加速力に優れた鉄道車両を5つ紹介します。一般的には加減速の多い通勤形電車が高い加速力を持ちますが、新幹線や超電導リニアにも注目です。

路線の状況や走行メカニズムによっても、高加速車両が生まれます。

一般的には「通勤電車」が高い加速力を持つが…

「加速力が高い鉄道車両」を5つ紹介します。

 電車の場合、一般的に停車駅が少ない特急形は最高速度を、停車駅が多い(加減速が多い)通勤形は加速力を重視した設計になっています。現在の電車における加速力は、おおむね通勤形が2.5km/h/sから3.0km/h/s、特急形が2.0km/h/sから2.5km/h/sです(数字が大きいほど加速力が高い)。

阪神電鉄「ジェットカー」

 阪神電鉄は、平均駅間距離が約1kmと短く運転本数も多いため、普通列車は待避線のある駅までできる限り速く進み、後続の特急や急行に進路を譲る必要があります。そのため阪神電鉄では伝統的に、普通列車には加速力の高い専用車両「ジェットカー」を使用しています。

「加速がいい鉄道車両」5選 特急から逃げるため 本数を増やす...の画像はこちら >>

阪神電鉄5001形「ジェットカー」(2016年11月、児山 計撮影)。

 ジェットカーは、1977(昭和52)年から導入された5001形で4.5km/h/s、1995(平成7)年以降に登場した車両で4.0km/h/sという高加速。阪神電鉄の特急に使われる車両の加速力が2.8から3.0km/h/sですから、約1.5倍の加速力です。

 一般的に、速度が上がるにつれて加速力は鈍りますが、それでも最新のジェットカーは90km/hに達するまで約25秒。加速中に吊り革を見ると、進行方向反対側に傾いているのが肉眼でもわかるほどです。

実は加速力も高い新幹線車両や登山電車N700系新幹線

 高密度運転を行う東海道新幹線では、最高速度の向上と同時に加速力の向上も重要な課題でした。

各駅停車である「こだま」の加速性能を高めれば、それだけ後続の「のぞみ」が速度を落とすことなく走れます。また加速が早くなる分、線路が空くのも早くなるため、列車本数も増やせます。

「加速がいい鉄道車両」5選 特急から逃げるため 本数を増やすため…さまざまな背景

東海道・山陽新幹線のN700系(2019年10月、児山 計撮影)。

 N700系は東海道新幹線の速度向上と運転本数増加を目的に、最高速度はもとより加速性能の向上も視野に入れて開発されました。性能的には、140km/hくらいまでの平均加速力は2.6km/h/s。この数字は、在来線を走るJR東日本の通勤形車両E231系やE531系などが40km/h程度まで維持する加速力2.3km/h/sを上回るもの。N700系は、通勤形並みの加速力を新幹線で実現した画期的な車両です。

箱根登山鉄道

 山岳路線を走る電車は、急勾配に対応したギアのセッティングになっています。クルマにたとえるなら、1速や2速といった低いギアでしょうか。そのため平坦線を走る場合は、低速時の加速力が大きいことになります。

「加速がいい鉄道車両」5選 特急から逃げるため 本数を増やすため…さまざまな背景

箱根登山鉄道の3000形「アレグラ」(2014年10月、児山 計撮影)。

 箱根登山鉄道は80‰(パーミル。

1000m進むと80m高度が変わる)という急勾配を走行するため、その電車はパワーのあるモーターを使っており、平坦線では4.0km/h/sという、阪神のジェットカーに匹敵する加速力となります。

 もっとも、箱根登山鉄道の電車が走る場所には平坦線がほぼないため、この高加速を体感できる区間はほとんどありません。あくまでも「勾配用の車両が結果として高加速を獲得した」のであり、高加速を意図した車両ではありません。

鉄の車輪とレールに頼らない高加速性能の車両 その1超電導リニア新幹線L0系

 どんなにパワーのあるモーターを搭載しても、またどんなに車体を軽量化しても、車輪が空転してしまっては加速力に寄与しません。つまり究極的には、車輪とレールとのあいだの摩擦力に頼らない車両(車輪が空転しない車両)こそが高加速性能を出せるともいえます。

 試験運転が行われているJR東海の超電導リニアL0系は、150km/hまではゴムタイヤ走行ですが、それ以上の速度域では磁力の吸引と反発によって推進します。そのため“離陸”する150km/hから最高速度の500km/hまで、空気抵抗以外の影響を受けずに加速できます。

「加速がいい鉄道車両」5選 特急から逃げるため 本数を増やすため…さまざまな背景

超電導リニアL0系(2013年6月、児山 計撮影)。

 L0系は実験線において、500km/hに達するまで13.4kmの距離を使いますが、このとき平均加速力は2.59km/h/sです。数字の面ではN700系と同等ですが、車輪とレールの摩擦力に依存しない超電導リニアは、この加速力が500km/hまで続きます。性能的にはさらに高い加速力も設定できますが、乗り心地の面を考えて加速力を抑えています。

鉄の車輪とレールに頼らない高加速性能の車両 その2札幌市交通局5000形

 鉄道車両のなかには、ゴムタイヤで走る車両があります。

鉄の車輪で走る車両よりも走行路面との接点における摩擦力が高いため、比較的高加速での運転が可能です。

「加速がいい鉄道車両」5選 特急から逃げるため 本数を増やすため…さまざまな背景

札幌市交通局5000形(2013年6月、児山 計撮影)。

 札幌市交通局の地下鉄電車はすべてゴムタイヤ式。南北線を走る5000形は加速力が4.0km/h/sとほかの地下鉄よりも高く、ゴムタイヤの性能を活かして速度ゼロから猛烈に加速します。最後部の車両がホームを離れるときには、最高速度の70km/hに達する勢いです。

 また札幌市交通局の地下鉄は、全区間が地下もしくはシェルター内なので、走行路面が天気の影響を受けず、車輪が空転するリスクがほかの鉄道に比べて小さくなっています。

編集部おすすめ