アメリカ空軍のB-2爆撃機が初めてハワイに展開しました。もちろん日本にとって他人事ではありません。
2018年9月28日に、アメリカ空軍のB-52H爆撃機が日本列島を囲い込むような形で飛行し、航空自衛隊との訓練を実施したことがニュースなどで報じられるなど、世間の注目を集めました。しかし、そのほんの前日まで、まるでブーメランのような形をした異様な形の爆撃機が日本から遠く離れたハワイのパールハーバーヒッカム統合基地に展開していました。それこそが、世界で唯一のステルス爆撃機B-2です。
パールハーバーヒッカム統合基地(米ハワイ州)で駐機されているB-2(画像:アメリカ空軍)。
これまでのB-2を含むアメリカ空軍の爆撃機によるインド太平洋地域への展開は、主として北朝鮮へのけん制といった点が注目されましたが、しかし、今回はそうした従来の展開とは少しおもむきが違うようです。
B-2は冷戦真っただなかの1980年代に登場した核兵器も運用可能な爆撃機で、その特徴は何といっても敵のレーダーやそのほかのセンサーから捕捉されにくいステルス性です。そのため、B-2は敵の厳重な防空網による探知をすり抜けるように突破して敵地の奥深くに潜入し、そのなかにある重要目標などを攻撃することができます。つまり、日本周辺に飛来して注目を集めるB-52やB-1Bといった爆撃機では敵の防空網に阻まれてしまい、攻撃することが難しい目標でも、B-2ならばそれを難なく行うことができるということで、まさに別格の存在です。
また、機体にステルス性をもたせるため、B-2は通常の航空機にみられるような機体後部の垂直尾翼(機体に対して垂直に立っている翼)をもたず、また機体と翼がブーメランのように一体化している(いわゆる全翼機)など、非常に独特な形状の機体となっています。加えて、B-2は約9600km(東京~パリ間に相当)という非常に長大な航続距離を誇り、もちろん飛行中に空中給油機から燃料を受け取れば、その航続距離をさらに伸ばすことも可能です。
しかし、B-2はこうした高い性能と引き換えに、その機体単価が非常に高額であることでも有名で、その価格は1機当たり少なくとも1000億円以上と言われています。
今回、アメリカ空軍は3機のB-2を8月15日から9月27日の日程でハワイにあるパールハーバーヒッカム統合基地に史上初めて展開させました。この「史上初めての展開」が意味するところは後で詳しく見ていきますが、公表された情報によれば、B-2はこの基地を拠点にハワイ周辺のみならずそこから遠く離れた空域まで飛行し、数多くの訓練を実施したようです。なかでも、注目されるのは次にあげるふたつの訓練です。

ウェーキ島でホットピットリフューリングを受けるB-2(画像:アメリカ空軍)。
ひとつ目は、ステルス戦闘機F-22との共同訓練です。F-22はB-2と同様に敵のレーダーに捕捉されにくいステルス性をもち、さらに高い機動力や高性能なレーダーによって高い戦闘能力を誇る強力な戦闘機です。今回このF-22がB-2と共同訓練を実施したということは、もし戦争が発生すれば、F-22がB-2を護衛する可能性を示したといえるかもしれません。もし、B-2をF-15やF-16など非ステルス機が護衛すれば、敵にその動きをさとられてしまいますが、F-22ならば敵に気づかれることなくB-2を安全に護衛することができます。これこそまさに最高のペアといえるでしょう。
ふたつ目は、太平洋に浮かぶ非常に小さな島であるウェーキ島でのホットピットリフューリングの実施です。「ホットピットリフューリング」とは、航空機のエンジンを止めずに機体への給油を行うことで、これにより給油してから離陸するまでの流れを迅速化することができます。
それでは、今回のハワイへのB-2初展開には一体どのような意義があるのでしょうか。これには、北朝鮮や中国、さらにロシアといった国々から攻撃を受けた際の対応策を示したという意義があるのではないかと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は感じます。

空中給油を受けるためにKC-10空中給油機に接近するB-2(画像:アメリカ空軍)。
実はこれまでも、B-2はハワイを含むインド太平洋地域に進出してきたことはありましたが、その中心拠点となっていたのはグアム島にあるアンダーセン空軍基地でした。しかし、昨今このグアム島に対する諸外国からの脅威が増加してきています。たとえば、北朝鮮は弾道ミサイルによってグアムを攻撃する能力があると繰り返し主張していますし、中国もグアムを射程に収める弾道ミサイルや巡航ミサイルをすでに多数配備しています。つまり、北朝鮮や中国から遠く離れているとはいえ、グアムはもはや安全な後方地域ではなくなってきているのです。
そこで、ハワイが重要な意味を持ちます。仮にグアムが攻撃を受けたとしても、ハワイがそれに代わる拠点として機能すれば、アメリカ軍が活動する際の柔軟性を維持することができます。さらに今回、B-2はウェーキ島へも展開したことはすでに述べましたが、このような非常に小さな島も活用できることを示せたことで、グアムを使用できなくなったとしてもB-2をはじめとするアメリカ軍の航空機が引き続き活動できること、そして、それを支える拠点があることを示せたといえるでしょう。
一方で、敵にとってみれば、まるでもぐらたたきのように、太平洋上の様々な場所を攻撃しなければアメリカ軍の活動を阻止できなくなることを意味し、それを実現するための負担度合が吊り上げられたということが言えるでしょう。

2018年の「ロイヤル・インターナショナル・エアタトゥー」にて、デモ飛行するB-2爆撃機。「SPIRIT OF NEW YORK」は機体固有の愛称(画像:アメリカ空軍)。