「ポートライナー」は、神戸市の中心部・三宮と人口島「ポートアイランド」を結んでいますが、慢性的な混雑が課題といいます。混雑の理由には、土地のやり繰りに苦心する神戸市ならではの事情がありました。

もともとは「博覧会行き」の鉄道

 神戸市の南側の沖合に浮かぶ人工島「ポートアイランド」は、1981(昭和56)年に造成されました。東京ドーム140個分ほどもあるこの島には、約2万の人口だけでなく、約300社の企業や10校ほどの高校や大学が集まり、歓楽街も多い神戸市の中心部とは違った役割を持っています。この人工島と三宮駅(神戸市中央区)を、新交通システムの神戸新交通ポートアイランド線「ポートライナー」が結んでいます。

 人工島の第一期工事が完成してすぐ、敷地全体を使った博覧会「ポートピア81」が開催され、ポートライナーは1600万人もの来場者を運びました。

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三宮のオフィス街を抜けていくポートライナー。三宮駅を出てすぐのカーブ以外は直線が多い(2019年7月、宮武和多哉撮影)。

 博覧会の開幕当時は、地元の子供に替え歌で揶揄されるほど運行に苦労し、閉幕後にはすっかり客足が落ち着いたポートライナー。しかし開業から40年近くが経過した現在、「混雑」が課題となっています。平日朝8時台の三宮駅には常に乗客が押し寄せ、6両編成で定員300人の無人運転列車が2分に1本は発車していますが、ホームにはみるみる行列ができます。三宮駅は始発駅であるものの、座席はおろか吊り手の確保にも苦労する状況です。

 この混雑を解消すべく、現在は並行する路線バスに、ポートライナーの定期券で乗れる共通乗車証が発行されています。社会実験のため、枚数や対象便は少ないとはいえ、神戸新交通の負担で、ライバル路線(神姫バス)への乗車を勧めざるを得ないのが現状です。

 なぜ、ポートライナーの混雑は激しくなったのでしょうか。背景には、人工島に頼らざるを得ない神戸独特の地形があります。

ポートライナーの混雑、理由は「坂の街・神戸」に

 ポートライナーの理論上の輸送能力は、1時間で最高1万2500人ほど。この10年で1.6倍の乗客増を記録しています。神戸エリアの他の鉄道路線が乗客減少に転じる反面、乗客増加が見込まれているのです。

 ここまで乗客が増加した原因は「ポートアイランドに企業や学校が集中した」ことにありますが、もともと神戸市中心部に拠点があった企業までが移転するほどの集中は、なぜ起きたのでしょうか。

 ここで、ポートアイランドから北側に広がる街並みを見てみます。北側に迫る六甲山麓の南側に長く伸びた神戸の街は、その坂道と段差の多さから「日本三大夜景」の街としても広く知られています。東西に約20kmにわたって伸びる街には、大きな土地は残されていません。そのため、物流や製造などの企業が人工島に集まるのです。

神戸ポートライナーの「混雑問題」 難しい抜本的改善 策はあるのか?

ポートアイランド方面に向かうポートライナー。背景に見える神戸の街は、すぐ北に山が迫っている(2019年7月、宮武和多哉撮影)。

 もともとあった産業用地が手狭になり、衰退の危機にあった神戸の街の打開策として造られたのが「ポートアイランド」をはじめとした人工島でした。埋立地の追加や神戸空港の開港、その後の規制緩和など、開業当時には具体化していなかった要素が積み重なった結果、2010(平成22)年ごろからポートライナーの混雑が目立つようになってきたのです。

 今でも大阪市や神戸市中心部より格段にコストが安く、さらに神戸の都心部がオフィス不足ということもあり、ポートライナーの通勤客は減少しそうにありません。

代替手段になりきれないバス輸送

 ポートライナーの混雑を解消する対策は「輸送力を増強する」ことに尽きますが、すぐに着手できない問題が立ちはだかっています。

 駅ホームや屋根、ホームドアは6両編成の仕様で建設されているため、車両の増結(6両から8両)には、全線・全駅にわたって数百億円規模の大規模な工事が必要です。また始発の三宮駅は、両側をほぼ90度の急カーブと駅ビルに挟まれ、すぐに対策を取るのは難しい状況です。

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ポートピアホテル前を走るバス。写真右側のオフィス街は少し離れた場所にある(2019年7月、宮武和多哉撮影)。

 並行するバス路線が、車両の大型化などで対応していますが、ポートライナーの需要を受け止めるまでには至っていません。バスの運行本数の少なさに加え、乗り場の不便さもネックになっているのです。

 始発となるバス乗り場は、JR三ノ宮駅からロータリーと国道2号線を挟んだ向こう側にあります。対してポートライナーへは、JR三ノ宮駅から1分弱でホームに到達できます。

 近年では、地元の財界から「フル規格の地下鉄建設や新幹線新神戸駅への接続」などの要望が出されていますが、かなり遠い道のりと言えるでしょう。

まずは「混雑感」を解消するところから

 ポートライナーの混雑は、「混雑率」という数値に限ってみると、ずば抜けて高いものではありません。もっとも混み合っていた時点で150%程度と、200%近い東急田園都市線や、大阪メトロ御堂筋線を下回ります。これはポートライナーの最大の混雑が、平日朝8時過ぎから8時40分手前までのピンポイントな時間帯に発生し、「乗客が集中する朝の1時間の平均」という算出方法に反映され辛いためです。

 通勤客の集中は、仕方のない面もあります。ポートアイランドは駅と職場が近く、9時出社に向けて行動すると、通勤スケジュールは皆ほぼ同じになってしまうのです。「早め通勤」をしたいところですが、市街地と違い、寄り道できるコンビニなどが少ない点がハードルを高くしています。

神戸ポートライナーの「混雑問題」 難しい抜本的改善 策はあるのか?

ポートライナー三宮駅のオフピーク乗車状況。三宮駅に掲示されている(2019年7月、宮武和多哉撮影)。

 神戸空港への移動も、神戸市中心部から直行する連節バスの運行開始などもあり、現在は分散されつつあります。しかしながら、国際空港化も現実味を帯びてきたなか、さらなる利用者増も有り得る状況です。

 神戸新交通は「車両の小ささ」を混雑の原因のひとつに挙げていますが、抜本的な解決は難しく、現状は「固定座席を跳ね上げ座席に変更する」ことなどで定員を増やし対応しています。根本的な解決が難しいなか、「混雑の解消」とともに「混雑感の解消」も求められていると言えそうです。