2018年9月から、海上に架かる橋に相次いで大型の船舶が衝突し、大きな被害が生じています。このような事故は想定が難しい側面も。

安全対策はあるのでしょうか。

ライフラインも寸断の周防大島

 2018年10月22日(月)、山口県の周防大島と本土を結ぶ大島大橋に、外国籍の貨物船が衝突し、周防大島では大きな被害が出ています。橋桁(はしげた)が損傷したほか、橋に併設されている水道管などのライフラインも寸断され、10月25日(木)現在でも断水が続いている状況です。

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本州と周防大島を結ぶ大島大橋(画像:photolibrary)。

 橋は24日(水)に通行止めが解除されましたが、対面通行のうえ通行が2t車以下やバイクに限られ、給水車などは通行できません。橋を管理する山口県道路管理課によると、橋は鋼材を組んで構成されたトラス橋。

全長約180mと大型の貨物船が、橋の下を擦るように通行したことから、橋桁の側面および下面に損傷や変形が認められるといいます。

「橋の性能が低下しているため、片側通行で、かつ車両重量を制限しています。給水車などの通行を想定し、8t車まで緩和を緩和することを検討していますが、そのような大きなクルマが通行する際には、一時的にほかのクルマを通行止めにすることをイメージしています。ただ、重量の計算を厳密に行わなければならないので、すぐには難しいでしょう」(山口県道路管理課、10月25日時点)

 大島大橋の下は航路になっており、水面から桁下まで約30mの高さが確保されています。県道路管理課によると、これまで橋脚に小さな船が当たることはあったものの、損傷はいずれも軽微。今回のように、橋桁部分に船舶が衝突したことはことはないそうです。

「橋桁に船舶が衝突することを前提として設計しているわけではなく、そのために航路の空頭制限を設けています」(県道路管理課)。海上保安庁によると、今回は航海者が橋の高さなどを確認しておらず、クルマでいう高さ制限があるところを通ったことによる事故だといいます。

タンカー衝突の関空連絡橋、じつは同日に阪神高速にも

 関西では2018年9月4日、台風21号の影響で橋に船舶が衝突する事故が発生しています。関西空港と本土をつなぐ関空連絡橋では、台風の強風に流された燃料タンカーが下り線の橋桁に衝突しました。その後、まず衝突した船舶が、さらに損傷した橋桁がそれぞれ撤去されています。

 NEXCO西日本によると10月25日(木)現在、関空連絡橋は空港に向かう下り線に、上り線へのわたり線を設け、損傷個所を回避して運用しているとのこと。

この箇所では片側3車線の上り線を空港行き2車線、本土行き1車線に分けているといいます。そのほかの箇所では、ほぼ通常通りの運用だそうです。

「橋桁は大きく損傷しましたが、橋脚は塗装がはがれた程度で影響はありません。撤去した橋桁2スパン(橋脚と橋脚のあいだが1スパン)ぶんを造り直し、2019年のゴールデンウイーク前に復旧させる予定です」(NEXCO西日本)

相次ぐ海上橋への船舶衝突 周防大島、関空、阪神高速も… 「想定外」に安全対策はあるのか

タンカーが衝突した関空連絡橋の橋桁を撤去する様子(画像:NEXCO西日本)。

 関空連絡橋へのタンカー衝突事故が起きた9月4日、じつは阪神高速湾岸線でも同じような事故が発生しています。甲子園浜ランプ(兵庫県西宮市)付近の海上橋へ、台風の影響により内陸から流された船舶が衝突したのです。

 阪神高速道路によると、衝突したのは土などを運ぶ台船で、橋脚の上部、橋桁を直接支える梁の部分が損傷したとのこと。「当たってすぐ、損傷個所の直上は車線規制を敷きましたが、影響ないことを確認して解除しました。通行止めは行っていません」といいます。しかし、湾岸線に並行して一段低いところに架かる県道芦屋鳴尾浜線は、衝突の影響で橋げたに数十センチのずれが生じ、10月25日(木)現在も通行止めが続いています。

「想定できない」安全対策どうすれば

 阪神高速湾岸線は、多くの区間で海上を橋が通っていますが、このような船舶の衝突は、起こり得ることなのでしょうか。

「初めてとは言い切れませんが、非常に稀です。

橋脚の根本にあたるコンクリート支柱に小さな船などが接触することはこれまでにもあったと思いますが、桁を直接支える梁の部分に当たることは、想定されていません」(阪神高速道路)

 橋に損傷を与えるような重量を持つ船が下を航行する環境であれば、それを考慮して橋桁の高さを決めることはあるものの、損傷個所は、そのような船が通れる環境ではないといいます。そもそも、今回衝突した台船はそれほど高さのある船でもありません。にも関わらず、橋脚の梁にまで当たったことについて、事故当日は周辺の水位が相当上がっていたためと阪神高速道路は分析しています。

「湾岸線はほぼ海上を通っています。『ここが危ない』という特異なところがわかれば、対策はできるかもしれませんが、船がどこに流れ着くかもわかりません。ハードの対策は困難なところがあります」(阪神高速道路)

相次ぐ海上橋への船舶衝突 周防大島、関空、阪神高速も… 「想定外」に安全対策はあるのか

阪神高速湾岸線の橋脚へ台船が衝突。
右側に並行する県道は橋げたのずれなどが生じ、通行止めとなっている(阪神高速道路の画像を加工)。

 では、船への対策はどうなっているのでしょうか。海上保安庁は関空連絡橋へのタンカー衝突後、9月14日に船社および代理店などの関係団体に対し、荒天避泊(避難のための停泊)にかかる指導を要請。荒天を避けるために大阪湾で錨を下ろし停泊する場合、連絡橋などとの衝突を十分回避できる海域において行うよう指導するとともに、その監視を厳重に行うとしています。また、事故調査結果などを踏まえ、より詳細な運用を決めていくとのことです。

 ただ、高さ制限を超える貨物船が衝突した周防大島の件については、「橋の高さを海図などで確認することは、航海者の一般的な知識としてもっていないといけないこと」とのこと。対策をどうこうする以前の話だといいます。