県人口の約7倍もの観光客が訪れる沖縄県ですが、特に那覇市は、もともと過密だったこともあり慢性的な渋滞が発生しています。市の輸送を担うゆいレールを巻き込んだ解決策には何があるでしょうか。
那覇市内の慢性的な道路渋滞を、延伸した「ゆいレール」が解決するかもしれません。
近年、海外から日本を訪れる観光客数が右肩上がりに増加しており、また沖縄県に限って言えば、国内から訪れる観光客数もLCC(格安航空会社)の普及などから、堅調な伸びを見せています。2018年度に沖縄県を訪れた観光客数は、初めて年間1000万人を突破しました。2020年1月現在、沖縄県の人口は約146万人ですので、その約7倍もの人々が1年のあいだに沖縄県を訪れていることになります。
てだこ浦西駅に停車中のゆいレールの車両(2020年2月、河嶌太郎撮影)。
その結果、引き起こされている事象が、那覇市内の深刻な渋滞問題です。那覇市の人口は約32万人(2019年12月時点)で、人口密度は1平方キロメートルあたり約8000人。国内屈指の過密な都市に、さらに観光客が加わり、市内は日常的な渋滞に悩まされている現状です。
その程度は、那覇市の南部にある那覇空港で観光客がクルマを借り、県北西部の美ら海(ちゅらうみ)水族館まで、那覇市内を経由し移動した場合、通常は1時間半ほどのところ、市内を北に抜けるだけで3時間以上もかかるケースがあるといわれているほどです。また、那覇市内はバス路線網が充実していますが、慢性的な渋滞により定時性に課題がある状況です。
そこで県が打開策として打ち出したのが、那覇市北東部の首里駅から那覇市内を抜け那覇空港駅までを結ぶ「ゆいレール」こと沖縄都市モノレールの延伸です。
てだこ浦西駅では、那覇市北部のパークアンドライド基地としての整備が進められています。パークアンドライドとは、自宅から最寄り駅やバス停などまでクルマで行き、そこから公共の交通機関に乗り継ぐ移動の方式をいいます。てだこ浦西駅前にはすでに駐車場と駅前ロータリーが完成しており、那覇市内に通勤する人はここにクルマを停め、ゆいレールに乗って通勤する形が想定されます。駐車料金の日中最大料金は1日400円で、定期駐車券は月額3500円からです。筆者(河嶌太郎:ジャーナリスト)が2月初旬に訪れたときには、駅前ロータリーと駐車場の整備だけが終わっており、その周辺の空き地ではまだ整備の工事が進められていました。

てだこ浦西駅の外観。右がパークアンドライド駐車場(2020年2月、河嶌太郎撮影)。
駅周辺には沖縄自動車道が通っており、現在は駅に接続する「幸地(こうち)IC」の工事が進められていて、2024年度までの完成を目指しています。さらに駅前には大型スーパー「イオンスタイル浦西(仮称)」も建設中で、こちらは2022年春の開業を目指しています。
こうした施策もあり、県の資料によると、てだこ浦西駅の1日平均の駅利用者数は1436人(2020年1月末時点)と、新しく開業した4駅(てだこ浦西・前田・経塚・石嶺)のなかで最多となっています。
てだこ浦西駅の開業は、県内利用者だけでなく観光客にとってもメリットがあります。駐車場や大型商業施設、インターチェンジの建設に加え、高速バスターミナルの整備も進められています。たとえば那覇市内へ観光に向かうとき、てだこ浦西駅までは高速バスで来て、そこからゆいレールに乗り継げば、渋滞する那覇市内をバスで移動しなくて済みます。
増便のほか3両編成化も計画 輸送力を強化するゆいレールさらに、駅前をレンタカーの発着拠点にする構想もあります。これが実現すれば、那覇空港に降り立った観光客がてだこ浦西駅までゆいレールで移動し、そこでクルマを借りる利用方法が考えられます。これにより、美ら海水族館をはじめ県北部を訪れたい観光客は、渋滞する那覇市内をクルマで移動する必要がなくなります。
ただ、こうした流れが加速すれば、懸念される点も浮上してきます。
沖縄県を訪れる観光客数は、今後も増え続けると見られています。2020年3月には那覇空港第2滑走路の供用が始まり、ゆいレールも春から「Suica」をはじめとする交通系ICカードが使えるようになります。
こうして観光客が増え続け、また通勤利用者の足がゆいレールに集約されるとなると、懸念されるのはその輸送能力です。ゆいレールの利用者は増え続けており、開業年の2003年度の1日平均利用者数は3万1905人でしたが、2019年度は5万7848人(1月末時点)と、約1.8倍になっています。

QRコードに対応した自動改札機(2020年2月、河嶌太郎撮影)。
ゆいレールの列車は2両編成で、朝ラッシュ時は4分間隔で運転されますが、混雑率は2020年2月時点で約120%となっています。日中は10分間隔だった運行本数も、てだこ浦西駅への延伸後は8分間隔に増便されました。しかしそれでも、筆者が休日の日中に利用したところ、市中心部では乗車率が100%あるほどの混雑でした。
こうした現状を受け、ゆいレールは2022年度からの一部3両編成化を計画しています。2027年度までに9本を3両編成化し、増え続ける利用者に対応する予定です。
ゆいレールをめぐっては開業前、鉄道がなくクルマ社会の沖縄県にモノレールが根付くのか、などといった懐疑的な声がありました。2003年の開業から17年、ゆいレールは当初の予想を上回る勢いで利用者数が増え続けています。2014(平成26)年からはQRコードを用いた乗車券をいち早く導入しています。
延伸区間の沿線の発展とともに、ゆいレールの動向を注視したいところです。