鉄道分野の優れたデザインに贈られる国際的な賞で、鉄道界のアカデミー賞に相当する「ブルネル賞」の受賞作品がイギリスの首都ロンドンで2025年9月24日(現地時間)、発表されました。JR西日本の長距離列車「WEST EXPRESS 銀河(ウエストエクスプレス ぎんが)」と、架線から取り込んだ電気を蓄電池に充電し、その電力で非電化区間を走ることができるJR九州の「DENCHA(デンチャ)」BEC819系がそれぞれ優秀賞を受けるなど、日本勢が多く受賞しました。
【まだまだある!】これが「鉄道界のアカデミー賞」授賞作たちです(写真)
部門は鉄道車両、駅舎、工業製品・グラフィックデザイン、技術インフラ・環境の4部門があり、特に優秀なものに「優秀賞」を、優れたものに「奨励賞」、さらに「審査員賞」を贈っています。注目度が特に高い鉄道車両を見ると、受賞した日本の車両には「共通点」がありました。
ブルネル賞は世界の鉄道関連のデザイナー、建築家によって構成されるワトフォード・グループが主催し、イギリスのグレート・ウエスタン鉄道の車両や施設を設計した技術者のイザムバード・キングダム・ブルネルの名字を取って1985年に創設されました。以来、通常は2―4年ごとに1度の頻度で贈られてきました。
資金不足などを受けて2014年の開催後は途切れていましたが、2025年に第13回が開催されました。蒸気機関車(SL)が牽引する旅客列車が初めて運行された近代鉄道の誕生から25年9月27日で200年の節目を迎えることを受け、11年ぶりに復活しました。
「新快速」電車のリユースが「優秀賞」に車両部門で優秀賞を受賞したウエストエクスプレス銀河は、美しい海や空をイメージした瑠璃紺色の外観が特色で、2020年に運行開始。国鉄時代の1979年に京阪神を結ぶ「新快速」として運用が始まった通勤形電車117系を改造した6両編成で、時期によって異なるJR西日本管内の電化区間を走ります。
ともにグリーン車で夜行運転時には座席をベッドのように転換できる「プレミアルーム」と「ファーストシート」、いずれも普通車で寝台列車の2段ベッドのような「クシェット」、背もたれが大きく倒れる座席「リクライニングシート」、家族らの利用を想定した半個室「ファミリーキャビン」と5種類あります。テーブルやいすを設け、利用者が自由にくつろげる「フリースペース」も充実しているのが特色です。
ブルネル賞の審査員は、ウエストエクスプレス銀河の革新性と本質、鉄道デザインの未来への貢献を高く評価しました。
手掛けた車両が「ダブル受賞」 デザイナー語るウエストエクスプレス銀河のデザインを担当したのはイチバンセン一級建築士事務所代表取締役の川西康之氏です。
上越妙高―糸魚川間を走る雪月花は2両編成のディーゼル車両で、窓の横幅は2.3mと鉄道車両として国内最大級です。新潟県の鉄道車両メーカー、新潟トランシスで製造し、”all made in NIIGATA”(全てが新潟製)を合い言葉に開発。車内には燕三条地域の金属加工品、越後杉、滑りにくく耐水性に優れた新潟県産の瓦を床に敷くなど特産品をふんだんに採用しています。
審査員は雪月花について「非対称で真っ赤な外装、異例と言うべき大きな窓、美しく快適、多様で非常に高品質な内装を備えている」と評価しました。
川西氏は受賞後、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)の取材に対して「私どもがプレゼンを作成・応募した2件のウエストエクスプレス銀河、えちごトキめきリゾート雪月花がそれぞれ優秀賞、奨励賞をいただきました。また審査員コメントからも丁寧にコンセプトを読み取っていただき、ありがたく、大変うれしく思っております」との感想を寄せました。
前回も「優秀賞」だったデザイナーもう一つの優秀賞を受けたJR九州のデンチャは2016年に営業運転を開始。2両編成で、外観は白色をベースに客室の両開き扉は地球をイメージした青色で装飾しています。客室内の座席は青色を基調にしたファブリックと木材を組み合わせ、座席両端の袖仕切りは伝統工芸の「組子」をモチーフにしたデザインです。
2025年ブルネル賞「優秀賞」を授賞したJR九州の「DENCHA(デンチャ)」BEC819系(大塚圭一郎撮影)
水戸岡鋭治氏が率いるドーンデザイン研究所が担当。同じく水戸岡氏が手がけたJR九州の豪華寝台列車「ななつ星in九州」も、前回2014年のブルネル賞優秀賞を受けています。
今回の奨励賞は、JR九州の周遊型観光列車「36ぷらす3」、JR東日本の豪華寝台列車「TRAIN SUITE四季島(トランスイート しきしま)」、JR西日本の豪華寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(トワイライトエクスプレス みずかぜ)」が共同受賞しました。

えちごトキめき鉄道の「えちごトキめきリゾート雪月花」ET122形1000番台(画像:えちごトキめき鉄道)
さて、これらの受賞車両の共通点は、いずれも日本国内の賞に輝いていたことです。
主な受賞歴だけみても、ウエストエクスプレス銀河は2021年度の「グッドデザイン賞ベスト100」および「グッドフォーカス賞(地域社会デザイン)」を、デンチャは17年の鉄道友の会「ブルーリボン賞」、雪月花は同じく17年の鉄道友の会「ローレル賞」と16年の「グッドデザイン賞」、「36ぷらす3」は第20回日本鉄道賞「特別賞」、トランスイート四季島は17年度の「グッドデザイン金賞」、トワイライトエクスプレス瑞風は17年度の「グッドデザイン賞ベスト100」をそれぞれ受けていました。
日本が鉄道大国であることは欧米でも知られており、日本で栄冠に浴したことで“お墨付き”を得てブルネル賞という国際的な舞台に勝ち上がったと言えます。次のブルネル賞に輝く車両も、国内での賞獲りレースが“前哨戦”になりそうです。