中国軍機に対する空自機のスクランブルが激増するさなか、中国はステルス戦闘機J-20の実戦配備を開始しました。しかし、日本の防空識別圏で同機が目撃されるのは、まだ先になりそうです。
2017年9月28日(木)、中国国防部(国防相)報道局の呉謙報道官は国営新華社通信を通じ、かねてより開発中であった中国国産ステルス戦闘機「殲20(J-20)」の実戦配備を開始したことを明らかにしました。これによって中国はF-22「ラプター」およびF-35「ライトニングII」を擁すアメリカに次いで、世界で2番目にステルス戦闘機の開発に成功させた国となりました。
2016年の「第11回中国国際航空宇宙博覧会」で初披露されたJ-20(画像:Alert5〈Own work〉[CC BY-SA 4.0〈https://goo.gl/E9LQvb〉], via Wikimedia Commons)。
昨今、日本およびその周辺においては新しい世代のステルス戦闘機が続々と誕生しています。J-20実用化公式発表の3日前である9月25日(月)には、航空自衛隊向けのライセンス国産型F-35Aの二号機が初飛行を実施しました。さらにアメリカ海兵隊のF-35BがB-1B戦略爆撃機と共同訓練を行い北朝鮮に圧力をかけており、さらには不定期的にF-22が嘉手納基地に飛来し臨時配備されることが珍しくなくなっています。
さらに東シナ海においては、たびたび中国軍爆撃機H-6、戦闘機Su-30などが沖縄諸島間を通過し太平洋上に出る航路を飛行、航空自衛隊機のスクランブル発進数は激増しつつあります。今後J-20がこれらの代わりに、東シナ海から太平洋に進出してくることはあるでしょうか。
緊張続く東シナ海への投入は…?あくまで推定ではありますが、おそらくいまのところはその心配はないと思われます。その根拠はおもにふたつ存在します。
まず第一に、実用化があまりにも早すぎるということ。J-20の初飛行は2011(平成23)年であり、わずか6年で実用化にこぎつけました。
実際、J-20よりも1年早く初飛行していたロシアのSu-57は、開発遅延からいまだに実戦配備の目途が立っておらず、まだまだ時間が必要であると見られています。F-22やF-35はすでに実用機ではありますが、同様のスケジュール遅延に悩まされていました。米ロの例からも中国だけが特別であることは考えられません。
おそらく2017年現在のJ-20には、十分な作戦を行える能力は無いと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は推測します。航空自衛隊のF-2も2000(平成12)年に実戦部隊配備されましたが、当初はそのレーダー性能などに大きな問題を抱え、アラート待機(スクランブル)を行えるようになったのは2004(平成16)年になってからでした。J-20は現時点での完成度の低さはある程度目をつぶり、まずは運用経験を徐々に重ねつつ、そしてその完成度も高めていくつもりなのではないでしょうか。
もうひとつの理由は「ステルス機であること」?そして第二に、中国の切り札であるステルス戦闘機をめったやたらに表に出すとは考えられないことです。J-20と対峙した側はレーダーの反射波を解析することで、J-20のレーダー反射断面積すなわちレーダーへの「探知されにくさ」を逆算することが可能です。
ゆえにアメリカ空軍においてアラート待機を担うF-22は、レーダーリフレクター(反射器)や外部タンクを搭載し、わざとレーダーに発見されやすくした状態でスクランブル発進させており、またF-35においてもレーダーリフレクターを装着した状態の写真が多く公開されています。仮にJ-20を日本へ接近する飛行に投入する場合、レーダーリフレクターの装着など同じような対策がおこなわれるでしょう。
以上の理由からJ-20は、少なくとも当面は東シナ海に出てくるとは考えにくく、また仮に日本の防空識別圏内に進入したとしても、意図的にステルス性能を落とした状態となるでしょう。
中国の航空・軍事分野における貪欲な向上心と潤沢な投資額は恐ろしい水準にありますが、J-20の熟成にはまだまだ時間が足りないのが実情であり、真の意味で実戦が可能になるのは当分先と考えられます。
【写真】ステルス性能をカムフラージュ? F-22の場合

F-22「ラプター」はステルス機であるが、通常レーダーリフレクター(中央部にある円形の出っ張り)を装着している(関 賢太郎撮影)。