これまでおもに、海上自衛隊が担ってきた自衛隊とカナダ軍の交流ですが、カナダ艦「オタワ」が呉へ寄港した同じ時期に、くしくも陸幕長がカナダの首都オタワ市を訪問しました。日加関係は、新たな段階へと進展しています。
2019年11月6日(水)、広島県にある海上自衛隊呉基地に、カナダ海軍のフリゲート「オタワ」が寄港しました。「オタワ」はカナダ海軍が12隻保有するハリファックス級フリゲートの12番艦で、当初はおもに潜水艦を探し出して攻撃する対潜戦闘を任務とする艦でしたが、現在では近代化改修により対空戦闘や対水上戦闘も行えるマルチミッションな艦へと変貌を遂げています。
呉に入港するカナダ海軍のフリゲート「オタワ」(2019年11月6日、稲葉義泰撮影)。
今回、「オタワ」が呉に寄港した目的について、駐日カナダ大使館の駐在武官であるウグ・カヌエル大佐は次のように説明します。
「今回、『オタワ』が呉に寄港した目的は、国連の制裁を実効的にするための監視パトロール活動に参加した『オタワ』とその乗員に、メンテナンスと休息の機会を与えるためです」
「オタワ」は呉に寄港する前に、約4か月にわたるインド太平洋地域への展開活動を実施し、なかでも、国連安保理において決議された北朝鮮に対する制裁を実効的にするべく、日本海や東シナ海での北朝鮮による洋上での違法な物資のやり取り、いわゆる「瀬取り」を監視するための活動に力を注いできました。
カナダ政府は、これまで2年以上にわたって瀬取り監視活動に参加してきましたが、2019年からは瀬取り監視を目的とする新たな作戦「オペレーションNEON」を開始し、カナダ海軍の艦艇や空軍のCP-140哨戒機などを定期的に日本周辺へと派遣することを決定しました。今回、呉に寄港した「オタワ」は、この「オペレーションNEON」のもとで派遣された2隻目のフリゲートになります。
およそ50日間にわたる瀬取り監視を終えた「オタワ」は、次に東南アジア各国との連携を強化するべく、東シナ海から南シナ海へと向かいました。その際、政治的にセンシティブな台湾海峡を通過するなど、この地域におけるカナダのプレゼンス(存在感)も示しました。
「呉」への入港はことさら特別な意味はないものの…入港から4日目の11月9日(土)に呉を出港した「オタワ」は、本稿執筆時点の11月14日(木)現在、日本周辺海域で実施されている日米間の年次演習「ANNUALEX19」に、オーストラリア海軍の艦艇と共に参加しています。

呉に寄港した「オタワ」甲板にて、取材に応じる「オタワ」艦長のアレックス・バーロウ中佐(2019年11月6日、稲葉義泰撮影)。
実は近年、日本とカナダは軍事的に緊密な協力関係を構築しています。
また今回の呉寄港にも少々、意味合いが見られます。「呉」といえば旧日本海軍の時代から、日本の海上防衛における最重要拠点のひとつですが、とはいえ「呉」という部分にはことさら特別な意味はなく、海外艦艇が呉基地を訪れることは「毎年、2回程度はあります」(海上幕僚監部広報室)とのことで、直近では2019年4月にはマレーシア海軍のフリゲート「レキウ」が親善目的で寄港しています。一方で、たとえば横須賀や佐世保には在日アメリカ海軍の基地もあることから、呉や舞鶴、大湊といった海上自衛隊基地への海外艦艇の訪問は、純然たる「日本および海上自衛隊のお客様」というニュアンスが含まれてくる、というわけです。
陸幕長がカナダ初訪問、関係は新たな段階へそして現在、日本とカナダの防衛協力は新たな段階へ進もうとしています。2019年10月16日から10月18日にかけて、陸上自衛隊の湯浅悟朗幕僚長が、カナダの首都オタワ、およびキングストンを訪問し、カナダ陸軍司令官のウェイン・エアー中将と会談したほか、カナダ軍による海外での活動やサイバー戦への取り組みに関する説明を受けました。陸上幕僚長が公式にカナダを訪問したのは、今回が初めてのことです。

陸上自衛隊の湯浅悟朗幕僚長とカナダ陸軍司令官ウェイン・エアー中将との会談の様子(画像:カナダ大使館)。
なかでも、湯浅陸幕長とエアー陸軍司令官との会談では、日本とカナダ間で将来的にお互いの国で行われる演習へオブザーバーを派遣しあうことや、国連のPKOにおける能力構築支援(自国が有する能力を活用して、支援対象国の医療や教育、土木事業といった能力の構築を支援すること)を実施する国々に対して、日本とカナダが共に教育活動を行うことなどが議論されました。
これまで、自衛隊とカナダ軍の協力関係はおもに、海上自衛隊とカナダ海軍とのあいだで築かれてきました。今後は、陸上自衛隊とカナダ陸軍との間でも、協力関係が加速していくと思われます。