自衛隊や世界各国の軍の部隊などには、モットーを掲げているところが少なくありません。その隊の理念や行動指針を端的に表すものですが、なかにはユニークなものや、実に皮肉の効いたものもあります。

言霊(ことだま)の国の、言葉をめぐるお話

 2018年11月、ある地方紙において、航空自衛隊が保有する戦闘機の垂直尾翼に「見敵必殺」という言葉が書かれたことに対し、「刺激的すぎ、時代錯誤なのではないか」という趣旨の声が紹介されました。

賛否両論あった空自戦闘機部隊のモットー「見敵必殺」 掲げる言...の画像はこちら >>

2013年、隊内の戦技競技会優勝を記念するマーキングが施された、第6飛行隊所属F-2戦闘機。尾翼上に「見敵必殺」のモットーが見える(画像:Photolibrary)。

 これは築城基地(福岡県)に駐留する航空自衛隊第6飛行隊が、同基地において開催される航空祭にあわせ、F-2戦闘機に施した記念マーキングであり、SNSなどにおいても賛否両論の大きな話題となりました。

「見敵必殺」とはすなわち「敵を見たならば必ず殺す」という意味ですが、これは第6飛行隊のモットーであり、同隊の上位組織である西部航空方面隊公式ウェブサイトにかつて掲載されていた記事において、「現有戦力を最大発揮して、必ず敵を倒すという至上命令を端的に表した言葉である」と説明されていました。

 自衛隊の戦闘機に書く言葉として適切か否かはさて置くとして、実は第6飛行隊所属機に対して「見敵必殺」という言葉を書き始めたのは、2018年が初めてのことではありません。それどころか確認できた範囲だけでも、現F-2の前任機であるF-1の時代においても行われており、前世紀から続く長い歴史があります。

「誰かが生きているかぎり」掲げ救助へ

 自衛隊や他国の軍隊に属する部隊すべてが、こうしたモットーを掲げているわけではないようですが、モットーを全面に押し出すこともまた、それほど珍しくはないようです。

賛否両論あった空自戦闘機部隊のモットー「見敵必殺」 掲げる言葉に見える特色、ほかにも

航空自衛隊 航空救難団のUH-60J救難ヘリコプター(画像:航空自衛隊)。

 たとえば航空自衛隊において、捜索救難や輸送を専門とする航空救難団のモットー「That others may live(誰かが生きているかぎり)」は、最も広く知られているもののひとつだと言えます。

 このモットーは、航空救難団と同じ任務を負うアメリカ空軍パラレスキュー部隊のそれがオリジナルであり、「負傷者の救命、救助はパラレスキューマン(救難員)としての私の義務である。私はつねに迅速かつ効率的に任務を果たす覚悟ができている。

欲求や快楽よりも任務を優先する。私は『誰かが生きているかぎり』これを行う」という決意の表明から、最後の一文を借り受けたものです。

 事実、彼らは要救助者が生きている限りかならず救助に出動し、仮にひとりを救出するのに何人もの死傷者を出しても、任務を断念することはありません。

「平和が職業」掲げる部隊は…?

 なかには面白いモットーもあります。陸上自衛隊において最も厳しい課程のひとつとして知られる、レンジャー養成教育で叩き込まれる「レンジャー五訓」などは、

一.飯は食うものと思うな
二.道は歩くものと思うな
三.夜は寝るものと思うな
四.休みはあるものと思うな
五.教官・助教は神様と思え

という、ちょっと驚くような内容となっています。

賛否両論あった空自戦闘機部隊のモットー「見敵必殺」 掲げる言葉に見える特色、ほかにも

山口駐屯地第17普通科連隊の、レンジャー教育における山地潜入訓練の様子(画像:陸上自衛隊)。

 また、RF-4E/RF-4EJ偵察機を運用する百里基地(茨城県)の偵察航空隊 第501飛行隊は「見敵必撮」という、今回、新聞記事になった「見敵必殺」をもじったモットーを掲げています。滑稽でありつつも味のある、いかにも偵察機部隊らしい傑作であると言えるのではないでしょうか。

 筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)の独断で選ぶ最も印象的なモットーは、冷戦時代のアメリカ空軍に存在した、戦略航空軍団(SAC)が掲げた「Peace is Our Profession(平和が我々の職業)」です。

 戦略航空軍団のおもな任務は、核兵器を搭載した戦略爆撃機や大陸間弾道ミサイルの運用でした。すなわち彼らが力を発揮する時とは、「世界終末時計」の秒針が最後の0秒を指した瞬間であり、現代文明崩壊を意味しました。核兵器はあくまで抑止力でありそれを使ってはならない。

それをしないことが職業であるというモットーを、あえて彼らは掲げていたのです。

編集部おすすめ