東京都の新年度予算で、小笠原に滑走路を建設する調査費を計上したと報じられました。長年の懸案である空港建設は現実のものとなるでしょうか。
東京都の小池知事は2018年1月5日(金)の定例会見で、平成30年度予算案に小笠原諸島での航空路開設のための調査費を計上したことを明らかにしました。航空路を開設することによる地域への影響や、使用機材の選定などを実施するといいます。都は2017年7月、小笠原村との協議会をおよそ7年ぶりに開催、父島に空港を整備する方向で検討することを確認していました。
東京と小笠原を24時間で結ぶ「おがさわら丸」(2016年6月、恵 知仁撮影)。
2018年1月現在、東京からの距離約1000kmの小笠原諸島へ行くには、東京港の竹芝と父島の二見港間を結ぶ、定期航路の「おがさわら丸」を利用します。6日に1便で、24時間まる1日かけて到着します。「ちょっと小笠原へ」とは、なかなか気軽には言えない現状ですが、そうした交通事情を改善しようという動きは、もちろんこれまでにもありました。
かつて1990年代から2000年代初頭にかけ、旧運輸省を中心に高速船で本土と小笠原とを結ぶ「超高速貨客船テクノスーパーライナー(TSL)」計画が進められていました。実用に供する船も建造されましたが、原油価格高騰のあおりを受け採算が合わないと判断され計画は頓挫し、115億円かけて建造した高速船は一度も定期航路に就かないまま解体されてしまいました。
滑走路は1200mクラス、どんな飛行機が就航する?たとえば島民の救急搬送に際し、現状においては自衛隊の飛行艇やヘリに頼らざるを得ず、小笠原諸島における空港の開設は長年の懸案でした。しかし、2011(平成23)年に世界自然遺産に登録された小笠原では、環境破壊への懸念から慎重意見も多く聞かれます。
空港の建設地として検討されているのは、世界遺産の範囲外であるため開発が可能で、旧海軍の飛行場跡地も残っている父島の州崎地区です。当初1200mの滑走路を計画していましたが、付近の峠を削る必要があるため環境への影響を配慮し滑走路の縮小案も出ているようです。

運用には1200m以上の滑走路が必要なDHC-8-Q400(2016年、石津祐介撮影)。
当初の1200m案であれば、使用機材はDHC-8-Q400が予想されます。では、滑走路が縮小となると、定期路線はどのような航空機で運用するのでしょうか。
小笠原村議会が設置した小笠原航空路開設推進特別委員会では、ATR42-600Sが候補案に出ました。これは2017年6月にATR社(フランス)が制作発表をした機体で、短距離離着陸(STOL)性能を向上させ、800m超の短距離滑走路での運航が可能となっており、同社は2020年の運用開始を目指しています。東京都心と小笠原間の航空路が開設された場合、直行便であれば2時間半程度のフライトになる見込みです。
実際に就航するのはどの航空会社?では小笠原に空港が建設された場合、どの航空会社が路線を就航させる可能性があるのでしょうか。航空各社に「小笠原に空港が建設されれば、路線開設の可能性はありますか?」と聞いてみました。
JAC(日本エアコミューター)でATR42-600の導入実績のあるJAL(日本航空)は「空港の設計概要(滑走路長や空港の施設要件など)が決まっていないため、現時点でお答えできる段階にございません」との返答でした。また「JACのようなコミューター路線を立ち上げる可能性はありますか?」との質問に対しても同様の回答でした。

JACが運用しているATR42-600。主に離島路線で活躍している(2017年1月、恵 知仁撮影)。
羽田から八丈島への路線を持つANA(全日空)は、「(小笠原に空港が建設されれば)定期便の可能性については検討するものの、現時点でお答えできるものはない」との回答でした。滑走路が1200mから短縮されるのであれば、同社保有のDHC-8-Q400が使えないため、新たに航空機を購入しないと路線開設は難しいかもしれません。
調布空港から神津島や新島へ路線を持っているコミューター航空会社の新中央航空はどうでしょうか。質問に対しては「会社としてはまだお話できることはございません」との回答でしたが、もし同社のドルニエ228で三宅島や神津島から八丈島を経由し、小笠原諸島を結ぶアイランドホッピング路線が就航すれば人気が出そうなフライトになりそうです。
ようやく本格的な調査が開始された小笠原の空港建設ですが、路線開設にはまだまだ時間が掛かるようです。今後、小笠原の路線がどうなるのか注目したいところです。
【写真】1968年撮影、父島・洲崎飛行場跡地

写真は1968年撮影のもので、地図部分は現在のもの。赤枠が洲崎飛行場跡地。旧海軍が使用していた当時の滑走路の長さには諸説ある(国土地理院の地図と航空写真を加工)。