運行距離が400kmを超えるような高速バス路線は、寝ているあいだに移動できる夜行便が主流ですが、なかには、昼間に何時間もかけて走る昼行便が運行されていることもあります。そうした長距離昼行バスを5つ、その魅力とともに紹介します。
全国で毎日運行される高速バスの約9割は、昼間に運行される昼行便です。通勤や通学などにも利用される比較的短距離なものが多くを占めますが、なかには、夜行便が主流となる400kmを超えるような長距離路線で、昼行便が運行されていることもあります。今回は、そのような長距離昼行バスを5つ紹介します。
弘南バス「スカイ号」・運行区間:東京(上野)~弘前・青森
・運行距離:約715km
・運行時間:10時間50分
東京(上野)と弘前、青森を結ぶ「スカイ号」の運行距離は約715km、運行時間は10時間50分、ともに昼行高速バスで全国1位です。並行する新幹線や夜行バスよりも格安で移動できることから、週末や繁忙期には混み合う路線としても知られています。
弘南バスは1980年代から京浜急行電鉄(現・京浜急行バス)と共同で、横浜・品川・浜松町~弘前・五所川原間の夜行バス「ノクターン号」を運行し、その昼行便として2002(平成14)年10月に「スカイターン号」(品川・浜松町~弘前)を設定しましたが、2006(平成18)年8月をもって運行を終了。これに前後するかたちで、「スカイ号」の前身にあたる「青森上野号」を弘南バス単独で運行を開始し、のちに「スカイ号」へ名称を変更、現在に至ります。
弘南バス「スカイ号」。運行距離、所要時間ともに、昼行高速バスで日本最長(須田浩司撮影)。
車両は、36人乗りのトイレ付き4列シート車が充てられ、各座席には電源コンセントが完備されています。途中、高速道路上3、4か所のSA、PAで休憩があり、うち1か所では昼食休憩として30分ほど停車します。沿線の風景もすばらしく、日帰りバスツアーの感覚が楽しめます。
運賃は片道最安4000円台からですが、閑散期にはキャンペーン運賃(片道3800円)を設定する日がありますので、それを狙って乗車するのもよいかもしれません。
なお、東京と北東北を結ぶ高速バスは夜行がほとんどですが、昼行としては「スカイ号」のほか、東京~盛岡間の「オリオンバス」(運行はオー・ティー・ビー)が挙げられます。
昼行バスの代表格「昼特急号」とは?東京~大阪間にも昼行便が運行されています。
ジェイアールバス関東/西日本ジェイアールバス「東海道昼特急号」「グラン昼特急号」「青春昼特急号」・運行区間:東京駅・新宿~京都・大阪
・運行距離:約524km
・運行時間:8時間04分~9時間50分(便により停車バス停が異なる)
ジェイアールバス関東と西日本ジェイアールバスが東京~京都・大阪間で運行する「昼特急号」シリーズは、長距離昼行高速バスの代表格ともいえる路線のひとつです。
もともとは、同区間で運行する夜行高速バス「ドリーム号」の昼行便として、「東海道昼特急大阪号」という名称で2001(平成13)年12月に運行を開始しましたが、片道6000円という安い運賃と、所要時間が8時間以上もかかる昼行高速バス路線の新規開設が話題を呼び、幅広い層の乗客から好評を得ました。2002年(平成14年)度には、「日経優秀商品・サービス賞」日経MJ(流通新聞)賞最優秀賞にも選定されたほか、「昼特急」という名称は、JRバスが関連するほかの長距離昼行路線にも採用されています。
現在の東京~大阪間「昼特急号」は、使用車両によって名称が異なり、3列ノーマルシート「東海道昼特急」、3列クレイドル(ゆりかご)シート「グラン昼特急号」、4列シート「青春昼特急号」の3種類が運行されています。各車両ともトイレ、コンセント(またはUSBポート)を完備するほか、途中3か所のSAにて休憩をとります。

JRバス関東の「グランドリーム」車両。昼行便「グラン昼特急」にも使用される(須田浩司撮影)。
なお、2020年5月には、2階建て車両の2階に3列クレイドルシート、1階に4列シートを搭載した新型「グランドリーム」車両がデビューする予定です。
首都圏~大阪間においてはこのほか、西日本ジェイアールバスが「横浜グラン昼特急大阪号」(横浜・町田~大阪)を運行しているほか、ウィラーエクスプレスやジャムジャムエクスプレスも同区間で昼行便を運行しています。
大阪発着以外、またJR以外のバス会社が運行する「昼特急号」もあります。
京福バス/福井鉄道 「昼特急福井号」・運行区間:東京駅・新宿~福井
・運行距離:約537km
・運行時間:8時間20分(東京駅発福井行き)
京福バスと福井鉄道が運行する「昼特急福井号」は、東京と福井県の敦賀、武生、福井を結ぶ昼行高速バスで、鉄道では乗り換えが必要な同区間を直通できる利便性が魅力です。
運行距離約537kmは、東京~大阪間のJR「昼特急号」よりも若干長く、東京から東名高速、北陸道などを経由して福井県内へ向かいます。車両は、夜行便「ドリーム福井号」と共通の3列独立シート夜行高速仕様車で、フットレスト、レッグレストを完備するほか、途中休憩も3か所のSA、PAで実施します。ただし、繁忙期は車両がトイレ付き4列シート車に変更されます。

京福バス「昼特急福井号」使用車両。側面の書は福井市出身の書家、吉川壽一さんによる(須田浩司撮影)。
なお、東京~北陸間の昼行高速バスは、このほかにも西武バスと西日本ジェイアールバスが新宿・池袋~金沢で運行する「金沢エクスプレス」や、西武バスと富山地方鉄道、加越能バスによる新宿・池袋~富山・高岡線があります。これら路線は「昼特急福井号」とは違い、関越道~上信越道~北陸道経由での運行です。
名古屋や大阪発着の長距離昼行バスも東京以外からも、400kmを超えるような長距離昼行バスが運行されています。
名鉄バス・新潟交通「名古屋新潟線」・区間:名古屋~上越・長岡・新潟
・運行距離:約490km
・運行時間:7時間5分
名古屋~金沢間、名古屋~富山間などの昼行バスは多くありますが、そこからさらに新潟までを結ぶ「名古屋新潟線」を、名鉄バスと新潟交通が運行しています。鉄道では乗り換えが必要な同区間を乗り換えなしで移動でき、週末や繁忙期には混み合う路線としても知られています。
前出の「昼特急福井号」と同様、名古屋新潟線も昼行便と夜行便が運行されており、昼行便の車両も、3列独立シート27人から28人乗りのトイレ付き夜行高速仕様車が使用されます。各座席にはフットレスト、レッグレスト、コンセント(またはUSBポート)を完備するほか、途中休憩も3か所のSA、PAで実施します。
中国ジェイアールバス「浜田道エクスプレス」

山陰地方西部(江津・浜田・益田)と大阪を結ぶ中国ジェイアールバス「浜田道エクスプレス」(須田浩司撮影)。
・運行区間:益田・浜田・江津(いずれも島根県)~大阪
・運行距離:約439km
・運行時間:7時間03分(益田発大阪行き)
「浜田道エクスプレス」は、大阪以西で運行される昼行高速バスとしては最も長い距離を走ります。島根県西部の益田市や浜田市、江津市と大阪とのあいだを移動する場合、山口県の新山口駅経由で新幹線と在来線を乗り継ぐ、もしくは各都市と広島を結ぶ高速バスと新幹線を乗り継ぐ、といった方法がありますが、このバスは乗り換えなしで移動できることから、利便性の高い路線です。
車両は、4列シート40人乗りトイレ付き車両を使用。各座席にはフットレスト、コンセントを装備しています。途中休憩も3か所のSA、PAで実施されます。
江津といえば、2018年3月をもって廃止になったJR三江線の起終点駅です。「浜田道エクスプレス」に乗って三江線の廃線跡めぐりを楽しむ、というのも良いかもしれませんね。
なお、関西~中国・四国間には、「浜田道エクスプレス」以外にも長距離昼行高速バスが多数運行されています。夜行便と同様の3列シート車で運行される路線も多く、大阪~高知間や大阪~松江・出雲間など、利用者の多い路線もあります。
長距離昼行高速バスには、夜行バスの「時間を有効に使える」「宿代を浮かせられる」などといったメリットはないものの、次のような「昼」ならではの良さがあります。JRバス「昼特急号」(東京~大阪)など、常時混み合っている路線も存在します。
美しい車窓が楽しめる基本的にカーテンで閉め切られる夜行バスと違い、昼行バスは車窓を思う存分楽しめます。場所や区間によっては、絶景に出会えることもあるでしょう。
SA、PAでの買い物や軽食が楽しめる夜行バスの運行時間帯は、一部の大きなSA、PAを除き、ほとんどのお店が閉まっていますが、昼行バスの運行時間帯であればそうしたことはないので、休憩停車中に買い物や軽食を楽しむことができます。ご当地のおいしいものを買い込み、車内で食べながら過ごすのも良いでしょう。前出した「スカイ号」のように、30分程度の食事休憩を設けている路線もあります。
夜行バスよりも運賃が安い場合も運行路線やバス事業者によっては、夜行バスよりも安く移動できる場合があります。例としてJRバスの東京~大阪間で比較すると、3列シートの夜行「グランドリーム号」「ドリーム号」が最安6400円であるのに対し、同じ3列シートの「グラン昼特急号」「東海道昼特急号」は最安4900円と、夜行より1500円安く移動できるのです(2020年2月現在)。昼行が夜行よりも安いケースは、名古屋新潟線や「昼特急福井号」、福岡~鹿児島線「桜島号」(西日本鉄道ほか)などでも見受けられます。

名古屋新潟線の名鉄バス担当便では、夜行でも使われる3列シート「プレミアムワイド」搭載車が使用される。(須田浩司撮影)。
夜行バスと比較しても遜色ない設備
これも運行路線やバス事業者によって異なりますが、夜行バスと比較して遜色ない車両が投入されているケースがあります。紹介した「昼特急」シリーズや名古屋新潟線のほか、北海道中央バスなどによる札幌~釧路、函館、網走の各路線などでも、夜行バスと同様の3列独立シート車が投入されています。また、福岡~宮崎間など九州の一部路線では、2+1配列(通路を挟んで2人掛けと1人掛け)で幅が広いシートを搭載した車両も見られます。
今回紹介した路線以外にも、日本全国各地には長距離昼行高速バスがいくつも存在します。速くて便利な新幹線や飛行機、寝ながら移動できる夜行バスもよいですが、たまには時間を忘れて、のんびりとバスで旅をしてみてはいかがでしょうか。