空自F-2戦闘機は開発中、繰り返し何度も欠陥機であるという報道がなされましたが、実際に部隊配備がなされたのちは、そのような声もピタリと収まりました。あれほど騒がれた欠陥は、結局どうなったのでしょうか。

後継機が話題のF-2、開発当時は欠陥機だった?

 2018年現在、航空自衛隊が保有する戦闘機はF-4、F-15、F-2、F-35の4機種が存在します。このうちF-35はまだ戦力化されていないため、最も新しい機種は2000(平成12)年に配備が開始された国産のF-2となります。

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急旋回する試作機カラーが施されたF-2 試作2号機。強度不足から高G旋回ができないともされるがデマである(関 賢太郎撮影)。

 昨今ではF-2後継機の開発に関する報道が相次いでいますが、実際に代替されるのは2030年代から2040年代頃になるはずであり、F-2は少なくとも今後20年以上、貴重な航空戦力として日本の防空の一端を担い続けることになります。

 しかしながらF-2はその配備当初、かなり評判の悪い戦闘機でした。特に「主翼強度に問題があり亀裂が入る」「レーダーの性能が低すぎる」といった問題は繰り返し報道され、なかには「欠陥機である」と断じるものもありました。

 F-2は配備開始から18年が経過し、いよいよ「人生の半ば」に差し掛かりつつあります。いま、その過去を振り返るにはちょうど良い時期であると言えます。初期の欠陥論は正鵠を射たものであったと言えるのでしょうか。なぜ初期に欠陥機扱いされたのか、その原因について振り返ってみましょう。

主翼の亀裂もレーダーも、フタを開けてみると…?

 F-2欠陥論において最も古くから言われ続けている問題点は、強度不足による主翼亀裂問題です。

FS-X(次期支援戦闘機)という名で開発中であった1990年代には、早くも強度の不足を指摘する報道がなされています。

 試験において、F-2の主翼に亀裂が入ったことは紛れもない事実です。しかしながらこの亀裂が生じたF-2は、4機が製造された試作機のいずれでもなく、飛行能力を持たない「全機強度試験機」と呼ばれる強度や耐久性を試験する目的で製造された機体であり、主翼の一点に偶然過重が集中したため想定外の亀裂が入ったことがその原因とされています。

 次に搭載するレーダー「J/APG-1」の性能が低すぎるという問題ですが、これは配備された量産機において発生したもので、「レーダー照準(ロックオン)が突然解除される」「自機よりも低い高度を索敵する場合のレーダー視程があまりにも短すぎる」といった不具合は、戦闘機としての価値そのものに大きな影響を及ぼしました。

 レーダーの問題は、主翼の強度問題よりもはるかに重大だったと言えます。実際F-2がスクランブル待機可能となったのは2004(平成16)年であり、これは最初の第3飛行隊に配備が始まってから4年、前任機F-1から機種更新が完了してから3年後のことでした。
 レーダー不具合の原因については明らかにされていませんが、F-2という機体へ実際に搭載するための「統合化」、より具体的には様々な処理を行うソフトウェアの開発が特に困難だったともされます。

 当初J/APG-1の空中試験は、C-1輸送機試作初号機の機首部にF-15用のレドーム(レーダーのカバー)を装着し、その内部に格納して実施していました。こうした事情からJ/APG-1の実用化に向けた本格的な試験は、実戦配備が始まってからようやく開始できたというのが実情であったようです。

洗い出された問題点は結局どうなった?

 以上のように、F-2は開発段階から配備初期において大きな問題を複数抱えていたこと自体は、紛れもない事実です。

空自F-2欠陥機論の顛末 大きく騒がれた主翼のヒビ、貧弱レーダーは結局どうなった?

2000年から航空自衛隊への導入が始まったF-2は、試作機を除き94機が生産された(画像:航空自衛隊)。

 しかし主翼亀裂問題は実機に生じたものではありません。

「全機強度試験機」とは、もともと壊れるまで負荷を与えることによって不具合を洗い出す「壊すために製造されたF-2」であり、亀裂の発生は役目をまっとうしたものと言えるでしょう。そして発生した亀裂自体もすぐにケアできる程度のものであり、94機が製造された量産機の主翼に同様の不具合は発生していません。

 レーダーの諸問題も、その後J/APG-1は継続したソフトウェアのアップデートが行われ大幅に性能を向上させており、また現在ではより新しいJ/APG-2への換装が行われています。J/APG-2搭載機はレーダー視程が推定2倍近く改善され、当初使えなかった新しい99式空対空誘導弾(AAM-4)ミサイルの運用能力も獲得、もはや別の戦闘機と表現しても過言ではないほど大幅に性能を向上させています。初期の不具合は完全に過去のものとなりました。

 F-2の開発費は約3200億円、機体単価は約120億円でした。これは当初予算の2倍にあたります。またスケジュールにおいては開発期間10年、1990年代半ばの実用化という目標を達成できず、2004年までずれ込みました。こうした事実がある以上、F-2開発計画がずさんであったという批難は免れられません。

 しかしながら他国の戦闘機開発計画、例えばユーロファイター、ラファール、F-22といった機種においても予期しない問題の発生、スケジュール遅れ、生産コストや開発費の大幅超過は漏れなく発生しています。

 こうした事情を鑑みれば、F-2における解決可能であった諸問題の発生、ないし解決された問題をもってして、F-2という機体自体を「欠陥機」と断じることは不適当であると言えるのではないでしょうか。

【写真】炭素複合材の一体成型でできた主翼(試作品)

空自F-2欠陥機論の顛末 大きく騒がれた主翼のヒビ、貧弱レーダーは結局どうなった?

炭素繊維強化複合材による一体成型で製造されたF-2の主翼(試作品)。
上部外板を外した状態で展示されている(関 賢太郎撮影)。

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