秋田・山口の「代役」は超巨大な船だった

 陸上配備の断念から生まれた「イージス・システム搭載艦(ASEV)」。Xなどでは、1番艦の建造が三菱重工長崎造船所で始まった模様が見られます。

【形になってた!】日本初の「イージス・システム搭載艦」模型をいろんな角度からイッキ見!

 一方で、そのサイズやコストから、同艦のことを「令和の戦艦大和」と揶揄する声も上がっています。なぜ、これほど巨大化する必要があったのでしょうか。

 そもそも防衛省は当初、北朝鮮などの弾道ミサイルを24時間365日監視・迎撃するため、秋田県山口県に陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」を置く計画を進めていました。

 しかし、迎撃ミサイルのブースター(推進装置)が演習場外に落下する危険性や、住民への説明不足などが問題となり、2020年に計画は停止となり、事実上の断念に至っています。

 そこで「陸がダメなら海で」という流れで、イージス・アショア用に契約済みだったレーダーやシステムを船に載せることになりました。これがイージス・システム搭載艦の正体です。

 初期の計画案では、基準排水量が2万トンを超えるとされたことから、「令和の戦艦大和」と呼ばれるようになりました。

 その後、コンセプトや設計が修正されたことで、現在の計画(令和6・7年度概算要求)では少し小型化されましたが、それでも既存のイージス艦とは桁違いの大きさを誇ります。

 具体的なスペックを見てみましょう。最新のイージス艦である、まや型護衛艦が全長170m、基準排水量8200トンであるのに対し、イージス・システム搭載艦は全長約190m、基準排水量は約1万2000トンにもなります。

 排水量比でいえば、まや型の約1.5倍です。戦艦「大和」の基準排水量6万5000トンには及びませんが、全長で見れば「大和」の263mに対し、イージス・システム搭載艦は約190mとかなりの存在感を放っています。

 ちなみに、横須賀市で保存・展示されている戦艦「三笠」が、排水量1万5000トン、全長131.7mなので、それに匹敵するサイズ感といえるでしょう。

なぜ巨大化? 理由は「レーダー」と「個室」

 コストも巨額です。令和6年度予算では2隻の建造費として3731億円が計上されており、1隻当たり約1865億円です。

1隻9500億円超! 計画断念が生んだ「令和の戦艦大和」なぜ...の画像はこちら >>

イージス・システム搭載艦の概要(画像:防衛省)

 しかし、搭載するレーダーやミサイルなどの装備品の費用を含めた総コストは、防衛省の試算で2隻約1兆9000億円を超え、1隻当たり約9700億円規模に達するとされています。

 では、なぜこれほど船体を大きくする必要があったのでしょうか。理由は大きく2つあります。

 1つ目は、搭載する超大型レーダー「SPY-7」を安定させるためです。

 このレーダーは本来、陸上のガッチリした地盤に置くことを想定したもので、非常に重く、重心が高くなります。海の上で荒波に揉まれてもレーダーを正確に運用するには、船体を大きくしてドッシリさせ、船の揺れを抑える必要があります。

 2つ目の理由は、意外にも「居住性の向上」です。この船の任務は、長期間、洋上に留まり続けることになります。期間は数週間から数か月単位にも及ぶと想定されています。

 従来の護衛艦は「3段ベッドや2段ベッドが並び複数人部屋」が当たり前でしたが、イージス・システム搭載艦では「全乗組員に個室を与える」方針が打ち出されています。

 プライバシーを確保し、Wi-Fi環境などを整備することで、長期間の任務によるストレスを減らす狙いです。また、これは少子化による自衛隊の人材不足を解消するためのアピールポイントにもなります。

 一方で乗員数は、まや型(約300名)よりも少ない240名程度に抑える計画ですが、それでも“誰が乗るのか”という人手不足の壁は依然として課題です。

 また、どんなにミサイル防衛能力が高くても、巨大な船体は潜水艦の魚雷など水面下からの攻撃には格好の的になるのではないか、というリスクも指摘されています。

 戦艦「大和」は巨砲で敵を倒す「矛(ほこ)」でしたが、イージス・システム搭載艦は日本を守るための「盾(たて)」です。

 「大きすぎて無駄」と言われないよう、その巨体に「国民の安全」という重い荷物を背負って海に出ることになります。

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