自動車の分野では、排気ガスによる地球温暖化をはじめとした環境への悪影響を減らすために、近年では大気汚染物質や温室効果ガスを排出しない「ゼロエミッション車」と呼ばれるものの開発が盛んです。その波は救急車にも届きました。

排出ガスゼロの救急車が誕生

 東京消防庁は2020年3月31日(火)、日本で初めてとなるEV(電気自動車)の救急車を導入しました。この車両は、日産の商用バンをベースに開発されており、池袋消防署の「デイタイム救急隊」で運用されます。

 排気ガスを出さないEV救急車の導入経緯と車両の性能について、東京消防庁広報課に話を聞きました。

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池袋消防署に配備された日本初のEV救急車(画像:東京消防庁)。

――EVの救急車を導入した経緯を教えてください。

 自動車のゼロエミッション化(大気汚染物質や温室効果ガスを排出しないこと)は、世界の大都市に共通した責務です。東京都では、ゼロエミッションビークルの普及を「ゼロエミッション東京戦略」の柱のひとつに位置付けています。当庁(東京消防庁)においても、ゼロエミッションビークルの普及を推進しており、救急車制作における実現性の観点から、まずはEVの導入となりました。

――車種について教えてください。

 車両は日産のNV400というパネルバンがベースです。特注の電気自動車仕様を救急車として架装したものです。

――日産自動車以外に入札に応じた会社はありましたか。

 ありませんでした。

EV救急車が持つ特徴とは

――EV救急車のメリットを教えてください。

 メリットはふたつあります。まず、エンジン車と比べて低振動、低騒音のため、搬送する傷病者の負担軽減が可能なこと、そして排気ガスが出ないことです。

日本初EV救急車登場 特徴は排ガスを出さないのみならず 各種メリットと池袋配備のワケ

池袋消防署に配備された日本初のEV救急車(画像:東京消防庁)。

――1回の充電で走れる距離はどれぐらいなのでしょう。

 国土交通省が定めたJC08モードの計算で約130kmです。

――EVという点以外に、これまでの救急車と異なる特徴などはありますか。

 傷病者室にある照明の光量調整が可能なほか、同乗者用として三点式シートベルトを備えた前向き座席が設置されています。さらに資器材やストレッチャー用の固定装置は、EN規格、いわゆるEU(欧州連合)の統一規格に基づいた耐衝撃性能を満たしたものが備わっています。なお電動ストレッチャーの搭載は、自治体消防向けの救急車として初めてです。

――EV救急車は、「ハイメディック」や「パラメディック」などと呼ばれる高規格救急車になりますか。

それとも標準のベッド2床タイプの普通救急車、いわゆる2B型救急車と呼ばれるものですか。

 かつて総務省が定めていた高規格救急車の要件は、厳密には現在廃止されております。しかし、架装メーカーを含む各自動車メーカーは現在も当時の要件を満たす仕様として「高規格準拠」へ記載を変えて販売しており、一般的な呼称として「高規格救急車」と呼ばれることが多いです。本車両は総務省消防庁が現在定めている救急自動車の要件をすべて満たしているため、「高規格準拠」になります。

――配備先が池袋消防署の「デイタイム救急隊」になったのには、なにか理由がありますか。

 EV救急車が配備された「デイタイム救急隊は」、2019年5月17日に東京消防庁において発足した、平日の日勤時間帯のみ活動する、いわゆる時短勤務の救急隊です。育児や介護などで24時間勤務が難しい救急隊員を有効活用する新たな取り組みで、働き方改革に東京消防庁が対応する形で生まれました。

 EV救急車には消防救急車として初めて電動ストレッチャーが備えられているため、これにより労務負担の軽減効果が期待されることから、女性職員が活用することでどれだけ労務負担が軽減されるか確認する目的もあり、試行的に「デイタイム救急隊」に配備しました。

日本初EV救急車登場 特徴は排ガスを出さないのみならず 各種メリットと池袋配備のワケ

池袋消防署に配備された日本初のEV救急車。後部扉は跳ね上げ式ではなく観音開き式(画像:東京消防庁)。

――今後EV救急車を増やしていく予定はあるのでしょうか。

 まずは、導入されたEV救急車を含む各種電気自動車の運用状況を確認しながら、救急車に限らず、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)、PHV(プラグインハイブリッド自動車)といった車両の導入について検討してまいります。

※ ※ ※

 東京消防庁はEV救急車以外にも、3輪式電気自動車がベースの「EV緊急自動車」を、消防車と同じ真っ赤なボディで2020年1月より運用しています。

 今後の運用実績次第では、EV仕様の消防救急車両は数を増やすかもしれませんね。

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