新型コロナの影響による国際旅客便の運航縮小で、航空貨物を運ぶスペースが減っています。日本唯一の貨物専門航空会社NCAにも業務上の制限など影響が及んでいますが、日本の物流を支えるため奮闘しています。

新型コロナ影響下で生鮮食品、石鹸やマスク、医療品などが増加

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、世界中で国際線旅客便の運航が大幅に減少し、それらの便の貨物スペースに載せるはずだった貨物が積めなくなったことなどから、国際線航空貨物便の需要が大きく増加しています。日本でもたとえばANA(全日空)が、客室の座席にマスクなどを積みこんで国際線を運航しているほか、貨物便を増便するなど、その対応に追われています。

 そのようななか、日本では唯一となる貨物便のみを運航する航空会社NCA(日本貨物航空)が奮闘しています。同社は2020年4月現在、日本で唯一「ジャンボジェット」ことボーイング747シリーズを運航し、成田空港を中心にアジア、ヨーロッパ、北米などの貨物便ネットワークを持っています。

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NCAのボーイング747-8F型機(2018年、恵 知仁撮影)。

 貨物便需要に対応するため、NCAは2月から3月にかけ20便、臨時便を運航し、そうした状況は4月も続いているそうです。

新型コロナウイルスの影響下においてこの貨物便需要にスタッフがどのように対応しているか、話を聞きました。

――2020年4月現在、NCAでは、どのような航空貨物を運んでいるのでしょうか?

 通常時は半導体装置、電子機器、自動車、衣類、生鮮食品、国際郵便など多種多様な物資を運んでいます。近頃は、新型コロナウイルスの影響をうけ、いつもより生鮮食品、石鹸やマスクといった衛生消耗品、医療機器の輸送が増えています。

新型コロナ影響下 NCAは重圧と戦い 工夫して貨物を運ぶ

――新型コロナウイルスの感染拡大で、働き方に変化はありましたか?

 NCAでは、2019(平成30)年4月から現場スタッフなど、その場を離れることが難しいスタッフを除く多くの部署で在宅勤務制度を働き方改革の一環として導入していました。なかなか制度が浸透していなかったのですが、新型コロナの影響で一気に浸透しました。

 在宅勤務制度を適用できない最前線で働くスタッフは、感染するかもしれない、自分自身、もしくはほかのスタッフの感染が業務の維持に直接影響を及ぼしかねないという緊張感のなかで業務にあたっています。

また、例えば輸入事務所の感染対策でフロアに入れる人数を制限するなどの対策を講じたことで、これまでよりお客様を待たせてしまうケースもあり現場のスタッフは多くのプレッシャーを抱えています。

 しかし、お客様の効率的な貨物輸送を支え続けたいという思いから、「安全が経営の基盤であり、社会への責務である」というNCAの安全理念を胸に基本に忠実に、スタッフ一丸で取り組んでいます。

新型コロナ影響下 日本唯一の貨物専門航空会社NCAの奮闘 旅客便減の裏で物流を支える

NCAの航空貨物。写真は運搬中の競走馬(2018年、恵 知仁撮影)。

――実際に最前線の航空機の近くで働いていているスタッフは、どういった対策を行っているのでしょうか?

 中国で感染が拡大した段階で、機体の近くで業務するスタッフ用にマスクを準備しました。現在は、「ジャンボ」の2階席にあたるアッパーデッキを行き来する際は、「3密」を避けるべく立入制限などの対応を関係部署、関係会社含め実施しています。

新型コロナ下 NCAの努力や支えとは 感染対策ももちろん

――NCAのスタッフはこの状況下で業務に取り組む際、どのようなことに気を配っているのでしょうか?

 貨物量が増え、上屋(空港内にある貨物の積み降ろし、保管などを行う建物)の容量がひっ迫するなか、これまで以上に定時性確保を意識し事前準備を行っています。

 貨物引き渡しまでの時間を短縮できるよう貨物引取予定日時や不随事項を確認しながら、いつも行っていることをより強化することで、貨物の遅れが起きないよう取り組んでいます。そのように業務量が増えるなかでも、基本を逸脱しないよう、安全を最優先にサポートし合い、声を掛け合うなど、物流を支えるため一層の使命感を持って、日々一丸となって業務にあたっています。

新型コロナ影響下 日本唯一の貨物専門航空会社NCAの奮闘 旅客便減の裏で物流を支える

NCAのボーイング747-8F型機。「ジャンボ」の貨物型は機首部分が上に開く、ノーズカーゴドアを持つのが特徴のひとつ(2018年、恵 知仁撮影)。

――この状況下でスタッフは、どういったことを精神的な支えにしているのでしょうか?

 NCAは2018(平成30)年に自主運休したことがあり、そのときお客様に大変なご迷惑をかけてしまいました。

今こそ「恩返し」するべき時と思っています。

 たとえば2020年2月15日、中国へ向けた郵便物が想定以上に多くなり、日々膨れ上がる郵便物の状況から、NCAを使って日本郵便が初めてチャーター(貸し切り)便を運航しました。そのときの郵便物の量は10tトラック15台分に相当する約9000個にも上り、あまりにも多く通常の積載方法を変えなければなりませんでした。安全性、正確性を確保しつつ、効率重視の運搬方法を特別に当局に認めてもらうなど工夫し、多くの難題を短期間でクリアできました。感謝の言葉をいただけたことは、私たちの支えになりました。

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 NCAではこのほか、全社的にマスク着用、消毒や手洗いうがいの徹底のほか、事務所での2m以上の座席間隔を確保、事務所間の移動の原則禁止、パイロットは空港と宿泊施設間を専用車両で移動する、などの対策を講じています。

 なおNCAは2020年3月末に、パイロットが新型コロナウイルスに感染したことを発表しましたが、同パイロットが搭乗していた便に乗客はいなかったほか、貨物に直接触ることもなかったとのことです。