鉄道路線は、経由する地域や旧国名などを名称に採用している例が多いですが、JR札沼線や西武有楽町線など、区間と名称が合っていないケースも。なぜこのようなことが生じているのか、実例を挙げて検証します。

路線の部分廃止で路線名と合わなくなる

 鉄道路線の多くは、通過する地域や旧国名、街道などの名前、起終点の地名などを名称に採用していますが、なかにはその路線が通っていない地域を路線名に組み込んでいることも。そうなってしまったのには理由があり、いくつかのパターンに分けることができます。

 ひとつ目は「以前はつながっていたけれど廃止された」例。JR北海道の札沼線などです。

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1972年に新十津川~石狩沼田間が廃止された札沼線。現在は「学園都市線」の愛称が付く(児山 計撮影)。

 札沼線は、路線の両端である札幌駅(北海道札幌市)の「札」と、石狩沼田駅(同・沼田町)の「沼」を取って名付けられました(札幌側の起点は、厳密には札幌駅の隣の桑園駅)。しかし、1972(昭和47)年に新十津川駅(同・新十津川町)と石狩沼田駅のあいだが廃止され、「沼」には行かない札沼線に。沿線には北海道医療大学などがあり、1991(平成3)年に付けられた「学園都市線」という愛称の方が実態に合っているといえます。なお、札沼線の北海道医療大学~新十津川間47.6kmは、2020年5月7日に廃止されることが決まっています。

 JR東日本の山田線は、盛岡駅(岩手県盛岡市)から太平洋沿岸の岩手県山田町を目指して建設されたことから命名されましたが、2011(平成23)年3月の東日本大震災で山田町の陸中山田駅を含む区間が被災。長期運休ののち、2019年3月に宮古~陸中山田~釜石間が三陸鉄道リアス線として復旧しました。

その結果、山田線の区間は盛岡~宮古間に短縮され、「山田町を通らない山田線」となりました。 

志半ばで力尽きたケースも

 ふたつ目は「路線を計画しながらも途中で断念した」例です。

 千葉県内を走る小湊鐵道は、JR内房線の五井駅(千葉県市原市)から内陸部の上総中野駅(同・大多喜町)を結ぶ路線ですが、沿線には「小湊」という地域はありません。

 これは元々、小湊鐵道が五井駅から太平洋側の安房小湊駅(千葉県鴨川市)までを結ぶ路線として計画されたことに由来します。五井駅側から建設が始まり、1928(昭和3)年に上総中野駅(千葉県大多喜町)までの路線が開業しました。しかし、上総中野駅から先は山岳地帯であり、技術的、採算的にも困難とされ、建設を断念した経緯があります。

 その小湊鐵道と上総中野駅で接続している第三セクターのいすみ鉄道いすみ線は、国鉄時代は木原線という路線名でした。木原線の「原」は外房線の大原駅(千葉県いすみ市)ですが、「木」は内房線の木更津駅(同・木更津市)を指しており、小湊鐵道と同様に房総半島を横断して、内房と外房を結ぶ計画の路線でした。なお、西側の木更津~久留里間は、久留里線として開業しています。

 このように、ルート上に山岳地帯があることから資金面や技術面で計画を断念する例は少なくありません。路線名からかつての構想を読み取れるケースとしては、上野国(現在の群馬県に相当)と信濃国(現在の長野県に相当)を結ぶ計画だった上信電鉄も同様です。

 上信電鉄の場合、終点の下仁田駅(群馬県下仁田町)を降りると、その先に山が立ちはだかっていて、工事の困難さがいまでも伝わってきます。

特異な「西武有楽町線」

 前述のふたつのケースは、構想と現実のギャップから生じた結果ですが、当初から意図した名前で「目的地に達しない路線名」を付けるケースもあります。

 西武鉄道の西武有楽町線は、練馬駅(東京都練馬区)と小竹向原駅(同)を結ぶ路線で、途中駅は新桜台駅(同)のみ。小竹向原駅からは東京メトロ有楽町線・副都心線に乗り入れますが、西武有楽町線自体は有楽町(東京都千代田区)につながっていません。

奈良を走らないJR奈良線、なぜ? 今春も誕生「路線名と経由地が合わない」鉄道路線

西武有楽町線は東京メトロ有楽町線を介して有楽町につながっている(児山 計撮影)。

 西武有楽町線は元々、都市の鉄道建設を計画立案する都市交通審議会が、1968(昭和43)年の都市交通審議会答申第10号において、8号線(有楽町線)として「成増および練馬から向原を通って明石町(新富町)に向かう路線」を整備すべきとして答申したことに由来します。

 このうち成増(地下鉄成増駅。

東京都板橋区)から新富町(同・中央区)までは営団地下鉄(現・東京メトロ)が建設し、練馬から小竹向原までは西武鉄道が建設することになりました。

 西武鉄道では、練馬~小竹向原間が8号線(有楽町線)の一部であることから、「西武鉄道の有楽町線」と位置付けて「西武有楽町線」という名称を付けています。

国鉄になる前、私鉄時代の名残も

 このように、目的地と路線名が離れていている場合は、何らかの歴史的経緯や由来が込められていることが大半です。

 東神奈川駅(横浜市神奈川区)と八王子駅(東京都八王子市)を結ぶ横浜線は、路線自体は横浜駅に達していません。しかし、かつては横浜鉄道という私鉄であり、それを国が買収したという由来があります。

奈良を走らないJR奈良線、なぜ? 今春も誕生「路線名と経由地が合わない」鉄道路線

かつて「横浜鉄道」という私鉄だったJR横浜線は、路線自体は横浜駅のひとつ手前、東神奈川駅まで(児山 計撮影)。

 JR奈良線は木津駅(京都府木津川市)から京都駅までを結ぶ京都府内の路線で、奈良駅どころか奈良県にすら到達していません。前身の奈良鉄道は、京都駅と奈良駅を結んでいましたが、国鉄となって路線名を決める際、奈良~木津間は関西本線に、木津~京都間は奈良線となったため、奈良線は奈良駅まで行かなくなったのです。

 このように、歴史をたどって路線名を調べてみると、意外な発見があるかもしれません。

※内容を一部修正しました(5月12日21時40分)。

【写真】上信電鉄の終着駅に立ちはだかる山々

奈良を走らないJR奈良線、なぜ? 今春も誕生「路線名と経由地が合わない」鉄道路線

上信電鉄 下仁田駅の先に立ちふさがる山々が、建設当初の目論見を断念させた(児山 計撮影)。