イギリスが次世代戦闘機のコンセプトを発表しました。国際共同開発も視野に入っていると見られますが、ユーロファイター「タイフーン」ではずいぶんと紆余曲折がありました。
2018年7月16日(月)から22日(日)にかけて、イギリスのファンボローにおいて「ファンボロー国際エアショー」が開催されました。同エアショーは世界最大規模の航空見本市として2年に一度開催され、今年はイギリス国防省およびBAEシステムズ社が次世代型戦闘機コンセプト「テンペスト」を初披露。大きな目玉となりました。
2018年の「ファンボロー国際エアショー」にて発表された、次世代戦闘機「テンペスト」のイメージ模型(画像:イギリス国防省)。
「テンペスト」は将来を見据えたビジョンであり、実機として具現化するかどうかは今後の情勢次第となります。とはいえ、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインの4か国で共同開発され、2018年現在のところこれらの国で主力戦闘機として現役であるユーロファイター「タイフーン」は1982(昭和57)年の「ファンボロー国際エアショー」で初公開された「敏捷戦闘航空機(ACA)」コンセプトをその源流としており、同じように「テンペスト」が実現する可能性も十分にあり得ると言えます。
後にタイフーンとなるACAは、1970年代から西欧諸国で検討されていた次世代戦闘機の共同開発計画が、各国の要求性能の違いから交渉が紛糾し開発費の分担もまとまらず、何度も何度も計画名を変えては頓挫していたというそれまでの事情を背景に始まります。
紆余曲折どころではないユーロファイター「タイフーン」もともとACAはパナビア「トーネード」の開発を成功させたイギリス、ドイツ、イタリアの3か国による研究開発プロジェクトでした。開発費はイギリスが半分を負担し、残る半分をドイツとイタリアが折半する予定だったものの、ところがドイツとイタリアは開発費を出し渋ります。
いつまでたっても何も決まらない状況に業を煮やしたイギリスは、ACAの開発費を全額自国負担することを決意。それ以降の動きは早く、ファンボローでのACAお披露目の翌1983(昭和58)年には実機開発計画「試験飛行機プログラム(EAP)」がスタートし、EAPは1986(昭和61)年に初飛行しました。
EAPはあくまでも技術デモンストレーターではあったものの、一見すると「タイフーン」によく似ており、その完成度は極めて高いものでした。EAPは1991(平成3)年5月までに259フライト、195飛行時間の試験を成功裏に終えます。
そしてこのEAPが、10年以上にわたり何も進展の無かった次世代戦闘機の国際共同開発を救うことになります。誰も主導できない、だれも責任をとれない「国際共同開発病」による机上のプランよりも、すでに「かたち」になっていたEAPには他国を黙らせる説得力があったのです。
同じ轍を踏みたくはないイギリスだけど…?21世紀の現代。数兆円にも達するとみられる次世代戦闘機の開発は、中国のような金に糸目を付けぬ国以外はもはや不可能になりつつあります。今後「テンペスト」がユーロファイター「タイフーン」の後継機として実現するならば、実機の開発は間違いなく国際共同開発計画となるでしょう。

ユーロファイター「タイフーン」の原型となったEAP。イギリス空軍博物館において展示中(関 賢太郎撮影)。
イギリスはすでに日本をはじめとした国々に対してアプローチしていると見られ、7月20日(金)には小野寺防衛大臣がF-2後継機としての「テンペスト」の共同開発に参画する可能性もあり得ることを示唆しました。
とはいえイギリスとしてはできるだけ「他国に金は出させても口を出させたくない」というのが本音であるかもしれません。ユーロファイター「タイフーン」は各国の国益(エゴ)が衝突しいつまでたっても開発を始めることができませんでした。
「テンペスト」の名は第二次世界大戦後期に実用化された英空軍レシプロ戦闘機ホーカー「テンペスト」に由来します。ホーカー「テンペスト」は試験飛行において750km/hという、レシプロ機としては原理上の限界とも言える高速性能を誇り、世界初の巡航ミサイルであるV1飛行爆弾の迎撃や、低空においては世界初のジェット戦闘機Me262を多数撃墜する戦果を挙げています。
ホーカー「テンペスト」は戦闘爆撃機として活躍したホーカー「タイフーン」を原型に開発されました。そして現在、ユーロファイター「タイフーン」の次を狙う英国にとって、「テンペスト」はまさに次世代機として相応しい名前であると言えるのではないでしょうか。
【写真】WW2時代のレシプロ戦闘機、先代「テンペスト」

イギリス空軍博物館において展示中の“先代”「テンペスト Mk.V」。高速性能に優れジェット戦闘機とも戦えた(関 賢太郎撮影)。