ジョルジェット・ジウジアーロがデザインしたスズキ・RE-5という500ccモデル。一見普通のネイキッドバイクに見えますが、よく見るとヘッドライト上部には「茶筒」のような謎の物体が。

このモデルの正体とはいかなるものなのでしょうか。

「未来のエンジン」として注目を浴びたロータリーエンジン

 様々な名プロダクトをデザインしてきたイタリアの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ氏。乗りものの世界では、数多くの名車を生み出したことでよく知られていますが、実はかつてスズキのバイクのデザインも担当していたことがあります。それが1974年末に登場した500ccモデル「スズキ・RE-5」です。

「イタリアの巨匠」が考案し「スズキ」が発売した「ロータリーエ...の画像はこちら >>

独創的なデザインで、特にスズキファンの間ではよく知られるジウジアーロ考案のスズキ・RE-5(1974年)(画像:スズキ)

 かなり遠目にチラリと見れば、普通のネイキッドバイクにも見えます。ところが、よく見ればエッジの効いたタンクやサイドカバーなど、随所に独創的なデザインが光ります。

 さらに目を引くのが、ヘッドライト上部に取り付けられた「茶筒」のような謎の物体。テールランプも「茶筒」的で、ウインカーはまるで「カプセルトイ」のようでもあります。これは一体どんなバイクなのでしょうか。

 1970年、スズキは西ドイツのNSU・バンケル社と、ロータリーエンジンに関する特許契約を締結しました。ロータリーエンジンとは、往復動機構をもつ一般的なレシプロエンジンではなく、「おにぎり」のような三角形のローターを回転させることで動力を得るという、まったく別のメカニズムを持つエンジンです。

 日本の自動車業界では、1967年のマツダ・コスモスポーツを皮切りにトヨタ、日産といった大手メーカーも1970年初頭にはロータリーエンジン搭載車を打ち出すなど、この時代に「未来のエンジン」として特に注目を浴びました。

やがて総合的な性能面ではレシプロエンジンに劣ることがわかり、多くのメーカーが不採用としましたが、マツダだけは今日までロータリーエンジンの開発に燃えています。

 スズキがNSU・バンケル社と特許契約を結んだ1970年頃は、ロータリーエンジンの真価がまだはっきりと分からなかったこともあり、大きな期待を込めて「ロータリーエンジン搭載のバイク開発」に取り組むことになりました。

 その結果、約3年の開発期間を経て完成したのが、1974年末にリリースされた500ccモデル「RE-5」です。搭載されたエンジンは、水冷・単ローター式の497ccロータリーエンジンで、最高出力62PSを発生。バイクの分野では、他社に先駆け完成させたロータリーエンジン搭載モデルでしたが、結果的には日本の型式認定を取得できず、輸出専用車となりました。

「茶筒」はパカっと開く

「『未来のエンジン』を搭載したバイクなのだから」という思いがあったのでしょう、RE-5のデザインは、プロダクトデザインの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロに依頼されました。ジウジアーロもノリノリだったのか、RE-5ならではの斬新な機能を持たせました。

 冒頭で触れた「茶筒」状のメーターハウジングは、メインキーをオンにすると、パカっと開く仕組み。閉じる際は手動ですが、内部には速度計と回転計、発光ダイオード採用のインジケーターや水温計が配列されています。

「大事な計器類だから茶筒の中に……」という理由だったのかどうかはさておき、なかなかにスペイシーな意匠のメーターボックスです。おそらくはメーターと対になるようにテールランプもデザインされ、それに合わせて、「カプセルトイ」風のウインカーも考案したのではないか、と筆者は推測しています。

「未来のエンジン」を搭載し、先鋭的なデザインを備えたRE-5は、輸出先の各国で高い評価を受けました。

しかし、発売の前々年1973年に起きたオイルショックの影響を強く受けることとなります。

 ロータリーエンジンは、回転が滑らかでスムーズな加速が特徴でしたが、燃費の悪さが難点でした。そこへオイルショックが重なり、輸出台数での販売は低迷。結果として、販売開始から約2年で生産・販売が打ち切られることになりました。販売台数はわずか6000台ほどだったとされています。

わずかに残る中古車は400万円オーバーの高値

 商業的には失敗となったRE-5ですが、スズキがこのバイクにかけた開発・研究は決して無駄ではなく、後のスズキにおけるエンジンづくりに大きな影響を与えたとも言われています。

 また、結果的にロータリーエンジン搭載の日本製バイクはこのRE-5のみとなり、ジウジアーロによる独創的なデザインと合わせて、今なお語り継がれる1台となっています。

 日本国内での現存数は非常に少なく、まさに珍車中の珍車ですが、わずかに中古車が出回っており、その価格は400万円を超えることも。幻のモデルゆえの高額ぶりですが、もし機会があれば、あの「茶筒」をパカっと開けて、ロータリーエンジンならではの乗り味を体感してみたいものです。

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