F-35戦闘機のシミュレーターは、実につまらないといいます。そのつまらなさこそ、自衛隊の大量調達が妥当といえる理由にもなっています。

F-35大量調達決定

 2018年12月18日(火)、今後おおむね10年間の国防方針を示した「防衛大綱」(以下「新防衛大綱」)と、これに沿った今後5年間の政策と装備調達量を定めた「中期防衛力整備計画」(以下「新中期防」)が発表されました。新中期防は2019年度から2024年度まで適用されますが、そのなかで、F-35戦闘機42機を導入する方針が明らかにされました。

 加えて政府は、将来的には前述の42機を含む計105機を導入する方針であることも示しており、2011(平成23)年に導入を決定した42機と合わせると、自衛隊にはおよそ150機のF-35戦闘機が配備されることになります。

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イギリス海軍の空母「クイーン・エリザベス」から発艦するF-35B(画像:ロッキード・マーチン)。

 F-35の1機あたりの単価は100億円を超えており、2019年度からの5年間で、単純計算でも4000億円以上がF-35導入のために費やされます。このため一部のメディアや識者などからは、F-35の大量導入に対する批判の声も上がっています。

 筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)も、防衛装備品の導入には様々な観点からの議論がなされるべきだと考えていますが、F-35を105機導入することに関しては、妥当な選択だとも思っています。

 F-35のメーカーであるロッキード・マーチンは、11月28日(水)から30日(金)の3日間、東京ビッグサイトで開催された「国際航空宇宙展示2018東京」に、F-35のシミュレーターを持ち込み、招待者やメディア関係者などへの体験搭乗を実施しており、筆者も空対空戦闘を体験してきました。

 筆者は2011(平成23)年にも、F-35シミュレーターの体験搭乗を経験していますが、今回も7年前と同様、「あまり面白くないな……」という感覚を覚えました。

 筆者はユーロファイター「タイフーン」やJAS39「グリペン」といった戦闘機のシミュレーターにも体験搭乗をしていますが、これらの戦闘機のシミュレーターには、ビデオゲームのような「自分で戦闘機を操縦して戦っている」という高揚感がありました。これに対しF-35のシミュレーターは、ディスプレイに映った目標と使用するミサイルをタッチパネルで選択後、ミサイルの発射スイッチを押すだけで空対空戦闘が終わるため、高揚感はありません。筆者が「あまり面白くない」と感じたのは、そのためなのだと思います。

つまらないことが進化の証

 筆者のような、たまにシミュレーターに乗る人間に「あまり面白くない」と感じさせるF-35の特徴は、今後の日本が戦闘機戦力を維持していく上で、大きな武器となります。

 アメリカ空軍のチャック・ホーナー退役空軍中将は、作家のトム・クランシー氏との共著『暁の出撃』のなかで、「F-16戦闘機を操縦するには、ピアニストのような技能を身につけなければならない。しかも、一度に2台のピアノを演奏する技能をだ」と述べています。

 F-16には、パイロットの操作を電気信号に変換し操縦翼面(翼の舵になる部分)を動かす「フライ・バイ・ワイヤ」を実用戦闘機として初めて採用したほか、多機能液晶ディスプレイを採用してアナログ式計器を減らすなど、F-15戦闘機などに比べてパイロットの負担を大きく軽減したことで知られていますが、それでも任務飛行中のパイロットには、常人離れした運動神経や集中力が要求されます。

つまらない戦闘機F-35の大量調達が妥当な理由 いずも型への艦載だけじゃない目的も

「国際航空宇宙展2018東京」にて、ロッキード・マーチンのブースに展示された、F-35Bの大型模型(竹内 修撮影)。

 新防衛大綱のなかでも指摘されていますが、日本は少子高齢化と人口減少が進んでいるほか、LCC(格安航空会社)の広がりや、中国、東南アジア諸国などの経済成長によって民間航空路線は拡大の一途をたどっており、そうした要因からパイロット不足が深刻化しています。このような状況が続く限り、将来、航空自衛隊の戦闘機パイロットの確保が困難になることは間違いありません。

 前にも述べたようにF-35は、「自分で戦闘機を操縦して戦っている」という感覚に乏しい、すなわち、コンピューターが膨大な情報を整理してパイロットに必要な情報を提供するといったサポート能力を備え、パイロットの操縦や戦闘時の負担を減らしてくれる戦闘機であり、パイロットに求められる常人離れした能力の基準を、F-15戦闘機などに比べて大きく下げることができます。少子高齢化と人口減少の進む日本では、F-35のように機体が人間をサポートしてくれる能力を持つ戦闘機でなければ、将来も戦闘機戦力を維持していくことはできないと筆者は思います。

F-35B導入の、もうひとつの「狙い」

 新中期防では導入するF-35戦闘機42機のうち、18機を、F-35のSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)型の「F-35B」とする方針も示されています。

 新防衛大綱と新中期防には、海上自衛隊のいずも型ヘリコプター搭載護衛艦へ、F-35Bの運用能力を与えるための改修も盛り込まれています。このためF-35Bは、事実上の空母となるいずも型の艦載機という側面だけが注目されていますが、実のところF-35Bの導入には、もうひとつの狙いがあります。

 自民党の安全保障調査会は、政府が新防衛大綱を策定するにあたって、与党の立場から新防衛大綱をこのようなものにすべしとの提言をまとめて、2018年5月29日に発表しています。この提言で安全保障調査会は、有事の際に航空自衛隊の基地が先制攻撃を受けて戦闘機が破壊されたり、基地滑走路が使用できなくなったりする可能性を指摘し、その対策として、簡易型防護シェルターの導入や施設の地下化などと共に、F-35Bを導入するべきであるとの結論に達しています。

 防衛省は平成31年度防衛予算の概算要求で、滑走路が爆弾などの攻撃で被害を受けた際の復旧能力向上に必要な器材の取得費を計上していますが、ミサイルなどを搭載した状態でも150m程度の滑走で離陸して、垂直着陸できるF-35Bであれば、最低限度の復旧工事で攻撃を受けた基地の滑走路からの出撃ができます。

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「国際航空宇宙展2018東京」でレイセオンが展示した、自動誘導着陸システム「JPALS」のコンセプトCG(竹内 修撮影)。

 アメリカの大手防衛メーカーであるレイセオンは「国際航空宇宙展2018東京」にて、F-35などの航空機を電波で誘導し、空母や強襲揚陸艦の飛行甲板へ自動的に着艦させる「JPALS(統合精密アプローチ・着艦システム)」の展示を行いましたが、同社は設備の整わない空港などでの自動着陸を想定した、地上型のJPALSの開発を進めていることも明らかにしています。このシステムを導入すれば、緊張度が高まった時、滑走路が短く、設備の整わない地方空港などにF-35Bを分散配置して、敵の先制攻撃を受けにくくするという運用も可能となります。

「ステルス戦闘機」や「空母艦載機」といった観点から語られることが多いF-35ですが、導入にはこれらの理由もあることを知った上で、導入の是非や導入数についての議論がなされるべきだと、筆者は思います。

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