飛行機は離着陸時だけでなく、飛行中に雲に入った場合などにも揺れることがあります。完全に揺れないフライトは難しいといいますが、揺れを抑えるために運航やサービス面でも工夫されているほか、機材も進化しています。
飛行機は飛行中に揺れることがあります。雲に入った場合など、「揺れていますが、飛行の安全性には問題ありません」といった機内アナウンスを耳にすることもしばしばあります。
雲に取り囲まれた飛行機のイメージ(画像:写真AC)。
飛行中の揺れはなぜ起こるのでしょうか。また、そのときパイロットやCA(キャビン・アテンダント)はどのように対応しているのでしょうか、ANA(全日空)に聞きました。
――飛行機が雲に入ると揺れることが多いようですが、これはなぜでしょうか?
おっしゃるとおり、一般的に雲のなかや、雲のすぐ近くを飛ぶときには揺れることが多いです。特に、積乱雲(いわゆる入道雲など)は中心部に激しい上昇気流が、その周囲には強い下降気流が存在し、このなかでは雨粒が浮かんでいられるほどの気流が発生しているため、激しい揺れが予想されます。パイロットは飛行機に搭載された気象レーダーの情報をもとに、積乱雲中の雨粒を観測することで、その空域を避けて飛行しています。
積乱雲を含む「積雲」系の雲は形状が盛り上がっていて、このなかを飛ぶと、クルマがデコボコ道を走るように揺れます。一方、平坦な形状をしている「層雲」系の雲は、上昇気流がないので、雲のなかを飛行しても大きな揺れにはなりません。
機体が揺れる気象状況、ほかには?――ほかに、飛行中に機体が揺れるのはどのような場面があるのでしょうか。
飛行機の揺れは空気の「渦」、つまり乱気流が存在する場合に起こります。
●乱気流の種類
・「『山岳波』による乱気流」:気流が山脈を越えるときに起こる。山に近い空港の離着陸時に遭遇しやすい。
・「晴天乱気流」:地球上を西から東へと流れる「ジェット気流」付近で起こる。日本付近では特に、冬季の「寒帯前線ジェット気流」が非常に強く、11月から3月ころまでその影響を受ける。乱気流にともなって雲が発生していれば、雲の形の崩れが乱気流の存在を示してくれるが、晴天で雲が全くない状況でも発生することがあり、この場合は警戒できず乱気流に巻き込まれることがある。
・「前線面上の乱気流」:寒冷前線付近で発達する積雲系の雲のなかでは、低高度から雲頂高度(雲の最も高い部分)付近までの各層中に乱気流が発生する。一方、温暖前線付近には乱層雲(いわゆる雨雲)ができるが、このなかでは積乱雲ほど大きな揺れは起こらない。
・「人工の乱気流」:ボーイング747型機やボーイング777型機などの大きなジェット機は飛行中、後方に大きな乱気流を発生させる。これを航跡乱気流(ウェイク・タービュランス)と呼ぶ。通常は1、2分程度で消散するが、気層が安定しているような場合は5分以上も継続することがある。
・「低高度の乱気」:空港が山岳地帯や丘陵地帯にあったり、滑走路付近に格納庫があったりした場合、強風のなかで離着陸する際、乱気流に遭遇することがある。
――完全に揺れないフライトというのは難しいのでしょうか?
空気を利用して飛行している限り、完全に揺れがないフライトというのは無理だと思います。お話した通り、パイロットは気象レーダーを用いて雨雲などを避け、なるべく揺れの少ないフライトを提供しています。
パイロット、CAは揺れにどう対応? 機材も進化――揺れを抑えるための運行上の工夫はありますでしょうか?
パイロットは様々な天気図や気象レーダーの情報から、事前に予想を立てながらフライトに臨んでいます。最近はコンピューターの気象解析が進み、ある程度の揺れの予想はできるようになってきていますが、やはり揺れへの対応、回避のしかたなどはパイロットの経験がモノをいう世界だと思います。
――CAは機体の揺れにどう対応しているのでしょうか?
まず、フライト前にはパイロットとCAが「クルー・ブリーフィング」と呼ばれる打ち合わせを行い、揺れの情報をお互いに共有します。きょうの運航でサービスに影響するのは離陸何分後、何時間後なのか、どのくらいの揺れが何分間ぐらい続くのかなどを詳細に打ち合わせ、その情報を聞いたチーフパーサーはサービスプランを考え、CA全員で共有しています。
CAはふだん、揺れた際に通路ではどのような姿勢を取ればよいか、ギャレー(調理場)にいた場合はどこにつかまればよいか、お客様にはどのように注意喚起すればよいかなどをイメージしながら乗務しています。お客様への対応としては、突然の揺れに備えた常時シートベルト着用のアナウンスや声がけを実施しているほか、状況に応じて、やけどを防ぐため冷たいお飲み物のみの提供にする、サービスのタイミングを変更するなどのアレンジをすることもあります。
――機材は揺れに対し進化しているのでしょうか?
最新のボーイング787型機では「ガスト・サプレッション(突風抑制)」という機能が備わっています。揺れを打ち消すように翼の一部が動き、これを軽減するものです。より大型のボーイング777型機にも同じような機能はありますが、777型機に比べ揺れやすいはずの中型機である787型機でも、揺れの程度が大型機並みに抑えられているほど進化しています。
また、ボーイング787型機は機体が重い状況でも高い高度を飛行できるようになっており、ルート選択のうえでも、より揺れの少ない空域を飛行することが可能になっています。
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ちなみに、ANAによると空の世界では、強い揺れがあった場合、必ず後続機に情報を伝える習慣があるとのこと。「みな、事故が起こらないようお互いに助け合っています」と話します。
【画像】予測困難な「晴天乱気流」を検知する技術開発進む

JAXAとボーイングが共同で開発中の晴天乱気流検知システムの概要。前方気流の風速などをレーザー(赤丸は機器)で検出し、乱気流を検知する(画像:ボーイング)。