いずも型ヘリ護衛艦の、事実上の空母化が大いに取り沙汰されていますが、どのように運用されるのかという観点から「新防衛大綱」および「新中期防」を眺めると、そこに、今後の世界戦略が見えてきます。

「いずも」、事実上の空母へ改修

 2018年12月18日(火)、政府は、おおよそ今後10年間の防衛方針を定めた「防衛大綱(防衛計画の大綱)」と、おおよそ今後5年間の防衛力整備方針を定めた「中期防(中期防衛力整備計画)」を発表しました。

そのなかで、各メディアにてひときわ大きく報じられているのが、中期防に盛り込まれた海上自衛隊のいずも型護衛艦に対する改修です。

自衛隊は積極的に海外へ 「いずも型空母化」を軸に読む防衛大綱...の画像はこちら >>

インド太平洋方面派遣訓練に参加する海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「かが」(右)とインド艦艇(画像:海上自衛隊)。

 これによれば、現在ヘリコプター護衛艦として運用されているいずも型に、STOVL機(「短距離離陸・垂直着艦」の略で、狭い場所でも離着陸ができる固定翼の航空機〈いわゆる飛行機〉)の運用能力、具体的には航空自衛隊が新たに導入する戦闘機F-35Bを運用する能力が付与されることになります。

 これを達成するために、いずも型が受けるであろう改修内容は多々考えられますが、最も重要なのは飛行甲板の耐熱化です。これは、F-35Bが垂直着陸を行う際に機体から甲板に向けてたたきつけられる超高温のエンジン排気に対する対策で、これが無ければ、いずも型の甲板は排気熱による損傷を受けてしまいます。つまり、この改修はまさにF-35Bを運用するための、基本中の基本といえます。

 今回の改修によって、いずも型は8~10機程度のF-35Bを搭載する能力を持つようになるとみられ、平時から有事にかけてさまざまな場面での活用が期待されます。

改修はなぜ必要? 背景に太平洋方面の防衛

 それでは今回、いずも型をF-35Bの運用が可能になるように改修する目的とは、いったいなんでしょうか。これについて、防衛大綱と中期防では、太平洋方面での防空体制強化をその目的として挙げています。

自衛隊は積極的に海外へ 「いずも型空母化」を軸に読む防衛大綱、見えてくる世界戦略

海自護衛艦「かが」に着艦する哨戒ヘリSH-60K。「哨戒ヘリ」とは、海上をパトロールし船舶や潜水艦を探知する能力に優れたヘリコプターのこと(画像:海上自衛隊)。

 近年、尖閣諸島がある東シナ海のみならず、その先の太平洋(フィリピン海を含む)でも中国軍の動きが活発化してきています。

具体的には、中国海軍の艦艇や航空機が沖縄本島と宮古島の間にある宮古海峡を抜け、積極的に太平洋方面に進出してきているのです。こうした現状を踏まえて、防衛大綱では最近の中国軍の活動について「太平洋や日本海においても軍事活動を拡大・活発化させており、特に、太平洋への進出は近年高い頻度で行われ、その経路や部隊構成が多様化している」と分析されています。さらに、将来的に中国海軍が空母を中心とする機動部隊を本格的に運用するようになれば、こうした動きがより一層活発化するかもしれません。

 もしそうなれば、日本の太平洋側が有事の際に航空機から攻撃を受ける脅威にさらされます。その一方で、太平洋側、特に小笠原諸島周辺には、従来より中国やロシアの脅威に対抗する必要があった日本海側と比して、こうした航空攻撃などに対処するための戦闘機を運用可能な滑走路を有する基地の数が限られており、具体的には海上自衛隊が持つ硫黄島(東京都小笠原村)の基地のみという状況です。これでは、本州以遠の太平洋側での防空体制に隙間が生じる可能性もぬぐえません。

 こうした懸念は防衛大綱においても「(太平洋側は)広大な空域を有する一方で飛行場が少ない」という文言によってあらわされています。そこで、いずも型とF-35Bを組み合わせることで、まさに洋上の航空基地としてこれを活用し、既存の防空体制の隙間を埋めようとしているのです。

 単純に戦闘機を太平洋側に向けて飛行させるだけならば、日本本土から空中給油機などを活用しながら飛行させれば良いという考え方もあるかもしれません。ただ、空中給油機では燃料を補給することしかできず、当然、弾薬の補給やパイロットの交代を空中で行うことはできません。その点、改修後のいずも型ならば、着艦するF-35Bに対して燃料と弾薬の補給やパイロットの交代を行うことができ、太平洋側におけるより効率的な戦闘機の運用体制を構築することができるのです。

インド太平洋で活動を強化する自衛隊 背景にどんな戦略が?

 今回の防衛大綱において、「太平洋」という単語を含む言葉は2種類使われています。

ひとつは、すでに説明した「日本の太平洋側」というもので、これは日本列島の防空体制と関連する形で用いられています。

自衛隊は積極的に海外へ 「いずも型空母化」を軸に読む防衛大綱、見えてくる世界戦略

海自護衛艦「かが」格納庫にて。ヘリのメインローターブレード(主回転翼)の翼端が複雑に曲がっているのは仕様で、SH-60Kの特徴でもある(画像:海上自衛隊)。

 そしてもうひとつは、「インド太平洋」という形です。文字通り太平洋とインド洋のことですが、防衛大綱において日本は、このインド太平洋でのプレゼンス(存在感)を強化することが示されており、実は今回の防衛大綱において用いられている「太平洋」に関する言葉としては、後者の「インド太平洋」のほうが圧倒的に多いのです。言い換えれば、日本はこのインド太平洋を非常に重要視しているといえます。

 この重要視の背景にあるのが、日本の安倍政権が掲げる「開かれたインド太平洋戦略」です。これは、インド太平洋を通じてアジアとアフリカを連結し、地域の安定と繁栄を実現しようという構想で、そのために、この地域における海洋の自由や法の支配を確保することを目指しています。重要なのは、このインド太平洋という概念には、中国が海洋進出を強める南シナ海も含まれているということです。つまり、日本は自国周辺の太平洋のみならず、南シナ海などにおける中国の海洋進出にも、自衛隊のプレゼンスを示すことで対抗していこうと考えているわけです。実際に、海上自衛隊は2017年には護衛艦「いずも」を、2018年には「かが」をそれぞれ中心とした部隊を、南シナ海などに「インド太平洋方面派遣訓練」と題して長期間派遣しています。

 また、これは日本単独の試みではありません。

防衛大綱においては、インド太平洋での「日米でのプレゼンス強化」をうたっていて、実際に上記の海自部隊によるインド太平洋方面派遣訓練では、フィリピン周辺などで米海軍の原子力空母などとも共同訓練を実施し、日米の連携をアピールしました。さらに、日本はオーストラリアやイギリス、フランスといった国々とも、インド太平洋での秩序維持で連携していくことを明らかにしています。

 今回の防衛大綱は、これから日本がより積極的に海外、特にインド太平洋に進出し、かつそこで多国間協力を推進していくことを印象付ける内容となりました。そして、そこにおいて改修を受けたいずも型護衛艦とF-35Bがどのような役割を果たすことになるのか、注目する必要がありそうです。

【写真】「かが」の戦闘指揮所(CIC)

自衛隊は積極的に海外へ 「いずも型空母化」を軸に読む防衛大綱、見えてくる世界戦略

海自護衛艦「かが」の戦闘指揮所。レーダーや音波を探知するソナーなど、戦闘に関する情報が集約されており、戦闘時はここから指揮を執る。(画像:海上自衛隊)。

編集部おすすめ