ステルス性を追求し特異なシルエットを持った米海軍のミサイル駆逐艦ズムウォルト級は、ひと言でいえば失敗しました。2018年6月現在、主砲の弾すらない有様といいます。

どうしたというのでしょうか。

計画は頓挫、どうしてそうなった?

 2016年にアメリカ海軍へ就役したばかりの、異形の新鋭駆逐艦ズムウォルト級が、はやくもその存在価値にかかわる重大な危機に直面しています。

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2016年10月に就役したズムウォルト級1番艦「ズムウォルト」。計画当初、32隻が建造される予定だった(画像:アメリカ海軍)。

 ズムウォルト級は駆逐艦とは名ばかりに、日本海海戦で活躍した戦艦「三笠」に匹敵する満載排水量1万6000トンもの巨体を持ち、2基備える大型艦砲「155mm AGS(先進ガンシステム)」によって地上を精密砲撃するために建造されました。そして敵の反撃を受けやすい沿岸部で活動することを見越し、ステルス性を最大限追及しレーダー乱反射減を排除したユニークな設計を持つに至ります。

 主兵装たる2基の155mm AGSは、まさにズムウォルト級の存在価値そのものと言えます。155mm AGSは「LRLAP(長距離対地攻撃弾)」と呼ばれる補助ロケットを有す砲弾を発射し、その最大射程は破格の153kmに達します。またGPS/慣性誘導を備え標的を確実に直撃できる精度を実現、ズムウォルト級では2基合計で1分間あたり20発ものLRLAPを正確に標的へ叩き込むという、とてつもない火力を発揮するはずでした。

 ところが2016年11月、肝心のLRLAPの開発がキャンセルされてしまいました。155mm AGSによって射撃可能な砲弾はLRLAPしかありません。そしてこのLRLAPの開発が中止となってしまったのですから、ズムウォルト級の強力な艦砲は単なる2本の「棒」に過ぎないという、極めて深刻な事態に追い込まれてしまったのです。

圧倒的な火力は幻に

 LRLAPが開発中止となった最大の原因は、1発あたり約1億円という高コストにあります。一般的に大砲から打ち出される砲弾は単価が安いという利点を持ちます。たとえば陸上において使用される155mm榴弾砲における従来型の弾丸は、1発あたりの単価が数万円~20万円程度に過ぎません。ゆえに大量に投射するような使い方に適しています。

 しかし1億円にも達するLRLAPでは1分間で10発~20発を集中的に叩き込むような本来想定した使い方が難しくなってしまいました。この1億円という価格は1500㎞の射程距離を持つBGM-109「トマホーク」巡航ミサイルにほぼ匹敵し、さらにアメリカ海軍の主力艦上戦闘機F/A-18E/Fに搭載可能なGBU-39「SDB」誘導爆弾の10倍以上もの高値です。

 平均速度約400m/sで飛翔するLRLAPはトマホークよりも高速で、かつ威力が弱く市街戦でも使いやすく、SDBとは違って常に上空に戦闘機を滞空させておく必要がないといった強みこそあるものの、結局のところこれらの攻撃手段に比べても費用対効果に著しく欠けるとみなされてしまいました。

「ズムウォルト」主砲弾すらない現状とは あの異形の駆逐艦はその後どうなった?

ズムウォルト級2番艦「マイケル・モンスーア」(画像:アメリカ海軍)。

 なぜズムウォルト級は砲があっても弾がないという、重大な状況を招いてしまったのでしょうか。LRLAPの価格を大きく押し上げてしまった大元の原因は、ズムウォルト級の建造計画が当初予定の32隻からわずか3隻へ縮小されてしまったことにあります。当然主兵装たる155mm AGSから発射されるLRLAPの生産計画も大幅な見直しを余儀なくされ、調達予定数は計画の1割を割り込む1800~2200発にまで削減されてしまいました(ズムウォルト級は1隻あたり600発搭載可能)。そして量産効果による価格低減の見込みがなくなってしまった結果、LRLAPのコストは1発あたり500万円以下の見込みから1億円へと実に20倍も膨れ上がってしまったのです。

「ステルス艦」ゆえの艦影すらも…

 ズムウォルト級を29隻もキャンセルした余波は、砲弾だけではなく当然、艦そのものにも大きな影響を与えており、建造費は2番艦「マイケル・モンスーア」3番艦「リンドン・B・ジョンソン」を含め3隻合計で約1兆2000億円にも達しています。しかも1兆2000億円をかけて建造した3隻の艦から発射可能な主砲弾はなく、武装は既存のアーレイバーク級イージス駆逐艦よりも少ない80セルの先進垂直発射システム(AVLS)と、これに格納するミサイル、そして対小型船用の30㎜機関砲のみとなります。

 2018年現在、LRLAP中止による代替砲弾の開発は未定のままであり、もはや対地砲撃プラットフォームとなる当初の目的は完全に失われてしまいました。また一番艦「ズムウォルト」に対しては新しいアンテナ等の搭載が進みその表面は突起だらけになっており、完璧なまでにレーダー反射源を排除したステルスのための艦影もなくなりつつあります。

「ズムウォルト」主砲弾すらない現状とは あの異形の駆逐艦はその後どうなった?

「ズムウォルト」2016年12月撮影。ステルスのために磨き上げられたその艦影は、いまや見る影もなくなりつつあるという(画像:アメリカ海軍)。

 ズムウォルト級は軍用艦艇としては最大の発電容量を有しており、将来的には155mm AGSから大電力を必要とするレールガンに置き換えるといった計画もあるようです。こうした新しい装備の試験評価を行う上では最適な艦ではありますが、そもそも試験艦として使うには無駄に高級すぎ、そして「戦う軍艦」としての価値も根底から崩れてしまった3隻のズムウォルト級を今後どのように運用するべきであるのか、アメリカ海軍は難しい課題の答えを導き出す必要に迫られています。

【写真】海と空のステルス、「ズムウォルト」とF-35C試験機

「ズムウォルト」主砲弾すらない現状とは あの異形の駆逐艦はその後どうなった?

艦載型F-35Cのシステム開発実証機CF-2と「ズムウォルト」。2016年10月撮影(画像:アメリカ海軍)。

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