戦闘機においてひと口に「超音速機」といっても、実は種類があります。その分類に従えば、たとえばF-15とF-35には実に大きな隔たりがあります。
21世紀に入ってから実用化された新しいジェット戦闘機においては、「スーパークルーズ(超音速巡航)」と呼ばれる能力が大きな注目を集めています。スーパークルーズとは読んで字のごとく、超音速で巡航することを意味します。
外部搭載物の空気抵抗はかなり大きい。また気温の高い日はエンジン出力が落ちるため、冬場以外のF-15は最高速度マッハ1.6から1.4に低下する(関 賢太郎撮影)。
よく考えてみると、これはとても変な話であるとは思いませんか。戦闘機が史上初めて水平飛行で音速(マッハ1)に達したのは1953(昭和28)年に初飛行したF-100スーパーセイバーの原型機であり、以降ジェット戦闘機は超音速機であることが当たり前となっています。たとえば航空自衛隊の公式WEBサイトに掲載されている主力戦闘機の最大速度値は、F-15がマッハ2.5、F-4がマッハ2.2、F-2がマッハ2.0、F-35がマッハ1.6といった具合に、すべて音速を超えています。
最も速度性能が高いF-15にいたってはマッハ2.5、すなわち音速の2.5倍ですから約2725km/hという猛スピードで飛行できることを意味します。それなのに、なぜ今更になって「スーパークルーズ」が注目されているのでしょうか。
超音速飛行、実はほとんどしていなかった?実のところF-15のような既存の戦闘機は、スクランブル発進時も含めマッハ0.8からマッハ0.9程度の旅客機と大差ない速度でしか飛行しておらず、最大でもマッハ1をほんの少し上回る程度までしか加速しません。
F-15が普段音速以下でしか飛ばない理由は、飛行機がマッハ1付近にまで加速すると「造波抵抗(音の壁)」と呼ばれる抵抗が急激に増大することに原因があります。
オーグメンターは「アフターバーナー」という別名でも知られますが、これを使うとエンジン推力は最低でも約1.5倍(地上静止時)に跳ね上がります。また高い速度になればなるほどさらに推力が増強されるという優れた特性をもっています。
しかし、その代償として燃料消費量は最低でも5倍は増大してしまうのです。この燃料消費量は絶望的と言ってよいほどです。F-15は、非武装状態であればマッハ0.8からマッハ2.3まで加速するのに4分半を必要とします。仮に燃料満タン状態から加速を開始したとしても、この時点であと4分ほどアフターバーナーを使うと燃料がゼロになり墜落は免れません。
ですから、F-15をはじめにジェット戦闘機は、有事の際においてすらアフターバーナーを「秒単位」でしか使うことができないのです。ほとんどの戦闘機は通常時マッハ0.9以下、そして戦闘時でもせいぜいマッハ1をちょっと上回るくらいしか発揮できないため、実際のところ戦闘機の最大速度値というのはマッハ2.5であろうがマッハ1.6であろうがほとんど関係ないのです。
航空自衛隊の戦闘機パイロットたちも一部のテストパイロットを除き、そのキャリアのなかにおいてマッハ2以上を経験することは、これまでほぼありませんでした。
ところが近年、おもにエンジンパワーの向上によってアフターバーナーを使わない通常出力でも超音速飛行することができるようになりました。特にF-22のエンジンなどは通常出力でもF-15用エンジンのアフターバーナーに匹敵するパワーを発揮できるため、燃料消費量をほとんど気にせず、マッハ1.8にも達する超音速飛行ができるようになりました。

ウェポンベイを開くF-22。F-22は武装を機内に収納するため武装を施しても空気抵抗が増えず速度性能が落ちない(関 賢太郎撮影)。
20世紀までに登場した戦闘機は「超音速機」とは名ばかりに、その実態は「亜音速機」であり、ごく短時間だけ超音速にジャンプしているだけでした。しかしスーパークルーズによって長時間の超音速飛行が可能となり、戦闘機は真の意味で超音速機を名乗るにふさわしい能力を得たのです。
高い速度は何かを追いかけるにも逃げるにも役立ちますし、ミサイルに高い初速を与えられることから射程や撃破確率も高めることができ、戦闘機としての能力を高められます。
スーパークルーズはユーロファイター、ラファール、グリペンE、Su-35、F-35などが可能であると公式に発表されており、いずれもマッハ1.2前後での巡航が可能であると見られます。F-35の最大速度はマッハ1.6ですが、スーパークルーズが不可能なF-15よりも実質的に速い戦闘機であると言えるでしょう。
【写真】音速の壁を越えたチャック・イェーガーとX-1

公式記録で世界初の有人超音速水平飛行を達成したチャック・イェーガーとベルX-1(当時はXS-1)。「グラマラス・グレニス」の愛称は妻の名にちなむ(画像:アメリカ空軍)。