一般道を走る路線バスのなかには、運行時間が2時間を超える長距離路線も少なからず存在します。一般路線バスにおける長距離路線トップ3は、どこなのでしょうか。

有名なあの路線を上回る長距離運行のバスも存在します。

トップ3はどれも150km以上を運行

 路線バスは、わずか数百mの路線から、100km以上を走る路線まで様々ですが、そのなかには運行時間が2時間を超えるものも少なからず存在します。「高速バス」でも「夜行バス」でもなく、一般道を延々と走る路線バスでです。「生活の足」「観光の足」として機能している路線バスのなかから、運行距離が長い順に3路線を紹介します。

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奈良交通「八木新宮線」のバス。十津川バスセンターにて(須田浩司撮影)。

第1位は多くのメディアに登場する有名路線 近年は海外からも

 運行距離第1位は、近鉄大和八木駅(奈良県橿原市)とJR新宮駅(和歌山県新宮市)を結ぶ、奈良交通(奈良県奈良市)の「八木新宮線」です。全長166.9km、停留所数166、所要時間約6時間30分は、高速道路を使わない路線としては日本一の距離を走ります。

長距離一般路線バス、トップ3は? どれも「乗り応え」抜群! 知られざるロングランバスも

本記事で取り上げるバス路線。起終点はバス停名ではなく駅名あるいは地名(乗りものニュース編集部作成)。

 運行本数は1日3往復。数多くの旅番組や雑誌などにも取り上げられている有名な路線で、地元の人はもちろんのこと、全国からバスファンや観光客がこの路線を乗りに来るほか、最近は海外からの観光客も多く利用しています。

日本一の長距離路線バス、どんなところを走る?

 沿線は十津川温泉(奈良県十津川村)をはじめとする温泉地が数多くあるほか、人道吊り橋としては長さ日本一の「谷瀬(たにぜ)のつり橋」(同)、世界遺産「熊野古道」や「熊野本宮大社」(和歌山県田辺市)など、見どころがたくさん。隘路(あいろ)で知られる十津川街道も通ることから、「秘境路線」と呼ぶにふさわしい路線といえましょう。

 途中、五條バスセンター(奈良県五條市)、上野地(谷瀬のつり橋)、十津川バスセンターの3か所で10分から20分間の休憩停車があり、特に上野地では20分間停車することから、バスを降りて谷瀬のつり橋を往復する観光客も見受けられます。流れゆく車窓と途中休憩のおかげで、道中の約6時間30分は意外とあっという間に感じるかもしれません。

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「八木新宮線」専用ラッピング車両で運行される(須田浩司撮影)。
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山深く狭い十津川街道をゆく「八木新宮線」(須田浩司撮影)。

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20分の休憩が取られる上野地バス停(須田浩司撮影)。

 全線を乗りとおした場合の運賃は片道5250円で、「Suica」など交通系ICカードの利用も可能。途中下車ができる「168バスハイク乗車券」も発売されています。以前は前扉しかない郊外路線タイプの車両が使用されていましたが、現在は原則として、中扉つきで専用ラッピングが施されたノンステップバスが使用されています。

第2位 酪農地帯と海沿いを走る北海道内最長路線

 運行距離第2位は、北海道東部の中核都市である釧路市と、オホーツク海沿いの羅臼町を結ぶ、阿寒バス(釧路市)の「釧路羅臼線」です。全長約166km、停留所数101、所要時間3時間40分から3時間50分で、道内の路線バスとしては最長距離を走ります。

 運行本数は平日が1日4往復、土日・祝日は1日2往復で、このほかにも平日限定で釧路~標津(しべつ)間の区間便が1往復あります。運行距離の割に停留所の数が少なく、一部の区間においては停留所以外の場所でも乗り降りができる「フリー乗降制」を採用しています。

 バスは日本最大規模の台地「根釧(こんせん)台地」(標高100mから200m)を縦断。牛や馬が数多く見られ、いかにも北海道らしい景色を堪能できるほか、オホーツク海沿いの国道を走る標津~羅臼間では、晴れていれば北方領土も見られます。この路線も数多くの旅番組やメディアに取り上げられ、観光路線としての側面もありますが、一方で釧路市内の主要病院にも停車するなど、地元の通院客にも配慮しています。

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阿寒バス「釧路羅臼線」の車両(須田浩司撮影)。

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広大な風景が広がる「釧路羅臼線」の車窓(須田浩司撮影)。
長距離一般路線バス、トップ3は? どれも「乗り応え」抜群! 知られざるロングランバスも


 釧路駅~羅臼間の運賃は片道4850円で、一部区間では往復割引運賃も設定されています。長距離を走ることから、使用されるバスはトイレ付きとなっています。

第3位 車窓に日本海と廃線跡を望む鉄道代替路線

 運行距離第3位は、2位と同じく北海道内の路線。日本海沿いの留萌市と豊富(とよとみ)町を結ぶ沿岸バス(羽幌町)の「豊富留萌線」です。全長164.5km、停留所数169、所要時間4時間6分で、1系統の停留所数では「八木新宮線」を抜き日本一です。

 この路線は、1987年(昭和62年)3月に廃止された旧国鉄羽幌線(留萌~幌延〔ほろのべ〕)の代替バスとして運行しており、地元住民にとって欠かせない生活の足として機能しています。

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沿岸バス「豊富留萌線」の車両(須田浩司撮影)。
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日本海沿いを走る「豊富幌延線」(須田浩司撮影)。

 留萌~天塩(てしお)間ではおもに日本海沿いの国道を走り、車窓には日本海の景色が延々と続くほか、羽幌線の廃線跡も見られます。また、沿線には温泉が点在しており、特に油分を含んだ特徴的な湯が有名な「豊富温泉」は、全国から多くの湯治客や観光客が訪れます。

 全線を乗りとおした場合の運賃は片道2780円で、フリーエリア内の沿岸バスの指定路線が乗り放題となる「絶景領域・萌えっ子フリーきっぷ」も利用可能です。車両はおもに大型ワンステップバスが使用されます。

「八木新宮線」をしのぐ運行距離のバスが北海道に?

 このほか沿岸バスでは、旭川市と留萌市を結ぶ「快速留萌旭川線」のうち1往復を、留萌市と幌延町を結ぶ「快速幌延留萌線」として同一車両で直通運転しています。留萌十字街バス停を境に別系統となりますが、これらを合計した運行距離は、なんと約217kmにもおよび、日本最長の一般路線バスと見なすこともできます。長距離を走ることから、バスはトイレ付きの車両が充てられます。

 同様のケースは、日本最北端の稚内市と、宗谷半島内陸部の音威子府(おといねっぷ)村をオホーツク海沿い経由で結ぶ、宗谷バス(稚内市)の「天北宗谷岬線」も該当します。こちらの場合、許認可上の運行系統は5系統からなり、時刻表上でも鬼志別ターミナル(猿払村)または浜頓別ターミナル(浜頓別町)で分割されていますが、一部の便で稚内~音威子府間を同一車両で運行していることから、実際の運行距離は奈良交通「八木新宮線」を上回る約171kmとなります。

長距離一般路線バス、トップ3は? どれも「乗り応え」抜群! 知られざるロングランバスも

沿岸バス「快速留萌旭川線」の車両(須田浩司撮影)。
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宗谷バス「天北宗谷岬線」の車両(須田浩司撮影)。

「天北宗谷岬線」も、1989(平成元)に廃止されたJR天北線(音威子府~浜頓別~南稚内)の代替として開設され、のちに運行経路を変更した路線です。旧国鉄・JRのローカル線廃止に伴う代替バス路線は、長距離運行になるケースが多く、このような路線が多いことは北海道のバスならではの特徴かもしれません。