日本郵便で使用中のホンダ電動バイクで火災が短期間に各地で発生。日本郵便の業務にとっても、同社を第一の顧客としてバイクの電動化を推進してきたホンダにとっても、大きな痛手となりそうです。
日本郵便で使用しているホンダの電動バイクが走行中や停車中に、各地で燃えました。郵便物への影響はありませんでしたが、そのうちの1件では車庫に駐車したバイク28台が建屋とともに燃焼。トラック便の業務取消と夏の繁忙期でバイク配達の負担が重くなった日本郵便にとって、さらなる対応に苦慮する事態となりました。原因はリチウムイオンバッテリーの発火にあるとみられています。
郵便バイクにも使われているホンダの電動バイク「ベンリィe:」シリーズ。一部リコールも出ている(乗りものニュース編集部撮影)
日本郵便が使用する電動バイクは、2019年からホンダが投入したビジネスバイク「ベンリィe:」シリーズです。国内市場における先駆けであり、バイク電動化の最も現実的な解決策として、同社が推進した交換バッテリー方式の車両でした。バッテリーの規格を統一し、使用済みバッテリーと充電済みバッテリーを乾電池のように交換することで、充電時間を気にせず再び走りだすことができるのが最大の特徴です。
郵便物の集配で使う電動バイクで起きた3件の車両火災は、この交換式バッテリーに不具合があったことで起きたと考えられ、今も調査が進んでいます。
最初に起きたのは2025年6月4日、福岡市の筑紫局所属の配達中車両でした。配達員への人的被害、郵便物への延焼がなかったことから、消防とともにホンダが現地調査を実施。日本郵便の五味儀裕執行役員は、次のような説明を得たと話します。
「6月30日の時点で、ホンダさんから回答をいただき、バッテリー交換を実施すれば使用停止の必要はない、という説明でした」
ただ、その後も火災が続きます。2件目の火災は7月8日夕方、熊本市の熊本中央局で同じく配達中に起きた火災でした。
さらに、火災は停車中の車両からも発生しました。熊本中央局の翌日の8日朝、神奈川県寒川町の寒川局で配達前に車庫へ駐車した電動バイクの1台から出火。停めてあったガソリン車と電動車あわせてバイク28台と建屋が全焼しました。
郵便局が使用する電動バイクは、原付免許仕様と自動二輪免許仕様がありますが、この3件の火災に該当する車両がどちらかはわかっていません。いずれも交換式バッテリー2本を搭載しています。
ホンダの「肝いりバッテリー」から出火 交換対応を急ぐホンダの電動バイクは2019年から市販していますが、発火はバッテリー性能を向上させた「モバイルパワーパックe:」の2021年製と2020年製で起きています。設計変更を行った2023年以降は起きていません。

ホンダの電動バイクは交換式バッテリーが売り。これが発火したと見られている(画像:ホンダ)
それでも該当する交換式バッテリーは、2021年製で4688本(約2300台相当)、2022年製で9693本(約4800台相当)あり、625局の車両で使用を停止しました。
ホンダは交換対応について、次のように説明しています。
「対象となるモバイルパワーバック対策品への交換対応は6月30日届出分の無償交換、7月16日届出分のリコールともに、7月17日現在、日本郵便への対策品の納品は完了し、速やかに交換対応を進めていただいています。日本郵便以外に向けた対策品ついても必要数の準備は整い、送り込みを開始している段階です」
「業務停止処分」の日本郵便に手痛い負担点呼不正によるトラック運送事業の業務取消を受けた日本郵便では、6月19日以降、荷物配送の一部を自社の軽四輪車とバイクに振り向けて対応しています。車両火災はこの途上で起きていました。
「参院選の選挙郵便、中元などもあり稼働率の高い状態でこういうことが起きた。一報を受けた時も非常に困ったなというのが印象だったが、そこに目をつぶって使い続けるというわけにはいかない。危険性のあるものは止めるということで、極力ダメージを少なくすることで一生懸命やってきた。速達、書留、選挙郵便などの重要郵便を優先して配達する中で、(電動バイクの稼働が集中している局の)一般郵便で1日の遅れが出たところもあるが、現在は解消している」(前出・五味執行役員)
ただ、交換バッテリー以外にも、電動車の不具合は発生しています。7月17日、ホンダは「ベンリィe:II MD」など6車種のワイヤーハーネス不具合についてリコールを届け出ました。前照灯、方向指示器、速度計の作動不良や走行不能に陥る可能性があるとします。
ホンダと日本郵便、二人三脚で進めてきたバイク電動化ベンリィe:はスーパーカブに代わってビジネスバイクの主力となるモデルで、MDとつくのはその郵便配達仕様です。日本郵便もホンダに対して対応を要請しました。対象約2万台に対して、点検と必要な対策を講じるように求めています。

2019年当時、日本郵便を第一顧客に迎えたホンダは、共同で会見を行っている。「e:」マークのない2019年、2020年のモバイルパワーパックには不具合はない(中島みなみ撮影)
「直ちに使用を停止するということは考えていません。我々としても必要な修理点検を求めていきますが、使用継続そのものに直ちに懸念があるという状況とは考えていません」(前出・五味執行役員)
ホンダも対応を急ぎます。
「全車両、メインハーネスの損傷を点検し保護材(グロメット等)を追加します。また、メインハーネスが損傷している場合は対策品と交換します。2025年9月頃を予定しており、早急に部品交換ができるよう準備を進めています」
ビジネスバイクの電動化を進める上で、ホンダは日本郵便を第一の顧客として慎重に市場投入を図ってきました。法人限定からスタートし、一般向け自動二輪免許仕様のラインナップも揃い、小排気量モデルの電動化に踏み出した矢先の相次ぐ車両火災。影響は決して小さくありません。