船に家を載せたかのような特異な外観のクルーズ船「ガンツウ」が瀬戸内海に就航。船内施設や旅の内容も、従来のクルーズ船とは全く異なるものだといいます。
瀬戸内海で、切妻屋根の家が載ったような、特異な外観の船が航行しています。
せとうちクルーズの「ガンツウ」(画像:せとうちクルーズ)。
これは、2017年10月17日(金)に就航した、せとうちクルーズ(広島県尾道市)の「ガンツウ」という船。「『マンションを運んでいるのですか』ともいわれ、海の上で出会って驚かれる方もいます」(せとうちクルーズ)といいますが、実はこれ、クルーズ船です。同社に詳しく話を聞きました。
――「ガンツウ」はどのような船なのでしょうか?
「せとうちの海に浮かぶ、ちいさな宿」がコンセプトで、瀬戸内の良さを活かすために、船としてどうあるべきかを考えてデザインしました。屋根は、屋根瓦の集落が多い瀬戸内の景観に合わせて造ったもので、シルバーの船体色は、海と空の色を反射してカラーが変わり、船体が瀬戸内海と一体に見えるようになっています。船の大きさも、瀬戸内の狭い海域を通るのにちょうどいいサイズ感です。
――船内は何があるのでしょうか?
客室やダイニング、ラウンジ、鮨カウンター、カフェバー、トレーニングルームなどのほか、地元作家の作品などを扱うショップもあります。客室は全て50平方メートル以上で浴室がついていますが、ほかに大浴場も備えています。一般的に「豪華客船」と呼ばれるクルーズ船にあるような、プールやカジノといった遊戯施設はありません。
船内の目につくところには木材を使用しており、左舷側には縁側を備えています。日本の宿に滞在しているような、ゆったりとしたサービス、おもてなしを心がけています。
――どのようなところを航行するのでしょうか?
尾道を拠点とし、西は山口県の柳井沖、東は岡山県の日生(ひなせ)沖まで、瀬戸内海を周回する全6航路が設定されています。瀬戸内を出る予定はありません。
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「ガンツウ」の全長は81.2m、総トン数は3013トン、乗客定員は38名。たとえば郵船クルーズの「飛鳥II」(郵船クルーズ)は全長241m、総トン数5万142トン、乗客定員872名ですので、クルーズ船としてはかなり小ぶりといえるでしょう。また、「ここまで木材を多用した船は珍しい」(せとうちクルーズ)とのことです。
一般的なクルーズ船のイメージと異なる、和風な設備を有する「ガンツウ」。その旅の内容にはどのような特徴があるのでしょうか。
ゆったり漂泊、観光地には行かず どんな旅に?「ガンツウ」の客室は4タイプ全19室で、旅行代金は2泊3日で40~100万円(2017年10~11月出航分、2名1室利用の場合)。前出の「飛鳥II」の場合、国内2泊3日のクルーズが10万円前後からなので、比較的高めに設定されています。その旅の内容について、再びせとうちクルーズに話を聞きました。
――そもそも「ガンツウ」をなぜ造ったのでしょうか?
「瀬戸内の良さは海にこそある」という確信のもとで誕生した客船です。わたしたちはもともと町おこしを手掛けており、「瀬戸内のために何をしたらいいのか」という発想で、船のデザインやアクティビティを考えていきました。
計画段階ではもちろん、ほかの船も参考にはしましたが、いわゆる「豪華客船」というイメージは当てはまりません。老舗旅館やホテルなどを含め、さまざまなリゾート施設のアクティビティやおもてなしのよいところを凝縮させています。
――一般的なクルーズの場合、寄港地での観光も旅の目的のひとつですが、「ガンツウ」ではどのようなプランが用意されているのでしょうか。
本船自体に寄港地という概念はなく、いわゆる観光地には行きません。「せとうち漂泊」というコンセプトのもと、瀬戸内海沿岸の景勝地で着岸せずに錨泊(海上でいかりを下ろして留まること)を重ねてゆったりと周遊し、小型のテンダーボートで途中の島々に上陸します。そこで漁師体験をしたり朝の散歩をしたり、あるいは協力いただいている漁師さんが船まで海産物を届けてくれたりと、「島の日常」を体験します。
――価格や客層については、どのようにお考えでしょうか?
1室40万円(税込)からの料金はオールインクルーシブ(編集部注:旅行代金に食事やドリンク、プールなどの施設料金、道中のアクティビティ料金などがほぼ含まれることを意味する用語)で、発着地であるベラビスタマリーナ(広島県尾道市)から広島空港あるいはJR福山駅までの往復送迎も含まれています。
お客様の層としては富裕層ということになりますが、世界中の観光地やホテルに行きつくしているような方、これまでにないような体験を求めている方が、しっくりくるかと思います。そのような体験を瀬戸内で作り、地域のブランド力を高めていくことが狙いです。

客室の例。

船首のオープンデッキ(画像:せとうちクルーズ)。

左舷に設けられた縁側(画像:せとうちクルーズ)。
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これまでのクルーズ船と全く異なるコンセプトの「ガンツウ」。せとうちクルーズは「ライバルはない」といいます。「瀬戸内にたくさんの海外客船も来ており、瀬戸内を周遊する新造船もできると一部報道でありますが、ともに瀬戸内観光において市場価値を盛り上げていければ」と話します。
ちなみに、せとうちクルーズは「ガンツウ」ならではの大きな特徴のひとつとして、「船首に向いたスイートルーム」を挙げます。「船首側は風の影響などが大きいため、通常の客船では、スイートの客室は船尾側に設けられます。船首に向いた窓から進行方向の風景を楽しめるのは、波がおだやかな瀬戸内海だからこそ可能な構造」なのだそうです。