沖縄本島の空の玄関口である那覇空港で、ターミナル前の高架道路が延伸されました。年間2000万人を超える利用客による空港での“送り迎え”の混雑緩和が期待されていますが、抜本的な問題解決にはまだまだ時間がかかりそうです。

過去最高の利用客数で顕著になった混雑

 沖縄本島の空の玄関口、「那覇空港」のターミナル前高架道路の延伸工事が完了し、2025年6月15日(日)より供用が始まりました。空港の混雑問題の“切り札”の一つができたことで、どう変化したでしょうか。

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国内線出発ロビーに直結した高架道路の車寄せ。外側の車線では到着客を待つクルマの駐車が常態化している(植村祐介撮影)

 沖縄本島への渡航は、事実上そのほぼすべてが、沖縄本島にある飛行場で唯一民間機が離着陸できる那覇空港への空路に委ねられています。乗降客数(国際線、国内線合計)は、2016年度に2000万人を超えたあと、コロナ禍でいったんは落ち込んだものの、2024年度には約2165万人と、年度別で過去最高を記録しました。国内線は過去最多、国際線もコロナ禍前のピーク時の約8割まで回復しています。

 こうした乗降客の増加で顕著になったのが、那覇空港内道路の混雑です。

 那覇空港の「国内線ターミナル」には到着階となる1階だけでなく、出発階となる3階にも高架道路の車寄せがあります。しかしその高架道路は、国内線ターミナルの北側に隣接し、2019年以降に大幅な増改築が行われた「国際線ターミナル」にはつながらず、その手前でスロープを経由して地上レベルに降りていました。

 那覇空港では、空港に送迎するクルマの駐車場利用を促すため、30分までの駐車場利用が無料となっています。しかしそもそもP1~P3合計で2472台という駐車場の収容台数が需要に対して不足気味で、すべてが満車になることもしばしばです。

 そのため駐車場が満車の際は、国内線利用者だけでなく、国際線利用者を送迎するクルマも国内線ターミナル側の車寄せに集まることになり、国際線利用者の増加とともに、混雑が顕著になっていました。

 また駐車場の空きを探して走り続けるクルマ、さらには時間調整や到着待ちのため路上駐車するクルマもいて、空港周回道路にも混雑の影響が広がっていました。

高架道路の延伸で「国内線と国際線の送迎を分離」

 今回の工事では、高架道路を国際線ターミナル前まで延伸し、国内線出発ロビー利用客と、バスやタクシーを利用する国際線出発ロビー利用客の送迎を分離します。また国際線ターミナル手前にある従来のスロープを廃止し、新たに国際線ターミナルの北端を過ぎたところにスロープを新設しています。

年間2000万人空港「送迎車で大混雑問題」緩和なるか? 那覇空港の「高架道路」延伸でどう変わる まだまだ続く“機能強化”
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写真右奥が従来使われていた地上レベルに降りるスロープ(植村祐介撮影)

 その先の地上部では、これまでP3の北でバスプールをへだてて立地する空港関係者駐車場を回り込むように通っていた空港内周回道路の位置を変更、さらに大きく北側に迂回するよう改めました。

 これは空港出口にある交差点で「うみそらトンネル」から「西海岸道路」につながる国道58号に向かうクルマ、国道332号で那覇市街南部に向かうクルマの信号待ちと周回道路を使うクルマとを切り離し、渋滞の緩和を目指すものと考えられます。

 事業を担当する内閣府沖縄総合事務局では、今後も延伸された高架道路の拡幅事業を進め、さらなる混雑の緩和、利便性の向上を図っていくとしています。

渋滞解消はまだまだ遠い!

 ただ今回の延伸工事の完成、そして今後の拡幅事業だけでは、那覇空港が抱える道路の混雑という課題を根本的に解決するのは難しいのではないかと思われます。その理由は、高架道路の完成にはまだ時間がかかること、そして駐車場の絶対数が不足していることです。

 そもそも沖縄県は日本でも有数のクルマ社会であり、ゆいレール(沖縄都市モノレール)の路線でカバーできるエリアは那覇市および浦添市の一部でしかありません。また中距離バスが沖縄本島中部および北部の都市を結んでいますが、それら都市でもバス停やバスターミナルに徒歩でアクセスできるのは限られたエリアの住民だけです。

 こうした事情から、空港を利用する地元住民は、どうしてもクルマを使ってのアクセスに頼ってしまうのです。先に述べたように、那覇空港には2500台近い駐車場がありますが、その需要を十分に満たせていない状況です。

 そして新たに完成した高架道路はまだ「一部完成」の状態で、一般者用の車寄せはなく、その整備は今後の拡幅に委ねられています。そのため国内線ターミナル前の車寄せに一般車が集中する構図は変わりません。

 ターミナル前の混雑を根本的に解決するには、駐車場の不足を解消し、送迎用にきちんと機能できることが、不可欠でしょう。

駐車場を増やしてもまだ“足りない?”

 もちろん、空港管理会社も手をこまねいているわけではなく、P2の南側に、1階がバスプール、2階から4階および屋上が一般駐車場となる「新立体駐車場」を建設し、収容台数を約1200台増やす計画が進められています。

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新たな立体駐車場の用地となる南側バスプール。左に見えるP2は、新立体駐車場完成後に取り壊し、立て直される予定(植村祐介撮影)

 この新駐車場が完成すれば、送迎にかかわる混雑はいったん解決するかに思えます。しかし、この新駐車場の建設は2027年2月末までを工期とする第1期ののち、P2を解体し、新たな駐車場ビルを建設する第2期工事も予定されています。そのため、最終的に増設分の駐車台数が100%有効活用されるのは、第2期工事が終わる5~6年先となりそうです。

 那覇空港では、空港ターミナル付近の交通混雑だけではなく、空港から南東方面に進んだところにある「安次嶺」交差点や「赤嶺」交差点での各方向の渋滞も深刻で、豊見城市方面にあるレンタカー営業所までのわずか7kmほどの移動に30分以上かかることも珍しくありません。

 この渋滞の対策として現在、那覇空港道の起点である名嘉地IC(工事にともない現在閉鎖中)から、高架とトンネルで那覇空港までを直結する「小禄道路」の建設が進められています。こちらは2024年3月末時点で予算ベースの事業進捗率が約81% というところまできています。

 那覇空港のターミナル前の道路や駐車場の混雑、周辺道路の渋滞など、クルマでのアクセスにかかわる課題が完全に解決するのは、この小禄道路の完成後になるのかもしれません。

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