高速バス路線の多くには、さまざまな愛称が付けられています。オシャレな横文字から地元愛にあふれたもの、なかには「ビーム1」など一見してわからないユニークなものもあります。
多くの高速バス路線には「〇〇号」や「〇〇ライナー」といった愛称がついています。なかには「ビーム1(ワン)」など、聞いただけでは意味がよくわからないものも。これらの愛称はどのような目的で、どのように名づけられているのでしょうか?
岩手県北バス「ビーム1」使用車両。愛称は宮古市の「あること」に由来(画像:岩手県北自動車)。
高速バスの路線愛称は多種多様ですが、大ざっぱに分類すると、次のような4つの類型になります。
・「夜行」をイメージさせる名称(「ドリーム号」「ノクターン号」など)
・「都会」をイメージさせる名称(「アーバン号」「TOKYOサンライズ」など)
・「地元」をイメージさせる名称(「津輕号」など旧国名、「桜島号」など自然地形の名称、「よかっぺ号」など代表的な方言、「マスカット号」など特産品)
・一見して不思議な名称やダジャレ(「ビーム1」「レッツ号」など)
もちろん、この4類型に当てはまらない愛称や、複数の要素を組み合わせた愛称も多くあります。
このうち、「レッツ号」(山陽バス)は、ご想像の通り、英語の「Let's go!」とかけたダジャレです。東京と岩手県の宮古を結ぶ「ビーム1」(京浜急行バス/岩手県北自動車)は、宮古市が本州で最も早く朝日を見られることから名づけられました。
また、多くは路線単位で愛称がつけられていますが、「ミルキーウェイ」(東急バス)、「サザンクロス」(南海バス)など事業者単位で設定されたものもあります。路線単位で愛称をつける事業者と、事業者単位でつける事業者が共同運行する路線では、両社で愛称が異なり、予約時に確認した愛称と実際に乗車する際に案内される愛称が別々、ということも起こります。
路線愛称は、沿線での認知拡大や親近感の醸成といった営業上の理由から設定されます。
路線愛称が社会的な話題になったこともあります。1989(平成元)年、福岡~宮崎間に開業した「フェニックス号」(当時は西日本鉄道/宮崎交通/九州産業交通)のことです。
当時、若者の都会的なライフスタイルを取り上げた「トレンディ・ドラマ」が人気を集めるなど社会全体で都会志向が強く、また福岡市では商業施設の開店が相次いでいました。週末が来るたび、宮崎の若者が福岡にショッピングに出かける姿を、新聞社が「フェニックス族」と名づけたのです。民営化直後のJR九州が、それに対抗して、長崎から福岡へ向かう若者を「かもめ族」(「かもめ」は同区間の特急電車の愛称)と名づけようとしたくらいですから、「フェニックス族」は九州では相当認知されていたはずです。

運行開始当初の宮崎交通「フェニックス号」(画像:宮崎交通)。
ずばり「トレンディ号」という愛称の路線もありました。1990(平成2)年に開業した大阪~八王子線(近畿日本鉄道<現・近鉄バス>/西東京バス)です。当時、最もトレンディ(?)だった流行語を愛称として採用したことで、逆に数年後には古臭く感じてしまい、ネーミングとしては残念でした。同路線はその後、姉妹路線である「ツインクル号」(大阪~新宿)に統合され現在に至ります。
このころ、全国で高速バスの新規開業ラッシュが続いていました。
なお、「トレンディ」と名付けた近鉄のために補足すると、当時、同社の夜行高速バスは、日野自動車製のスーパーハイデッカー車両「グランデッカー」に、愛称をモチーフに路線別にデザインした専用塗色(デザインのテイストは各路線共通)が施され、大変スタイリッシュに見えました。また、新宿線「ツインクル号」の成功を受け開設した大宮線を、天体に関連した用語を用いて「ツインクル」と統一感を持たせつつ、「衛星都市」を結ぶという意味も込めて「サテライト号」と名付けたのは秀逸でした。
最近のトレンドは「トヨタのクラウン」的なもの? 変化する愛称その後、高速バスの愛称は変化していきます。2002(平成25)年に高速ツアーバス(募集型企画旅行型式による都市間輸送)が容認されると、それまで市場開拓が遅れていた大都市間路線(首都圏~仙台、名古屋、京阪神)が急成長しました。多数の事業者が競合し、乗客がウェブ上で事業者や車両(座席)タイプを比較検討したうえで予約する、「バスを選んで乗る時代」が到来したのです。
その結果、各社は「超豪華」「格安」「女性向け」など商品を多様化させ、JR系の「ドリーム号」は「プレミアムドリーム号/青春ドリーム号/レディースドリーム号」、近鉄バスらの「ツインクル号」は「ツインクル号/カジュアルツインクル号」といったように、愛称には、路線に加え座席グレードを示す役割も追加されました。
また、新たに参入した高速ツアーバス各社(現在は制度改正により高速乗合バスに移行)は、料金比較サイトや総合予約サイト上で激しく競争しています。利用者のリピーター化を図り「指名買い」を促すため、印象的な車両カラーリングを施したり、自社(直販)サイトの会員プログラムを充実させたりと、事業者単位でのブランド(コーポレートブランド)構築に熱心です。

平成エンタープライズの高速バス「VIPライナー」の上位グレードに位置づけられる「グランシア」(2018年2月、中島洋平撮影)。
さらに、車両(座席)グレードごとに商品名(カテゴリーブランド)が設定され、「ウィラーエクスプレスの“リラックス”」「VIPライナーの“グランシアファースト”」という風に、コーポレートブランドとカテゴリーブランドのかけ合わせで呼ばれます。
そのような新興勢力を首都圏~京阪神で迎え撃つジェイアールバス関東/西日本ジェイアールバス陣営は、前述のように座席グレードを多様化させたほか、「ドリーム号」のブランド化にも熱心です。2017年には「ハーバーライト号」(大阪~横浜)を「グランドリーム横浜号」に改称して「ドリーム号」ファミリーに取り込んだり、有名女性タレントをアンバサダーに起用してメディア露出を繰り返すとともに、車両へラッピングしたりと、半世紀続く路線愛称「ドリーム号」を単なる愛称から「ブランド」に昇華させる試みが続いています。
このように高速バスにおける愛称のあり方は、時代背景や市場環境を反映して変化しているのです。