ボルボがヘラジカなどの大型動物を検知し、クルマの衝突被害を軽減する機能を世界で初めて実用化しました。わざわざ「大型動物」としたのには、もちろん理由があります。
いまや、新車では当たり前の機能となりつつある先進安全機能。なかでも、衝突事故の回避、被害軽減を図る自動ブレーキシステムは最も重視されるアイテムといえるでしょう。
自動ブレーキシステムの性能や機能の内容は、まさに日進月歩です。そのパイオニアの一社であるボルボは、これに世界初となる「大型動物検知」機能の搭載を始めました。なぜこのような機能が生まれたのでしょうか。
ボルボによる世界初の「大型動物検知」機能。ヘラジカやトナカイ、ウマなどを検知するという(画像:ボルボ)。ボルボの先進安全技術である「インテリセーフ」は、いまでは同社のクルマ全モデルに標準搭載されています。そのなかで自動ブレーキ機能を含む警告・防護システムが「シティセーフティ」です。モデルにより機能の差は多少あるものの、積極的な機能の向上が図られています。2017年、日本に投入されたばかりのフラッグシップカー「S90」「V90」シリーズには、最新世代の「シティセーフティ」を搭載。これまでの検知対象である自動車、人、自転車に加え、新機能として、世界初となる「大型動物検知」を採用しています。
ボルボの「シティセーフティ」における「大型動物検知」機能は、前方にヘラジカなどの大型動物を検知するとまずドライバーに警告し、ドライバーの反応がない場合、自動ブレーキが作動して衝突被害の軽減を図るというものです。この際のブレーキの最大制動力は、通常の最大制動力の30%(0.3G)と設定。このため、クルマの速度が70km/h以上の状況でより効果的とされています。もちろん、夜間の走行時(ライト点灯時)でも作動します。

クルマだけでなく、すでに人や自転車にも対応している「シティセーフティ」に「大型動物検知」が追加されたのは、ボルボの本拠、スウェーデンにおける重傷者発生事故の要因を反映してのもの。なんと事故全体の5%が大型動物との衝突事故によるものなのです。ボルボは2020年までに、同社の新しいクルマによる交通事故での死亡者・重傷者をゼロにする目標「VISION 2020」を掲げて取り組んでいますが、その実現に大型動物への対策はかかせないというわけです。
同機能は「警告もしくは被害軽減」とされていますが、これは事故の実態を反映してのもの。大型動物に衝突した場合、背の高さから事故の衝撃でボンネットに乗り上げてしまうことが多く、その際、キャビンを動物が直撃することやボンネット上の動物が暴れることで、前席の乗員が重傷を負うケースがあるそうです。このため、事故時に「大型動物と人を近づけないこと」が大切なのです。
大型動物との接触事故は、決してスウェーデンに限られたことではなく、自然の多い地域で直面する問題であり、日本も例外ではありません。
北海道でエゾジカとの交通事故は、年間約2000件にも上ります(北海道警察調べ)。現時点では検知対象がヘラジカやトナカイ、ウマなど大型動物であり、それらと比べるとエゾジカは小ぶりのため公式的には「大型動物検知」機能の検知対象としてうたわれていません。しかしながらまだ世界初の機能だけに、地域によるニーズが今後はっきりしていけば、機能の向上と共にその対象が拡大される可能性は十分にあるでしょう。

現在「大型動物検知」機能は、「S90」「V90」「V90クロスカントリー」「XC90」(2017年モデルより)に搭載。これは小型化および高性能化されたボルボの新検知ユニット「ASDM」により実現されたもので、自動運転レベル2を達成した車線維持支援機能「パイロットアシスト」も搭載されています。これらを含む最新世代の「インテリセーフ」搭載車には、15以上の機能を備えており、その中には、今回の大型動物検知機能のように、交通事故の実態を反映した警告・防護機能が積極的に投入されています。