マツダのロータリーエンジンを語るうえで外せないクルマのなかの1台が、初の3ローターを搭載した量販車「ユーノスコスモ」でしょう。加速も燃費もド迫力だったといいますが、当時の若者はこれをどう受け止めていたのでしょうか。
1980年代後半から1990年代にかけて、今でも語り継がれる名車が続々発売されました。そのなかでも、ひときわ「語れるクルマ」として名を残している1台が、マツダ「ユーノスコスモ」です。
1990年4月発売、マツダ「ユーノスコスモ」。(画像:マツダ)。
1990(平成2)年というマツダの多チャンネル化全盛期、高級プレミアム「ユーノス」のフラグシップ・モデルとして、「ユーノスコスモ」は誕生しました。「高級パーソナルクーペ」と銘打たれ、3ナンバー専用の2ドアクーペボディに、新開発のシーケンシャル・ツインターボチャージャー付き高性能ロータリーエンジン「3ローター20B-REW」を搭載します。3ローター! そう、マンガの世界だけだと思っていた3ローターを実現してしまったのが、この「ユーノスコスモ」だったのです。
そもそも、マツダ・ファンなら、ロータリーエンジンについて、ひと晩でもふた晩でも語れるもの。両手でおにぎり型を作って、「四十七士」とか「チャターマーク」とか言いながら涙ぐんでいる人がいたら、それは間違いなくマツダ・ファンなので、「マラソン・デ・ラ・ルートって何?」と話を振ってみましょう。三日三晩語ってくれます。

マツダ「ユーノスコスモ」搭載の3ローター20B-REWエンジン(画像:マツダ)。
そんなマツダ・ファンの命、「ロータリー」を3つも積んだ「ユーノスコスモ」は、強烈な加速で度肝を抜かせてくれました。
しかも、やんちゃクルマなわけではなく、スタイリングはオトナの男が乗るぞっという、すっきりぺったりシルエット。インテリアは、最高級本革シートに本杢インパネガーニッシュと、リッチでスノッブ。さらにATだから、いざとなったら「ちょっと乗ってみてもいい?」などと言えてしまうのです。もう、ちょっぴり背伸びしたい女子の目をハートにする要素がてんこ盛りです。
「ユーノスコスモ」≒「コスモスポーツ」≒「リカちゃんカー」?ちなみに、先日発売されたマツダ「CX-8」も、本物の木を素材とする本杢加飾のインパネを採用していますが、「これは『ユーノスコスモ』以来なんです」と、開発担当者。「ようやく当時に追いついた」と担当者は胸を張ります。こうして、ファンのハートをがっちり掴む「泣かせどころ」を脈々と繋げていくのが、マツダのニクいところです。

マツダ広島本社に展示される初代「コスモスポーツ」(手前)(画像:マツダ)。
脈々と言えば、車名の「コスモ」にもグッときます。「ユーノスコスモ」は、初のロータリーエンジン搭載車「コスモスポーツ」の3代目モデルという位置づけです。そもそも、女子的には、「コスモスポーツ」の不思議なサイズ感に、親近感を覚えていたのです。
男子にとっては「ウルトラ警備隊」かもしれませんが、一部女子の目から見ると、「コスモスポーツ」=「リカちゃん人形のクルマ」的なイメージがあります。ここで言う「リカちゃん人形のクルマ」とは、1970(昭和45)年前後に発売されていた「リカちゃんカー『レディ7』」を指します。「コスモスポーツ」の、あのコンパクトで車高の低いシルエット、ちょっと背が高い人が横に立つと、リアルな「自動車:人間」のスケールではなく、「レディ7:リカちゃん」に見えないでしょうか。クルマのデザインというより、全体の雰囲気が、ですが。「『コスモスポーツ』、かわいい!」という流れで、「ユーノスコスモ」にも俄然好印象を抱いていました。
さらに、「ユーノス」というブランドイメージが良かったです。ショールームでは「ロードスター」などの人気車種といっしょに、フランス車のシトロエンなども売っているのがおしゃれに見えて、「『彼氏のクルマ、外車だから、すぐ止まっちゃうんだよねー』とか言えるのかー」と、若干的外れな憧れを抱いたものです。
その燃費は20世紀のダンディズム?そんな「ユーノスコスモ」のアキレス腱。それは、ただひとつ、「燃費の悪さ」でした。改めてデータを見ると、なんと、10モード燃費が6.1km/l。6.1、ですよ。これがカタログ数値ですから、実際はもう少し、大変なことになっていました。

「ユーノスコスモ」のエクステリア(画像:マツダ)。

「ユーノスコスモ」のエクステリア(画像:マツダ)。
筆者(下高井戸ユキ:ライター)の学生時代には、「どこかに出かける時には、誰かが出してくれたクルマに分乗する」ということが日常的にありました。遠出の際には、ガソリン代を同乗者で割ることになります。この金額が乗せてもらうクルマによって大きく変わってきてしまう、という、なかなかな「駆け引き必須」シーンが繰り広げられたものです。スタイリングもロータリーの音も大好きだし、さらに言うとオーナーの男のコもかなりいい感じでしたが、それでも「スタンド寄ってもいい?」というひと言に軽く言葉を詰まらせるくらいの額だったことが、記憶に残っています。

「ユーノスコスモ」のインパネまわり(画像:マツダ)。
いまは一般的に環境への問題意識が高くなっているので、「燃費が悪い」=「地球にやさしくない」という感覚を自然に覚え、ちょっと肩身が狭い感じになりますが、当時はそうでもありませんでした。「そういう細かいことは気にしちゃいけないんだ」、「男は黙って……」みたいな、20世紀最後のダンディズムを感じるクルマ、「ユーノスコスモ」。「とんでもない所で止まっちゃった」ガス欠エピソードも含め、「語れるクルマ」の代表選手といえるでしょう。
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「ロータリー四十七士」を率い、ロータリーエンジンの実用化に成功した元マツダ社長の山本健一さんが2017年12月20日(水)、お亡くなりになられました。心よりご冥福をお祈りいたします。

インパネに木目の加飾で、本革シートとともに高級感を演出したという(画像:マツダ)。