来日したイギリス海軍フリゲート艦「モントローズ」が一般公開されました。今回は北朝鮮の瀬取り監視のための派遣ですが、EU連合からの離脱(ブレグジット)を控え、その後を見据えた日英関係強化の意図も見られます。

イギリス海軍の「モントローズ」晴海ふ頭で一般公開

 2019年3月9日(土)と10日(日)に、イギリス海軍のフリゲート艦(巡洋艦や駆逐艦に比べてややコンパクトな軍艦)「モントローズ」が、東京の海の玄関口である晴海ふ頭において一般公開されました。

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晴海ふ頭にて一般公開された、イギリス海軍のフリゲート艦「モントローズ」。艦橋の前方に4.5インチ砲(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。

「モントローズ」は、イギリス海軍で現在13隻が運用されている23型フリゲートの8番艦で、全長こそ133mと、海上自衛隊の一般的な汎用護衛艦(海上自衛隊の主力戦闘艦艇で、他国の駆逐艦に相当)の全長である約150mに及びませんが、戦闘能力では引けをとりません。たとえば、艦前部には対空戦闘や対艦戦闘に使用される4.5インチ(114mm)砲や垂直発射装置(VLS)に装填された艦対空ミサイル、さらに遠距離にいる敵艦艇を攻撃する対艦ミサイル「ハープーン」が、そして艦後部には潜水艦を攻撃するための短魚雷や、対潜戦から人命救助まで幅広く対応できるヘリコプターの「ワイルドキャット」をそれぞれ装備しています。

日英なぜ急接近? 英軍艦「モントローズ」来日と一般公開の背景にブレグジット問題

艦前部に設置された、ミサイルなどの垂直発射装置。
艦対空ミサイルが装填されていた(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。
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「ミサイルは警告なく発射される場合がある」との警告(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。
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小型船舶への対処などにおいて、機関銃を設置するための銃座(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。

 それでは、このような強力な能力を備える「モントローズ」が、イギリス本国から遠く離れた日本にまでやってきた理由とは、いったい何でしょうか。それは北朝鮮との違法な物資のやり取り、いわゆる「瀬取り」の監視を行うためです。

「モントローズ」 おおやけの派遣目的は北朝鮮対応だけど…?

 2019年3月現在、北朝鮮に対しては、同国の核開発や弾道ミサイルの開発が周辺国の安全を脅かしているとして、国連安全保障理事会の決議を根拠とし、世界各国が経済制裁を科しています。

しかし、その経済制裁を潜り抜けて、物資や金銭を海上で違法にやり取りするのが「瀬取り」と呼ばれる行為です。

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アメリカ海軍など世界各国で採用されている「ハープーン」対艦ミサイル(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。
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海上にレーダーリフレクターを展開し対艦ミサイルなどを妨害する装置。船体左右に2基ずつ計4基装備されている。(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。
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小型船舶などに対して用いられる30mm機関砲(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。

 この瀬取りを放置すれば、せっかく世界各国が北朝鮮に対する経済制裁を実施しても、その効果が減少してしまいます。そこで、近年では日本やアメリカに加え、イギリスやオーストラリア、カナダやフランスなどの国々も瀬取りを監視するために、日本へ軍艦や航空機を派遣するようになっているのです。

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「モントローズ」ヘリ格納庫の「ワイルドキャット」。対潜戦闘などに用いられる(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。
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「ワイルドキャット」のウインチ。一度に5人まで吊り下げることが可能(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。

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臨検などほかの船舶に移乗する際などにはこうした銃器も用いられる(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。

 今回の「モントローズ」派遣は、そうした流れのなかで決定されたものです。2019年1月10日に安倍総理がイギリスを訪問した際に発表された「日英首脳共同声明」にて明らかにされたもので、そこには「モントローズ」の派遣目的について「北朝鮮に関連する国際連合安全保障理事会決議の履行を支援するため、違法な海上活動に対して警戒監視活動を行う」ためと、しっかり明記されています。

 と、ここまではおおやけの理由ですが、今回の来日はそれだけが目的ではないようです。

イギリスと日本が急接近の背景にEU離脱問題

 2018年以来、日本を訪れたイギリス海軍の軍艦の数は、今回の「モントローズ」を含めて実に4隻にも上ります。これは、同じ期間に日本を訪れた他国の軍艦の数と比較しても異例の多さです。

これらのイギリス海軍艦艇は、基本的に前述した瀬取り監視を主な目的として派遣されているのですが、その実、近年において日本とイギリスの関係が緊密になってきているということも関係していると、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は感じます。

日英なぜ急接近? 英軍艦「モントローズ」来日と一般公開の背景にブレグジット問題

ホストシップを務めた海上自衛隊の護衛艦「むらさめ」の艦尾より(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。

 近年の日英関係については、安倍総理が2019年1月10日にロンドンで行われた日英首脳による共同記者会見において「(1902年に締結された)日英同盟以来の親密な関係を構築している」と説明しているとおり、非常に緊密な関係を構築しています。その背景には、イギリスがヨーロッパ連合(EU)から離脱(ブレグジット)した後の、アジアにおける経済進出や兵器輸出を見据えて、日本との連携を通じた自国のプレゼンス(存在感)強化を図っている動きがあります。加えて、日本としても中国の海洋進出に対し、なるべく多くの国々と連携して対抗していきたいという思惑があり、さらにイギリス自身も、特に南シナ海における国際法の原則を無視した中国の姿勢は許容できないということもあって、こうした両国の利害関係が一致したことも挙げられます。

 今後、この関係がより深化すれば、イギリスは日本にとってかけがえのないパートナーとなっていくことが予想されますが、今回の「モントローズ」公開はこうした新たな日英関係を象徴するようなできごとといえるでしょう。

【写真】前方甲板に鎮座する4.5インチ砲塔の内部

日英なぜ急接近? 英軍艦「モントローズ」来日と一般公開の背景にブレグジット問題

「モントローズ」の前方甲板首に設置された4.5インチ単装砲の、砲塔の内部。基本的に砲塔内は無人で、弾倉は甲板より下方にあり、そこに給弾手がつく(2019年3月9日、稲葉義泰撮影)。