新宿駅西口で2025年9月27日、大規模な道路切り替えが行われる予定です。駅前広場に歩行者空間を整備するため、駅前の南北を自動車が通り抜けできなくなります。
このように車道を縮小するなどして歩行者空間を整備する動きは全国で相次いでいます。今まで便利に自動車で通行できていた道路を、なぜわざわざ塞いで歩行者空間にするのでしょうか。
大阪の御堂筋は2024年11月に一部の側道2車線が歩道化されました。2037年までには全ての車線を歩道にし、“フルモール化”する計画もあります。2025年4月には東京で首都高と通じる銀座の東京高速道路(KK線)が廃止されましたが、これも今後、高架の歩行者空間となる予定です。こうした動きは国交省も「ウォーカブルなまちづくり」施策によって全国で推進しています。
流れが大きく変わったのは、京都の中心部、四条通が10年をかけて2015年に車道を減らし歩道を広げた件と思えます。地元商店街からの要望があったとはいえ、賛否両論でした。
決め手は、自動車で来る人よりバスで来る人の購買金額が大きいことでした。また、道路を走る自家用車に対して、歩道を歩く歩行者数が圧倒的に多く、少数の自動車利用者と多数の歩行者の間で面積配分が不公平であることも指摘されていました。自動車は占有面積が大きく、人の密度も下がってしまうので、来店者数にも影響するのです。
実は、歩くことで商いが繁盛する原理はすでに実証されています。一番わかりやすいのは郊外のショッピングモールです。
自動車利用者を相手に商売をしているのですから、全てドライブスルーにすれば便利なはずです。しかし実際は、駐車場にクルマを停めさせて、広大な施設内を歩かせます。歩いてお店に入り商品を見たり触れたり、買っている他の人を見たりして、購買意欲が高まるのです。楽しく快適に歩けて、ベンチで休みカフェで一服できれば、歩くことは苦になりません。
そう考えると、東京の賑わっている商店街はクルマが入りづらく歩行者が道に溢れていることに気付きます。東京では吉祥寺、戸越銀座、下北沢などが挙げられます。賑わう商店街は歩くと楽しい街なのです。
車道を狭めて「商店街復活」いったんは自動車中心になって寂れた商店街が、歩行者中心になって劇的に賑わいが復活した例もあります。出雲大社前の神前通りです。大社付近まで乗り入れていたJR大社線の廃止(1990年)や、拝殿横に観光バスの駐車場が作られたことで導線が変わり、門前町が衰退してしまいました。
まもなくクルマによる南北の通り抜けが不可になる新宿駅西口(乗りものニュース編集部撮影)
そこで賑わいを取り戻そうと、拝殿横の駐車場を廃止し、車道を狭め歩行者空間を広げたのです。結果は劇的でした。観光客数は年間200万人から600万人台へ増加し、市内の宿泊客数も40万人から60万人へと増加。店舗も増え雇用も創られ地価も上昇するなど、活気と賑わいが回復したのです。
この成功には、民間団体「神門通り甦りの会」が主体的に道づくりワークショップや、実際に車道を狭め歩道を広げる交通社会実験をして、バスが安全に通過できることなども体験し、丁寧な合意形成を進め、その過程で住民の参加意識も高まり景観整備などへの協力も進んだようです。住民と民間事業者の積極的な関与が成功の鍵でした。
高速道路も剥ぎ取って公園に自動車王国の米国ではもっと劇的なことが起きています。オレゴン州ポートランドでは高速道路の建設をやめて、その資金をライトレール(LRT)やトランジットモール(公共交通と歩行者が共存する商店街)の建設に充てたほか、ついには高速道路を撤去して水辺の公園にしてしまったのです。1970年代のことです。
研究によると、歩きやすさの指標であるウォークスコアが1ポイント上がると住宅価値が700ドルから3000ドルに上昇し、ウォーカブルな都市づくりが不動産価値を向上させることが証明されています。
さらに、ポートランドにおける鉄道の廃線跡を歩行者と自転車の緑道にしたグリーンループの建設では、集合住宅の価値が6.46%から7.96%増加し、スーパーやレストランの売上が増え、インフラ投資が建設・建築・エンジニアリングなどの雇用を創出し、徒歩圏内のオフィス賃料は74%上昇。ウォーカブルな質の高い都市環境が、単なる美化ではなく、不動産市場を動かし、企業や優秀な人材を惹きつけ、都市の競争力を高める、経済戦略の重要な柱であることが示唆されています。
この取り組みの際、居住者・就労者・土地所有者からなる組合(ネイバーフッド・アソシエーション)が組織され、合意形成と意識の醸成が図られています。こうしてポートランドは一時、「全米一住みやすい街」としてランクされました。ただその後、コロナ禍とその最中に起きた暴動により、街の治安や風紀が悪化してしまったことは惜しまれます。
「ホコ天」とは違うの?こうした取り組みを見ると、ウォーカブルとは単に道路からクルマを追い出すということではなく、経済効果と共に、都市に住み働く人々の「快適性」や「創造性」を醸成する狙いが見えてきます。しかし、注意も必要です。

アメリカ、ポートランドのLRT(画像:PIXTA)
1970年代の日本は、交通戦争と言われるほど交通事故が増え、安全対策として歩行者が増える休日に歩行者天国が各地で行われました。この時は、交通規制で道路からクルマを締め出したのですが、車道を歩く開放感から大きな賑わいも生まれた反面、騒音やごみ処理や風紀の乱れなどの課題も発生。住民が反発し、歩行者天国は次第に縮小していきました。
このような反省から、ウォーカブルな都市づくりには合意形成と住民参画が重視されています。自分のまちを行政と協力して一緒に良くしていこうという考えです。
滋賀県では市民団体の「やさしい交通しが」が交通まちづくりの理解を広めるなど、市民による動きも出ています。これには時間もかかります。
「道路を整備したけど寂れる一方だ」と感じているのでしたら、ウォーカブルを検討する価値はありそうです。