全国的に、高速バスの本数が多い区間は、鉄道との競合、あるいはその歴史が見られます。今回紹介する5つの区間では、鉄道が白旗を挙げたようなところもあれば、どちらも運行本数が多いというところもあります。
高速バスと鉄道との競合、あるいはその歴史が見られた区間を5つ紹介します。なお、運行本数などのデータは、特記以外、2020年3月12日(木)現在のものです。
東京駅~茨城県鹿嶋市茨城県鹿嶋市は県の南東部、県下最大の工業地帯である鹿島臨海工業地帯の中心都市で、プロサッカーチーム鹿島アントラーズのホームタウンのひとつです。市内と東京駅とのあいだを、ジェイアールバス関東、京成バス、関東鉄道、JRバステックの4社が共同運行する高速バスが、2時間弱で結んでいます。1989(平成元)年の運行開始から増便を繰り返し、2020年現在は1日88往復と、関東の高速バスでは最大本数を誇る路線です。
鉄道では、JR鹿島神宮駅から鹿島線、成田線、総武快速線を経由して東京駅までを結ぶ直通列車も1日1往復ありますが、基本的には乗り換えが必要です。以前、同区間で走っていた特急「あやめ」は、次々に増発される高速バスに押される形で2015年に廃止されました。
東京駅八重洲口に停まる京成バスの鹿島神宮行き(2016年10月、中島洋平撮影)。
高速バスは鹿島神宮駅だけでなく、鹿嶋市街地の各所や臨海部の工業地帯にも乗り入れます。周辺の主要工場のひとつ、日本製鉄鹿島製鉄所横のバス停では、東京駅行きのバスを待つビジネスパーソンが列をなしている光景も見られます。
県都どうしの区間でも高速バスが優位に高速バスが鉄道より優位に立つ区間は、地方にも見られます。
仙台市~山形市仙台市と山形市のあいだはJR仙山線で結ばれているほか、宮城交通と山交バスにより高速バスが頻繁に運行されています。
仙台~山形間のバスは昭和の時代からありましたが、1990(平成2)年前後に山形道が開通し高速道路経由へ移行、その後も増便を重ねます。2000年代の一時期には、新興のバス事業者が競合路線を開設したことで値下げ競争が起こり、一時は片道750円まで下がりました。その後は宮城交通と山交バスの2社体制に戻り、運賃を改定しつつ、さらに増便を重ねて現在に至っています。
国土交通省の統計によると、東北地方の各地と仙台を結ぶ高速バスの2015年度における総輸送人員は約420万人、このうちの約半分を、仙台~山形間が占めるそうです。

仙台駅前の山形行き高速バス乗り場。駅のバスロータリーではなく青葉通の路上にある (2019年4月、中島洋平撮影)。
広島市~松江市
中国地方では広島や岡山と山陰の各都市を結ぶ高速バスが運行されており、そのなかで最も本数が多いのは、広島電鉄と一畑バスが運行する広島~松江線です。両都市間を1日18往復、およそ3時間で結びます。
山陽地方と山陰地方を結ぶ列車としては、JR伯備線の「やくも」、JR山口線の「スーパーおき」などがありますが、広島県と島根県のあいだに直通列車はありません。1990(平成2)年までは、広島~松江間で芸備線、木次線経由の急行「ちどり」が運行されていましたが、いまは岡山県や山口県まで迂回して特急を利用するか、本数も少ない中国山地のローカル列車を乗り継いでいくことになります。
このため両県のあいだは高速バスが発達しており、松江だけでなく島根県内の出雲、大田、浜田、益田といった都市と広島を結ぶ路線も、本数が比較的多く 運行されています。
バスの本数がスゴイ! 鉄道も「いい勝負」高速バスの本数が1日100往復を超える区間もあります。
札幌市~小樽市北海道では「都市間バス」の名称で、道内の主要都市間を結ぶバスが盛んに運行されています。なかでも札幌と小樽のあいだは本数が多く、北海道中央バスとジェイ・アール北海道バスが共同で、平日1日あたり小樽方面行きを119本、札幌方面行きを114本運行しています。運賃は片道620円、所要時間は1時間強です。
一方、並行するJR函館本線も、札幌~小樽間を直通する列車は1日75往復以上、所要時間は快速「エアポート」で33分と、バスの半分程度です。運賃は2019年10月に110円値上げされ、750円になりましたが、2020年3月14日(土)のダイヤ改正でJR北海道は、快速の増発や運行時間帯の拡大を実施するなど、同社のなかでも収益性の高い区間のひとつである札幌~小樽間の利便性向上に注力しています。
なお、バスの運賃も2020年4月から60円値上げされ、片道680円になります。北海道中央バスは、車両価格の上昇や雇用対策などで運行コストが増加しているためと説明しています。

小樽駅前にある北海道中央バスのターミナル乗り場(画像:写真AC)。
福岡市~北九州市
福岡市と北九州市(小倉)のあいだは、JR鹿児島本線はもちろん山陽新幹線も通っており、列車の本数としては、今回の記事で挙げた区間とは比べ物にならないほど多いです。これに加えて、同区間では西鉄の高速バスも多く走っています。
その本数は、最も多い土曜日で1日128往復と、都市間を結ぶ高速バスとしては日本一を誇っていましたが、深刻な乗務員不足を背景に、2020年3月14日(土)のダイヤ改正で最大115往復まで減便されました。
博多駅~小倉駅間は、バスだと約1時間30分、片道運賃は1150円。対して新幹線はわずか16分で着きますが、片道運賃は通常期の指定席利用で3460円です。北九州観光コンベンション協会によると、「時間的に余裕がある学生さんや、自宅からバス停が近い人ならバス、ビジネスならば新幹線、といったところでしょうか」と話します。
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バスの乗務員不足は年々深刻さを増しています。福岡~北九州間以外でも、バスの本数をこのまま維持できるかは不透明です。