このほど完成した東海道・山陽新幹線の次世代新型車両「N700S」は、JR東海の「小牧研究施設」で開発された技術が多数採用されています。人里離れた山奥にある研究施設で、どんな研究が行われているのでしょうか。

「ブラッシュアップ」目指して技術開発

 JR東海が2018年3月に完成させた東海道・山陽新幹線の次世代新型車両「N700S」の確認試験車は、同社の「小牧研究施設」で開発された技術が多数使われています。研究施設の正式な名称は「総合技術本部 技術開発部」ですが、愛知県小牧市内に研究施設があることから、この名で呼ばれています。

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小牧研究施設の低騒音風洞内に設置された先頭車の模型。ここで開発された技術がN700系やN700A、N700Sに導入されている(2018年4月20日、草町義和撮影)。

 小牧研究施設が建設されたのは、2002(平成14)年のこと。「鉄道技術のブラッシュアップ」を目的に、これまで新幹線の関連技術を中心にさまざまな研究を行ってきました。N700系で採用された車体傾斜システムやN700Aの台車振動検知システムなども、小牧研究施設での研究成果により開発されたものです。

 ある意味「N700シリーズの生まれ故郷」といえる小牧研究施設とは、いったいどんなところなのでしょうか。2018年4月20日(金)、この研究施設を取材しました。

 名古屋駅から車で約40分。中央自動車道の小牧東ICから一般道を少し走ったところに小牧研究施設があります。敷地面積は約73ha。

犬山市との市境近くにある丘陵地帯で、南北約600m、東西約700mの広い範囲に工場のような建物が数棟、ゆったりと配置されています。

 高速道路のICに近い好立地ですが、周囲は木々に囲まれていてビルや民家は見えません。人里離れた山奥に人目を避けて建設されたような感じがする施設で、なにかのロボットアニメに出てくる「秘密基地」のように思えます。

 研究施設の敷地は南側と北側に大きく分かれていて、北側には研究施設の玄関口を兼ねた研究棟があります。いっぽう、南側にはA、B、Cの3棟からなる実験棟が並び、これ以外にも線路や築堤など研究用の施設が設置されています。

大地震発生時の走行状態も再現可能

 研究棟で概略説明を受けたあと、実験棟のある南側へ向かいました。まず案内されたのは、「架線振動試験装置」が設置されているB棟です。鉄道車両に電気を送るための電線(架線)を、実物の鉄道と同じ条件で設置。小型の実験車両を走らせて架線に振動を加え、部品の耐久性を効率的に検証することができるといいます。

人里離れた山奥で新型新幹線の技術を開発 JR東海「小牧研究施設」に潜入

小牧研究施設の架線振動試験装置(2018年4月20日、草町義和撮影)。

 現在、この装置を使って研究されているのが光ファイバー入りの電線です。架線には内部にメタル線を入れたものがあり、メタル線を流れる電流の有無で架線の切断などをチェックできるようになっています。

営業運転中は電車が走るための電気を流すためチェックできませんが、電磁ノイズの影響を受けない光ファイバーなら、24時間リアルタイムで架線のチェックが可能に。チェックできる距離も長くなるといいます。

 続いて見学したのは、C棟にある「車両走行試験装置」。「軌条輪」と呼ばれる円形のレールの上に模擬車両を載せ、軌条輪を回転させることで列車が走行している状態を再現することができます。

 鉄道車両はレールの設置位置のずれや、トンネル内を走行しているときに受ける空気力などの影響で揺れますが、この装置にはわざと揺れを加える機能が搭載されていて、さまざまな条件での車両の走行状態を調べることができます。

 この日は模擬車両が実験棟の外に出ていて、残念ながら試験走行の姿を見ることはできませんでした。試験最高速度は350km/h程度まで対応。大地震の発生したときの走行状態など、営業路線で実施するのは難しい試験も行えるといいます。小牧研究施設の関係者は「この装置がなければ(N700Aの)台車振動検知装置は開発できませんでした」と話していました。

N700S「ひと区切り」でも研究続く

 研究棟と直結する通路が設けられているA棟には「車両運動総合シミュレーター」と「低騒音風洞」などがあります。車両運動総合シミュレーターが設置されている実験場に入ると、H.G.ウェルズの小説に出てくる火星人のような外観の実験装置が目の前に現れました。

人里離れた山奥で新型新幹線の技術を開発 JR東海「小牧研究施設」に潜入

さまざまな条件下での乗り心地を再現する車両運動総合シミュレーター(2018年4月20日、草町義和撮影)。

 この装置は高周波振動を発生させるなどして、列車の乗り心地を体験することができるもの。レールの上に大きな鉄板が載っていて、その上には機械類を収めた灰色の箱と、6本の油圧シリンダーで支えられた模擬車体が載っています。これがレールの上を走りながら油圧シリンダーが細かく動き、線路が分岐する部分(ポイント)の振動や、カーブを走行しているときの遠心力などを再現しています。

 低騒音風洞は、列車が走行したときに生じる風切り音(空力音)を研究するための風洞です。空力音を正確に測定するためには、研究対象以外の音(暗騒音)をできるだけ小さくしなければなりませんが、この風洞は周囲を吸音楔(くさび)で覆うなどして、暗騒音を減らしています。JR東海によると、日本の鉄道事業者が低騒音風洞を導入したのは初めてといいます。

 小牧研究施設は発足以来、新幹線向けの技術を中心に研究を行ってきました。いまはN700Sの確認試験車が完成したことで「ひと区切り」ついた段階といえますが、小牧研究施設の関係者は「絶え間なく技術開発を続けていますので、N700Sの営業車導入(2020年度めど)に向けてブラッシュアップできることがあれば、現在研究中の技術も取り入れていきたいと思います」と話していました。

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