東北新幹線の最速列車としてデビューした「はやて」が激減しています。現在の定期列車は下り3本、上り2本。
現在の東北新幹線の主役は「はやぶさ」です。東京~新青森間、さらに北海道新幹線の新函館北斗駅まで足を伸ばしています。最長距離を最速で走る列車です。
東北新幹線「はやて」にも使われているE2系J編成(2011年11月、恵 知仁撮影)。
しかし「はやぶさ」が登場する前の主役は「はやて」でした。東京~八戸間を最速で結び、かつて総勢30往復以上の勢力を誇っていました。しかし、いつの間にか運行本数を減らしています。現在、東京発の定期列車は1本だけです。
「はやて」は2002(平成14)年、東北新幹線の八戸延伸開業時に誕生しました。新型車両のE2系を使用し、秋田新幹線「こまち」に続く全車指定席の列車としても話題になりました。
登場時の「はやて」は1日16往復の定期列車が設定されました。このうち東京~八戸間が15往復、仙台~八戸間が1往復です。また、東京発着の15往復のうち、14往復は秋田新幹線「こまち」と併結しました。最速列車「はやて29号」は東京~八戸間を2時間56分で走り、それまでの「やまびこ」と在来線特急「はつかり」を盛岡で乗り継ぐよりも、所要時間を37分も短縮しました。
「はやぶさ」320km/h運転が転機に2005(平成17)年12月のダイヤ改正では、東京~盛岡間の「やまびこ」のうち、速達タイプの2往復が「はやて」に変わりました。その後「はやて」は「やまびこ」を置き換える形で増え、2010(平成22)年のダイヤ改正では定期列車だけで24往復となります。繁忙期の臨時列車を含めると30往復以上に勢力を拡大しました。
東北新幹線の新青森駅延伸開業から間もない2011(平成23)年3月に緑色の新型車両「E5系」が導入され、最速列車の愛称が「はやぶさ」に決まりました。
「はやて」の転機は2013(平成25)年3月のダイヤ改正です。E5系の増備が進み「はやぶさ」は国内最高速の320km/h運転を開始。赤いE6系の「スーパーこまち」がデビューし、「はやぶさ」と併結運転を始めます。東京~新青森間の「はやて」のうち4往復が「はやぶさ」に変更されました。このダイヤ改正以降、かつて「やまびこ」が「はやて」に変わったように、「はやて」が「はやぶさ」に置き換えられていきます。
長距離タイプの列車を「はやて」に譲った「やまびこ」は、東北新幹線の中距離タイプとして現在も一定の勢力を維持しています。しかし、長距離速達タイプだった「はやて」は「はやぶさ」に役目を譲り、居場所を失っていきました。「はやぶさ」は速達列車として、他の東北新幹線列車よりも高い特急料金を設定しているため、「はやて」から「はやぶさ」への置き換えは、利用者から見れば実質的に料金値上げ、JR東日本から見れば収入増が期待されました。
廃止を逃れた「はやて」の定義は2009(平成21)年にJR東日本はE5系を公開し試運転を開始します。このとき、E5系を使った列車には新しい列車名を公募し、2011(平成23)年3月のダイヤ改正で「はやて」を廃止すると報じられました。
●新青森~新函館北斗間
・はやて91号:新青森6時32分発、新函館北斗7時38分着
・はやて100号:新函館北斗21時59分発、新青森23時06分着
●盛岡~新函館北斗間
・はやて93号:盛岡6時54分発、新函館北斗9時2分着
・はやて98号:新函館北斗20時39分発、盛岡22時48分着
「91号」は北海道新幹線の1番列車です。各駅に停車します。「98号」は最終列車です。「93号」と「98号」はいわて沼宮内駅のみを通過します。この4本は北海道新幹線開業時から設定されていました。E5・H5系を使用しますが「はやぶさ」ではなく「はやて」です。運行時間帯から察するに、地元の利用者向けのおトクな列車といえそうです。
●東京~盛岡間
・はやて119号:東京7時16分発、盛岡10時11分着
東京を出発する唯一の定期「はやて」です。大宮~仙台間をノンストップで走り「やまびこ」とは差別化できています。当初の「はやて」の企画意図通りの列車です。
「はやて」は、定期列車は5本だけですが、臨時列車も設定されています。最新版の『JTB時刻表』2018年9月号では下り2本、上り5本です。車両はほとんどがE2系ですが、緑色のE5系や、E5系+E3系の併結という列車もあります。特に9月17日(月・祝)、9月24日(月・休)、10月8日(月・祝)、11月25日(日)の「はやて338号」は盛岡発でE5系+E3系の併結です。山形新幹線の「つばさ」に使われることの多いE3系の盛岡駅乗り入れは珍しいですね。臨時列車ならではのユニークな運用といえそうです。
●臨時「はやて」下り
・はやて351号:東京8時32分発、盛岡11時32分着、E2系
・はやて355号:東京11時28分発、盛岡14時16分着、E2系
●臨時「はやて」上り
・はやて350号:新青森9時32分発、東京12時56分着、E2系またはE5系
・はやて352号:新青森10時32分発、東京13時56分着、E2系
・はやて356号:新青森12時31分発、東京15時56分着、E5系
・はやて338号:盛岡15時26分発、東京17時56分着、E5系+E3系
・はやて340号:盛岡17時21分発、東京20時20分着、E2系
こうして見ると、現在の「はやて」の定義がおぼろげに見えてきます。
まず、大宮~仙台間はノンストップ。これで「やまびこ」と差別化します。
「はやて333号」は、仙台~盛岡間は各駅に停車します。この停車パターンの「はやぶさ」も存在するため、臨時「はやぶさ」としても良さそうです。しかし、緑色のE5系を使っていても、大宮~仙台間の所要時間は「はやぶさ」より10分長い76分でした。仙台~盛岡間の古川駅で後続の「はやぶさ17号」に追い抜かれます。
つまり、仙台以北に乗り入れる列車のうち「やまびこ」より速く、320km/h運転を行わない。また、何らかの理由で「はやぶさ」料金を設定しない列車が「はやて」です。
「はやて」は今後も残るのか?「はやて」は、利用者にとって「やまびこ」より速く「はやぶさ」より安い列車です。運行本数が減っていますが、将来は消えてしまうのでしょうか。「はやて」はE2系を使った最速列車として登場しました。
しかし筆者(杉山淳一:鉄道ライター)は「意外と生き残りそう」と予想します。その理由は、E5系の「はやて」があるからです。JR東日本は東北新幹線の「こまち」「つばさ」以外の列車をすべてE5系に置き換える計画です。E5系を使った「やまびこ」「なすの」もすでにあります。E5系になったからといって、すべての「はやて」が「はやぶさ」に変わるとは限らないでしょう。
ただし、東京発唯一のE2系「はやて119号」は、E5系に置き換わると「はやぶさ」になるかもしれません。「はやぶさ」に追い抜かれる「はやぶさ」は前例があるため、「はやて」のままにしておく理由が希薄です。現在の臨時「はやて」は、車両形式にとらわれません。大宮~仙台間のノンストップを維持すれば、停車駅も使用車両も柔軟に設定できます。臨時列車を設定するときに「はやて」は都合の良い列車名です。
運賃政策上、おトクな列車として「はやて」を残すという選択もあります。北海道新幹線内の「はやて」2往復がこれにあたります。東北新幹線も盛岡以北の各駅停車タイプとして「はやて」を使う場合もあるでしょう。
いずれにしても、現在の東北新幹線において「はやて」は定義付けが難しい列車です。利用者にとって、分かりにくい状況を作っているともいえます。
今後、E5系の増備が完了した時点で、列車名が整理されるかもしれません。最速タイプの「はやぶさ」、大宮~仙台間ノンストップで仙台以北に停車する「はやて」、大宮~仙台間の主要駅に停車する「やまびこ」、大宮~仙台間の各駅に停車する「なすの」。このようになれば列車選びが分かりやすくなりそうです。
【写真】「はやぶさ」などとして走る緑色のE5系

東北・北海道新幹線で「はやぶさ」などとして走っているE5系電車(2011年11月、恵 知仁撮影)。