航空自衛隊がある一方で、なぜ海上自衛隊も航空部隊を持つのでしょうか。世界有数の部隊規模という「固定翼哨戒機」とは、どのような飛行機なのでしょうか。

最新哨戒機P-1を擁する、厚木の第3航空隊司令に聞きました。

実は世界的にも大規模な哨戒機部隊

「海上自衛隊」と聞くと、まずイージス艦であったりヘリコプター搭載護衛艦であったりと、最初に護衛艦が思い浮かぶのではないでしょうか。確かに海上自衛隊には大小さまざまな艦艇が所属しており、世界的に見てもその規模は小さくはありません。

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海上自衛隊厚木基地に所属する第3航空隊の藤澤 豊司令とP-1哨戒機(2018年12月7日、関 賢太郎撮影)。

 他方、実は海上自衛隊には、「小さくはない」どころか、とびぬけて大規模な固定翼(ヘリコプターなどの回転翼に対していう、航空機の胴体に固定された翼のこと)哨戒機部隊があります。「哨戒機」とは、海上をパトロールし船舶や潜水艦を探知する能力に優れた軍用機であり、現在、海上自衛隊ではアメリカで開発され、川崎重工でライセンス生産したP-3C哨戒機と、その後継機として置き換えが進んでいる国産新型機P-1哨戒機の、2機種を運用しています(ほか、回転翼哨戒機を保有する)。

 では海上自衛隊の哨戒機部隊は、具体的にどのくらい大規模なのでしょうか。2018年度「防衛白書」によると、海上自衛隊はP-3Cを54機、P-1を19機、合計73機を保有しているとされます。

 P-3Cは日本以外においても、韓国や台湾、カナダ、オーストラリアなどにも配備されていますが、これらの国々ではおおむね12機から20機程度にすぎず、またロシア海軍でさえ、P-3Cと同等のIl-38やTu-142といった哨戒機は44機しか運用していません。アメリカ海軍を除き、海上自衛隊より多くの哨戒機を持っている組織は存在しないのです。

 そして特筆すべきは、新鋭機P-1の高性能ぶりです。P-1は2018年現在、生産されている哨戒機のなかでは「世界で唯一、哨戒機として設計(ほかは輸送機や旅客機ベース)」され「世界で唯一、ジェットエンジンを四発搭載」しており、世界最大級の大型機で燃料搭載量も多いことから、飛行性能の面においてほかを大きく引き離します。

なぜ海自の固定翼哨戒機はそんなに充実しているの?

 日本の人口や経済規模に対する陸海空自衛隊の隊員数は、ほかの国に比べると、明らかに小規模です。それなのになぜ、哨戒機だけが例外的に充実しているのでしょうか。2018年現在のところ唯一となるP-1実働部隊、厚木基地(神奈川県)の第3航空隊司令を務める藤澤 豊 1等海佐は、哨戒機の重要性について以下のように語ります。

「日本はご存知の通り四方を海に囲まれている国ですから、外からの脅威は海を介して来ます。もちろん脅威が無ければ幸いですが、不法行動するような外国の船舶などもあるかもしれません。日本の立ち位置としては、つねに周辺海域に目を配らせて、不法行動する者がないかを監視する必要があろうかと思います。そのなかにあって固定翼の哨戒機は、(ヘリに比べて)遠くまで飛行できますので、日本の周辺海域を監視するためには非常に有効です。ここ厚木だけではなく、北は八戸基地(青森県)、南は那覇基地(沖縄)まで、各地の航空隊が同様の任務を行うために哨戒機を保有しています」(藤澤司令)

海自が飛行機を飛ばすワケ 厚木基地P-1保有の航空隊司令に聞く「日本の海の守りかた」

エアバスC-295MPA。離陸重量はP-1に比べ3分の1以下の双発機だが、それでも哨戒機としてはかなり大きな部類に入る(関 賢太郎撮影)。

 海域のパトロールだけならば、もちろん護衛艦などの艦艇も行っていますが、哨戒機は艦艇の10倍以上もの速度を持ち、短時間で広い海域を監視可能です。また1回の飛行で監視できる面積は、搭載する燃料量に依存します。実のところP-3Cでさえ、例外的とも言える大型機であり、多くの国で使われている哨戒機の大多数は、ひと回り小さい双発プロペラ輸送機や、ずっと小さいビジネス機をベースとした機種が主流です。

大型哨戒機、しかも高性能なジェット機を多数そろえる海上自衛隊の哨戒機への力の入れ具合は、他国に比べまさに破格だと言えるでしょう。

そもそもなぜ海自に航空部隊が?

 一方でP-3CやP-1は、大型機ゆえに滞空時間が長いといってもせいぜい10時間程度ですから、艦艇のように同じ海域に数日間とどまることはできません。そこで哨戒機は、艦艇とそれぞれの長所を生かした連携が必要となり、そしてそれが哨戒機という航空機を、「航空」自衛隊ではなく「海上」自衛隊が運用する理由にもなっていると、藤澤司令は言います。

「海上自衛隊というと、船と潜水艦しか持っていないイメージになろうかと思いますが、陸海空自衛隊は活動するエリアに応じて分けていると考えてください。P-1にはレーダーも積んでおり、自身を防御するための防御装置も取り付けていますから空中の警戒監視もできます。ですが有事に関して言えば、基本的に空からの脅威、つまり航空機の相手は戦闘機を持っている航空自衛隊が対応し、航空自衛隊が空をクリアにし安全確保した状態で、海からの脅威に関してはそれが水上の船であろうと水中の潜水艦であろうと、海上自衛隊が担うのが適当だろうという理由から、それに適した哨戒機を(海上自衛隊の)航空部隊において運用しています」

海自が飛行機を飛ばすワケ 厚木基地P-1保有の航空隊司令に聞く「日本の海の守りかた」

インタビューに応じる藤澤司令(2018年12月7日、関 賢太郎撮影)。

 島国である日本は、「領海」および海中・海底資源などの主権がおよぶ「排他的経済水域」の合計面積は448万平方キロメートルと、領土面積の10倍以上になります。また、様々な対外物資流通のほとんどを海運に頼っています。

 海上自衛隊ではこれまで、P-3Cを派生型含め107機、調達しました。現在、生産が進むP-1が何機、調達されるかは現在のところ不明ですが、2017年の時点では約70機を取得するとして、コストの見積もりが行われています。今後は無人哨戒機の導入などによって、計画が見直される可能性も十分にありますが、いずれにせよ海上自衛隊における哨戒機重視の姿勢が変化することは無いでしょう。

【写真】まだまだ現役、海上自衛隊のP-3C哨戒機

海自が飛行機を飛ばすワケ 厚木基地P-1保有の航空隊司令に聞く「日本の海の守りかた」

ロッキードP-3C「オライオン」哨戒機。
ロッキード「エレクトラ」旅客機をベースとした、ターボプロップ4発哨戒機(関 賢太郎撮影)。

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