東京の中心駅として発展したJRの東京駅。地上では新幹線と在来線のホームが横に多数並んでいますが、中央線のホームは山手線と京浜東北線の上に設置されています。

そこには新幹線の「ある課題」を解決するための「知恵」がありました。

かつては「下」のホームを発着

 JRの東京駅は西と北へ延びる新幹線のターミナルであり、ほかにも東海道線や山手線、京浜東北線など多数の通勤路線が乗り入れています。ホームの数も多く、地下に建設された京葉線や総武・横須賀線のホームを除いても、地上に10個のホームと20本の線路が設置されています。

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東京駅へ到着する中央線の201系電車。なお201系は、2010年に中央線から引退している(2007年12月、恵 知仁撮影)。

 これらのホームは東西に並んでいますが、中央線の列車が発着する1・2番線ホームだけは、3・4番線ホーム(京浜東北線北行と山手線内回り)の上を通る高架橋に設置されています。かつては下にある現在の3・4番線ホームが中央線のホームでしたが、ある事情から高架ホームを建設して移設したのです。

 現在の東京駅が開業したのは1914(大正3)年ですが、このときは在来線のホームが赤レンガの駅舎がある西寄り(丸の内)に4つあるだけ。東寄り(八重洲)には車庫が設けられていました。このうち赤レンガの駅舎に一番近いホーム(現在の3・4番線ホーム)が、中央線のホームとして使われていました。

 その後、東京駅に乗り入れる列車が増えるのにあわせ、車庫の敷地を転用する形でホームが増設されていきます。1991(平成3)年に東北・上越新幹線の乗り入れが始まったころには、丸の内寄りから次の通りに並んでいました。

・旧1・2番線ホーム 中央線
・旧3・4番線ホーム 京浜東北線・山手線
・旧5・6番線ホーム 山手線・京浜東北線
・旧7・8番線ホーム 東海道線
・旧9・10番線ホーム 東海道線
・旧12・13番線ホーム 東北・上越新幹線
・14・15番線ホーム 東海道・山陽新幹線
・16・17番線ホーム 東海道・山陽新幹線
・18・19番線ホーム 東海道・山陽新幹線
※11番線は欠番

新幹線のホーム不足を「玉突き」で解消

 これに先立つ1989(平成元)年、北陸新幹線(長野新幹線)の高崎~軽井沢間が着工。1991(平成3)年には軽井沢~長野間も着工し、1997(平成9)年の長野までの開業を目指して工事が進められることになりました。しかし、ここで問題になったのが東京駅の「ホーム不足」です。

東京駅の中央線ホームが「上」にあるワケ 在来線だが「きっかけ」は北陸新幹線

中央線ホームの下にある京浜東北線・山手線ホーム(2012年9月、草町義和撮影)。

 長野新幹線の列車も東京駅に乗り入れて長野に直通することになっていましたが、JR東日本が東京駅に設けている新幹線用のホームはひとつだけ。このホームを東北新幹線と上越新幹線の列車がすでに使っており、さらに長野新幹線の列車も発着させるのは困難だったのです。

 この問題を解決するためには、根本的にはホームを増やすしかありません。しかし、この時点で車庫の敷地はすでに使い切っていました。従来通り東西に並べるような形でホームを増設するなら、その分土地を買収しなければなりません。駅の周囲は地価が高くビルが密集しており、膨大な費用がかかるうえに工事期間も長くなってしまいます。

 そこで考えられたのが、ホームを「東西」ではなく「上下」に並べること。1992(平成4)年から工事が始まりました。

 まず、中央線が発着していた旧1・2番線ホームの上に高架橋を建設。ここに新しい1・2番線ホームを設置し、1995(平成7)年に中央線を移設しました。これにより旧1・2番線ホームが空いたことから、旧3・4番線ホームを使っていた京浜東北線北行と山手線内回りを旧1・2番線ホームに移設。さらに旧3・4番線ホームには旧5・6番線ホームを使っていた山手線外回りと京浜東北線南行を移設……というように、在来線の線路を丸の内寄りに順次、「玉突き」で移転していったのです。

延びる新幹線、「将来」のホーム不足は?

 1995(平成7)年から在来線の「玉突き」移転を繰り返した結果、JR東日本の新幹線用ホーム(旧12・13番線)に隣接していた東海道線用の旧9・10番線ホームが空き、このホームを改築して新幹線用ホームを増設。最終的には次のようになりました。

東京駅の中央線ホームが「上」にあるワケ 在来線だが「きっかけ」は北陸新幹線

東京駅の新幹線ホーム(2011年2月、草町義和撮影)。

・新1・2番線ホーム:中央線
・旧1・2番線→新3・4番線ホーム:京浜東北線・山手線
・旧3・4番線→新5・6番線ホーム:山手線・京浜東北線
・旧5・6番線→新7・8番線ホーム:東海道線
・旧7・8番線→新9・10番線ホーム:東海道線
・旧9・10番線→新20・21番線ホーム:東北・山形・秋田・上越・長野新幹線
・旧12・13番線→新22・23番線ホーム:東北・山形・秋田・上越・長野新幹線
・14・15番線ホーム:東海道・山陽新幹線
・16・17番線ホーム:東海道・山陽新幹線
・18・19番線ホーム:東海道・山陽新幹線

 こうしてJR東日本の新幹線用ホームがひとつ増えたことから、同社は自社のホームの線路番号も振り直しました。しかし、そのまま番号を振り直すと1~14番線になり、JR東海が管理する東海道・山陽新幹線(14番線)と重複。そこでJR東日本は、新幹線ホームを19番線の続番にして重複を避けました。

 こうしてホーム不足の問題は解消され、1997(平成9)年に長野新幹線が開業。その後、東北新幹線の盛岡~八戸~新青森間や北陸新幹線の長野~金沢間、北海道新幹線の新青森~新函館北斗間が開業し、東京駅に乗り入れる列車の本数も増えていますが、いまのところはふたつの新幹線ホームで対応しています。

 しかし現在、北陸新幹線 金沢~敦賀間や北海道新幹線 新函館北斗~札幌間の延伸工事が進められています。将来的には東京駅のホーム不足が大きな課題として、再び浮上するかもしれません。

 もともとの構想では、上越新幹線と北陸新幹線のターミナルを新宿駅に設けて分散させることになっていましたが、建設費が膨大な額になることから実現していません。この構想の「復活」や東京駅のさらなる重層化も含め、検討されることになるのでしょうか。

※一部修正しました(6月12日9時00分)。

【表】こう変わった! 東京駅のホーム

東京駅の中央線ホームが「上」にあるワケ 在来線だが「きっかけ」は北陸新幹線

東北新幹線が乗り入れた1991年6月(左)と北陸新幹線が開業した1997年10月(右)の東京駅ホーム(地下ホーム除く)。中央線の新ホームを整備して在来線ホームを「玉突き」で移転。新幹線ホームの増設スペースを捻出した(草町義和作成)。

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