大ヒットした前作から30年あまり、『トップガン マーヴェリック』の予告編が公開されました。かなりの情報量が詰め込まれている2分15秒の動画から読み取れるものを解説します。

なお、バイクは相変わらずカワサキ党でした。

公開1週間で2000万再生

 2019年7月19日(金)、2020年公開予定の戦闘機映画『トップガン マーヴェリック』の最新予告編動画がYouTubeにおいて公開されました。1986(昭和61)年に公開された伝説的な戦闘機映画『トップガン』の続編とあって、わずか1週間のうちに2000万回も再生されるなど、世界中で話題となっています。また日本語字幕版もアップロードされました。

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アメリカ海軍の空母「カール・ヴィンソン」から離陸するF/A-18E「スーパーホーネット」。『トップガン マーヴェリック』での主役機と見られる(画像:アメリカ海軍)。

 前作『トップガン』はF-14「トムキャット」艦載戦闘機のエビエイター(「飛行士」の意。アメリカ海軍の伝統的呼称)であるトム・クルーズ演じるピート・ミッチェル大尉、通称「マーヴェリック」の成長を描いた物語であり、その舞台はサンディエゴ郊外に位置するミラマー海軍航空基地(カリフォルニア州)に実在した、アメリカ海軍戦闘機兵器学校「トップガン」でした。

 予告編を見るかぎり今回も主役はマーヴェリックであるようですが、30年以上という歳月は様々な変化をもたらすには十分すぎる長さだったようです。まず、予告編の最後にもチラリと姿を見せたF-14戦闘機は、可変後退翼を持った「カッコいい変形メカ」としてその人気を不動のものとしていましたが、2006(平成18)年にアメリカ海軍からは全機が退役しています。本作でマーヴェリックは、変形メカではないF/A-18E「スーパーホーネット」のエビエイターとなっています。

 また前作の導入部とクライマックスに登場した原子力空母「エンタープライズ」も、2016年に退役し現在は解体が進んでいます。

そして現実のトップガンも今やミラマー航空基地にはなく、ファロン航空基地(ネバダ州)へ移転してしまっています。

ストーリー内容を示唆か、「階級」の話が重要なワケ

 本作においてマーヴェリックは大佐にまで昇進しており、前作にも登場した「エンタープライズ」艦長と思われる人物との会話のなかでは、ふたつ上の階級である上級少将へ昇進できないことが話題となっています。今回の物語がいつのできごとを想定したものかはわかりませんが、マーヴェリックは1985年から1986年当時、大尉であったことを考えるに、現在はすでに60歳近いと見られ、少なくとも下級少将へ昇進しない限り海軍を退役、すなわち戦闘機乗りとしてのキャリアにピリオドを打たなくてはなりません。「終わり」についてあえて予告編で触れたということは、今回のテーマにはそうしたところが多分に含まれているのかもしれません。

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前作『トップガン』に登場したアメリカ海軍の原子力空母「エンタープライズ」。1961年就役、2016年退役。
同名艦としては8代目(画像:アメリカ海軍)。

 前作では現場の第一線級エビエイターだったマーヴェリックですが、本来ならば大佐という階級のエビエイターは、年に最低限度の飛行訓練だけ行っている程度です。もし空母にマーヴェリックが配属されているならば、大佐のポストは3つあり、まず艦の責任者である「空母艦長」、航空部隊を統括する「空母航空団司令官」、そして「空母航空団副司令官」のいずれかに就いていると考えられます。上級少将へ昇進できないとされているところを見ると、最上級者である艦長かもしれません。

 予告編では、GBU-24「ペイブウェイIII」レーザー誘導爆弾とAN/ASQ-228赤外線レーザー照準装置、そして自衛用のAIM-9X「サイドワインダー」空対空ミサイル、外装型燃料タンクで武装した、対地攻撃ミッションと見られるF/A-18E「スーパーホーネット」4機編隊のリーダーとして飛行する、マーヴェリックの姿が描かれていました。本来ならば部下に命令を与える側である大佐となったマーヴェリックが、今回どのような活躍を見せてくれるのか、P-51マスタングと思われるレシプロ戦闘機(トム・クルーズはプライベートでP-51を所有)や、通常、戦闘機パイロットは着用しない高高度与圧服らしい装具を身にまとったシーン、女性エビエイターなども含めて注目したいところです。

実は意味深? 「3機撃墜した唯一の男」という表現

 ちなみにマーヴェリックを「ここ40年で3機撃墜した唯一の男」としていますが、これは少し気になる表現です。まずアメリカ海軍以外で唯一のF-14ユーザーであるイラン空軍では、イラン・イラク戦争において11機を撃墜したジャリル・ザンディ准将(最終階級)を筆頭に、F-14で5機以上撃墜を記録した「エース」が4名誕生しており、同じくイラン空軍のF-5では1名、さらにイスラエル空軍F-15では2名、F-16では2名のエースが存在します。

 F-16で7機を撃墜したイスラエル空軍のアミール・ナシュミ准将(最終階級)は、F-4での経歴を含め合計14機。しかもF-16ではたった1日で5機を撃墜しており、歴史上最後の「ワンデイエース」となっています。アメリカ軍に限っても、ここ40年で3機を撃墜したパイロットは3名存在し、いずれも空軍のF-15パイロットです。

 もちろんこれらは実在の人物のお話なので、フィクションのなかでは無関係かもしれません。

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イラン空軍のジャリル・ザンディ准将とF-14「トムキャット」。イラン・イラク戦争時代に撮影されたものと見られる(画像:イラン空軍)。

 なお、F-14という戦闘機は、操縦士だけでは離陸すらできない飛行機であり、前作においてマーヴェリック機のレーダー迎撃士官として後席に搭乗した、エビエイターのマーリンも「3機撃墜した男」として数えるべきです。最初にマーヴェリックとコンビを組んだグースに比べると存在感がないマーリンですが、恐らくはマーヴェリックと同じだけ表彰されているはずです。