大阪から東京への移動手段といえば、東海道新幹線や航空機、夜行・昼行の高速バスなどが挙げられますが、実は「夜行列車」も選択肢に入ります。寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の上り便は、まさに関西-東京の夜行バスのような利用ができるのです。
下りの「サンライズ瀬戸・出雲」は、浜松から姫路まで無停車なので、このような利用はできません。対して上りは、三ノ宮駅を0時11分、大阪駅を0時33分にそれぞれ出発し、終点の東京駅には7時8分に到着します。
三宮発の夜行バス最終便は京王バスの23時10分発(東京駅日本橋口7時29分着)、大阪発はオリオンバスやさくら高速バスなどの23時40分発(バスタ新宿7時50分着)ですから、夜行バスの最終便よりも「遅く出発し、早く到着」するダイヤです。翌朝の新大阪発の東海道新幹線だと、最も早くて東京8時23分着ですから、東京でより早朝から動ける手段としても便利です。
運賃と料金の合計は、最安の「ノビノビ座席」が1万2400円、ポピュラーなB個室寝台「シングル」が1万9570円、最も高いA個室寝台「シングルデラックス」が2万5850円(いずれも通常期)です。
ちなみに新幹線の普通車指定席は1万4720円、グリーン車だと1万9390円(いずれも通常期)です。「サンライズ」の個室寝台が、新幹線のグリーン車並みの代金で利用できるということです。東海道新幹線に「グランクラス」はありませんが、今度設置されるグリーン個室が「グランクラス」並みであれば、A個室寝台と新幹線個室が同等の料金になるでしょう。
ちなみに、タクシーを除いた最も高い公共交通機関は、航空機のファーストクラスの割引なしで4万8090円です。割引を使ってもファーストクラスは、「シングルデラックス」を上回ります。
「シングルデラックス」で味わう至福の夜行体験というわけで、関西圏から「サンライズ瀬戸・出雲」がどの程度利用されているのか、実際に乗ってみました。7月の土曜、深夜0時を過ぎているにもかかわらず、大阪駅11番線には70人以上の乗客が待っていました。
大阪駅11番線に停車した寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」(安藤昌季撮影)
これまでに大阪駅から乗車した際は10~20人程度だったので、あまりの盛況に驚かされました。ちなみに臨時の上り「サンライズ出雲92号」は大阪22時29分発(東京6時23分着)ですが、0時台でこの盛況なら、多客期に大阪発で設定しても満席になりそうです(車両の老朽化による故障の懸念もあるので難しいでしょうが)。
さて今回は、「シングルデラックス」を利用します。「シングル」より6280円も高い最高級設備ですが、翌朝の早朝から仕事があったため、迷わずA寝台を選びました。大抵は満席で選べませんが、e5489をこまめにチェックしていると、直前にキャンセルが出ることがたまにあります。
A寝台の利点は、「身だしなみが車内で整えやすい」ことです。車内検札時に車掌から渡されるアメニティセットには、シャワーカード、タオル、歯ブラシ、歯磨き粉、ひげ剃り、シェービングフォームが含まれており、どれも重宝します。個室内には洗面台と使い捨てコップもあるため、寝る前に歯を磨いたり、ひげを剃ったりできるのです。これは大阪-東京で競合する他の交通機関では不可能でしょう。
また、乗車が大阪からだと、車内ラウンジでシャワーカードを買うのはほぼ不可能です。しかしA寝台ならカードが付いてくるため、途中駅から乗ってもシャワーを利用できるわけです。
また、「シングルデラックス」の利点として「机が広くてノートパソコンでも作業可能」なことも挙げられます。さらに寝台車として「寝心地が良い」ことも大切です。寝台幅はB寝台より15cm広い85cm。掛け布団は羽毛布団で心地良いことは、乗り比べると差を感じる部分です。
寝ながら湾曲した側窓越しに流れる星空を眺めたり、個室内の電気を消して夜の街並みを眺める時間は、「サンライズ」ならではの魅力で、それを楽しむ乗客が多いからこその、高い乗車率なのでしょう。
人気の「サンライズ」、本当に末端会社は「儲からない」のか?電気を消して横になると、寝入ってしまい、目覚めたときには、列車は神奈川県の茅ケ崎駅付近を走っていました。隣の車両のラウンジに行き、自動販売機で缶コーヒーを購入します。自動販売機のある列車が大きく減ったこともあり、今やこれも貴重な体験です。
窓向き座席ですれ違う列車を眺めつつ、冷たいモーニングコーヒーというのは贅沢な時間です。
本当に「あっという間」に7時8分、東京駅に到着。先頭車両では、記念撮影する親子連れの姿が多数見られました。
余談ですが「サンライズは末端区間のJR東日本やJR四国は運行距離が短いので、利益が少ない」とよくいわれています。この点については、誤解もあるようです。「きっぷを売った会社が総額の5%を発券手数料として受け取り、残りを各社の運行キロ数に比例して分配する」というルールがあるためです。
例えば、JR四国の高松駅で「サンライズ瀬戸」の「シングルデラックス」を予約購入した場合、運賃+料金合計の2万8930円のうち、5%の1446円がまずJR四国に入り、残りの2万7484円を「JR東日本13%(3573円)、JR東海42.4%(1万1653円)、JR西日本39.1%(1万746円)、JR四国5.5%(1512円)」の割合で分配されていると考えられます。
この場合、JR四国が得る金額は「1446+1512=2958円」ということになります。他のJRの窓口で同じきっぷを買うと、JR四国に入る金額は2万8930円の5.5%、つまり1591円ですから、ずいぶん変わってくるわけです。
東京や横浜からの乗車が多い下り「サンライズ」も、JR東日本の窓口で予約した場合は、同様の計算となります。なお、インターネット予約「e5489」で予約し、東京駅のJR東海券売機で購入すれば「他のJR」扱いです。こうしてみると、末端区間のJRが一方的に利益を得られないということはないように思われます。
1日でも長く走り続けてほしいと願うとともに、後継車両の登場にも期待したいものです。