系のグリーン車は座席幅を広げる工夫として、座席を回すのに「偏心回転機構」という珍しい仕組みを採用。

回転させる時には、座席を通路側に動かしてから回すという変わった操作が求められます。

 また、頭上の荷物棚はふたが付いていないものの、旅客機のそれと似た形状です。ふたがないことにより、天井の照明が発する光が車内に注ぎやすくなっています。

 そして、面白いのはグリーン車の中央部で仕切っているアクリル製のパーティションです。かつてはパーティションを境に禁煙室と喫煙室を分ける「分煙」を採り入れていました。もっとも、通路の部分が空いているため、喫煙室が運用されていた時代に隣接する禁煙室に乗った人は「たばこの煙が入ってくる受動喫煙があった」と証言します。2005年には全車禁煙になりました。

普段入らないホームに入線!? やってきたのは…!

 5月3日に255系で運行された銚子発東京行きの「しおさい」82号は、次の停車駅である総武本線飯岡駅で行き違いのため、特急列車が原則として入線しない2番線に。1番線には東京発銚子行きのE259系(特急「成田エクスプレス」にも用いている車両)で運行する臨時「しおさい」83号が停車し、新旧車両が並ぶなど沿線は大賑わいでした。

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銚子駅の案内表示装置。特急「しおさい」82号に255系が充当された(大塚圭一郎撮影)

 5月の電撃的な復活劇で人気の高さを改めて示した255系ですが、再び登場する機会はあるのでしょうか。筆者が取材したところ、255系が活躍したメーンステージの残る一つにも“降臨”する可能性があることが分かりました。

 関係者によると、夏休みの最も混雑するお盆期間の2025年8月11日(月)「山の日」に、外房線を通る特急「わかしお」(東京―安房鴨川)で255系を運行する方向で検討しているそうです。状況次第では運用が変わる可能性もありますが、再び登場すれば夏にふさわしい“熱視線”を浴びるのは間違いなさそうです。

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