レーダーが通じない海中戦! 潜水艦をあぶり出す「音とデータ」

 海上自衛隊横須賀基地(神奈川県横須賀市)で2026年3月12日、就役したばかりの海洋観測艦「あかし」の初入港を歓迎する式典が開かれました。

【写真】間もなく見納め 退役目前「わかさ」と最新「あかし」を見比べ

 横須賀地方総監の八木浩二海将は、逸見岸壁に並んだ乗組員に向けて「『あかし』の名が海上自衛隊の艦艇として復活するのは27年ぶり。

誇りと自信をもって任務にまい進し、新たな歴史を刻んでいくことを期待している」と述べました。

「あかし」は、既存の海洋観測艦「わかさ」の代替として、防衛省の2022(令和4)年度予算で建造が決まりました。同艦は三菱重工業グループの三菱造船が受注し、建造を担当した三菱重工下関造船所(山口県下関市)で3月9日に引き渡されています。

 三菱造船は商船や巡視船、官公庁船の新造を主に担っており、三菱下関で防衛省向けの艦艇が引き渡されるのは敷設艦「むろと」以来、実に13年ぶり。竣工したばかりの「あかし」は三菱下関の従業員らに見送られながら出港し、2日後の3月11日に横須賀基地へ入港しました。

 式典であいさつに立った「あかし」艦長の菅原君和2等海佐は「無事に就役を迎えられたことは、関係者や家族の力添えや支援があったからこそだと思っている。昨日(3月11日)から諸搭載や訓練を開始しており、日々の業務や訓練にまい進することで『あかし』の伝統を築いていきたい」と意気込みを述べています。

 海上自衛隊の海洋観測艦は、潜水艦の行動や対潜水艦戦に活用する海洋情報の収集を目的とした艦艇です。現代の戦いにおいて、海上で敵の侵攻を阻止するためには潜水艦の対策が必要不可欠ですが、海中ではレーダーを使うことはできません。そのため上空や海上から潜水艦を探す際は音波を利用して物体を感知するソナーを使用します。

 しかし、音波は海中で複雑に曲がる性質があるうえ、水温、地形、水深、塩分濃度、潮流といった海洋環境の影響を大きく受けます。潜水艦の位置を特定しようとしても、温度層が異なれば探知が難しくなるため、潜水艦を運用する側からしても、水測状況を知る必要があります。

 そこで出番となるのが、海洋観測艦です。同艦は平時から日本の周辺海域で調査を行い、海洋における作戦環境の把握に必要な水温や塩分濃度、海中雑音、海底地形などの各種データを収集しています。集められた海洋環境データは対潜資料隊でデータの解析が行われ、各司令部や艦艇、航空機と情報を共有します。

さらば昭和の長寿艦! 女性自衛官も活躍する新鋭「あかし」の丸腰スペック

 海上自衛隊は東西冷戦中、性能の向上が著しい潜水艦に対抗するため、海洋データを収集する独自の海洋観測艦の建造を計画。それが、前出の八木総監のスピーチでも出てきた1969(昭和44)年10月竣工の初代「あかし」です。

27年ぶりの復活だ! 海自の新型艦「あかし」武装ゼロの丸腰で...の画像はこちら >>

横須賀基地の逸見岸壁に並ぶ海洋観測艦「あかし」の乗組員(深水千翔撮影)。

「我が国を取り巻く安全保障環境は日を追うごとに厳しさを増しており、諸官が果たす海洋観測任務の重要性もかつてないほど高まっている」(八木総監)

 海洋観測艦は神奈川県横須賀市を母港とする海洋業務・対潜支援群隷下の第1海洋観測隊に配備されており、今後は「にちなん」「しょうなん」と新造の「あかし」の3隻体制になります。ちなみに「あかし」に代わって退役する「わかさ」が竣工したのは1986年(昭和61年)2月。数少ない昭和生まれの海自艦艇でした。

 今回就役した「あかし」の基準排水量は3500トン。全長は約113.7m、幅は約17.8mです。乗組員数は約90人で、女性自衛官は最大12人まで乗艦できます。

建造費は280億円です。任務の性格上、最前線に出ることはまずないため、ミサイルや砲などは搭載していません。

「あかし」は海洋観測任務のため、旋回式推進装置とバウスラスターを装備し、高い操縦性能を確保。水中機器の敷設・揚収機能を強化するとともに、艦上における海洋環境データ処理能力の向上を図りました。基本的な仕様は、2010年3月に三井造船玉野艦船工場(現:三菱重工マリタイムシステムズ)で竣工した「しょうなん」に準じており、官給品や民生品を積極的に活用することにより、建造費やLCC(ライフサイクルコスト)を低減しています。

 三菱重工グループのヤードでは艦艇の竣工が相次いでおり、三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場では3月6日に音響測定艦「びんご」(2900トン)が、三菱重工神戸造船所では3月10日に潜水艦「ちょうげい」(3000トン)がそれぞれ引き渡されました。水上艦隊の発足など海上自衛隊創設以来となる大規模な部隊改編も控えており、既存艦の世代交代と合わせて新しい時代の幕開けを感じる月となりました。

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