2020年5月末、東京上空を飛行し大きな話題になったブルーインパルスが、直後、6機編成から4機編成へ変更されるというニュースが流れました。使用している空自T-4練習機のやりくり、実はかなり深刻な事態です。
河野太郎防衛大臣は2020年6月2日(火)に防衛省内で行われた定例会見で、航空自衛隊のアクロバットチーム「ブルーインパルス」(正式部隊名は第4航空団飛行群第11飛行隊)を当面、通常の6機編成から4機編成にすると発表しました。
航空自衛隊 ブルーインパルスのT-4中等練習機(画像:航空自衛隊)。
ブルーインパルスが1995(平成7)年から使用しているT-4中等練習機は、航空自衛隊の各航空基地でも練習機として使用されています。
2019年4月2日、三沢基地に配備されていたT-4が同基地を離陸後、同機パイロットが右エンジンからの異音と振動を確認しました。着陸後、エンジンのタービンブレードが破損して、エンジン内部を損傷していたことが判明。これにより、一時的にブルーインパルスの所属機を含めたT-4全機が飛行停止になるというトラブルが発生しています。
T-4に搭載されているF3-30ターボファン・エンジンを開発、製造したIHIが調査した結果、エンジンの振動を抑える「バッフル」と呼ばれる部品の機能が不足していることが明らかになりました。
航空自衛隊はエンジンのバッフル交換などの対策を講じた上で、完了した機体から順次T-4の飛行を再開していますが、6月8日(月)付の時事通信は、バッフルの交換に時間を要していることからパイロット訓練に支障が生じており、ブルーインパルスの一時的な4機体制への移行は、部品交換の終了したブルーインパルス機のエンジンをパイロット訓練機に回すためと報じています。
河野防衛大臣は会見で、ブルーインパルスが2021年に延期された「東京オリンピック」開会式で五輪を上空に描く予定であることから、必要なタイミングで6機編成に戻したいとの考えを述べていますが、時事通信の報じた通りブルーインパルス機のエンジンまで流用しなければならないとすれば、状況は深刻であると言わざるをえません。
事態はかなり深刻 T-4練習機はもう限界なのか?T-4は1988(昭和63)年の運用開始から30年以上が経過しており、エンジンを整備しても規定どおりの出力を得られない場合があることから、エンジンの組みなおしや部品の配列変更などを行なって使用されているとも報じられています。
現代の軍用機は、運用開始から30年以上、経過している機種は珍しくありません。また、T-4にはまだ運用寿命の残された機体が多く、早急に更新は必要であると言い切ることもできませんが、時事通信の報じた通りの運用が行なわれているのであれば、後継機導入も検討すべきだと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。

航空自衛隊のT-4中等練習機(画像:航空自衛隊)。
T-4は飛行性能だけで見れば、他国のジェット練習機と遜色ありませんが、運用開始から30年以上が経過した現在の航空自衛隊にフィットしなくなりつつあるとも筆者は思います。
航空自衛隊は2020年6月の時点で、F-35、F-2、F-15、F-4EJ改の4種類の戦闘機を運用しています。F-35AとF-2は液晶ディスプレイなどを多用した「グラスコックピット」と呼ばれる近代的なコックピットを採用しており、201機を保有しているF-15のうち、能力向上改修を受けて今後も長期に渡って運用される機体は、改修の一環としてグラスコックピット化される見込みとなっています。
1980年代前半に開発されたT-4のコックピットは、アナログ計器の並んだ、現在の基準から見ると古めかしいものです。基本操縦訓練には十分対応できますが、F-2や今後導入が進むF-35A/B、グラスコックピット化される可能性が高いF-15、そしてF-2を後継する次期戦闘機の戦闘機操縦課程訓練で使用するには、能力不足の感があることは否めません。
そろそろ次を考える? 世界各国の練習機事情旧式化したジェット練習機では、F-35のような新型戦闘機の操縦訓練は難しいと考えている空軍は多く、グラスコックピットを備えたLIFT(戦闘機前段階練習機)と呼ばれる新型練習機を導入する国も増えています。また、現代の軍用機は戦闘機に限らずグラスコックピット化されていることから、T-6A「テキサンII」やスイスのピラタスが開発した「PC-21」のような、グラスコックピットを備えた基本操縦訓練に使用する、ターボプロップ練習機を導入する国も増えています。

韓国空軍がLIFTとして運用しているT-50練習機。同空軍のアクロバットチーム「ブラックイーグルス」でも使用されている(竹内 修撮影)。
航空自衛隊の練習機は、草創期にアメリカから供与されたT-33などを除くと、国内産業育成の観点もあって国内で開発、製造されてきました。しかし厳しい状況の続く財政状況、次期戦闘機の開発に国内メーカーの多くのリソースが割かれることなどを考えると、航空自衛隊が戦闘機パイロットの訓練環境について早期改善を望むのであれば、アメリカ空軍がT-38「タロン」高等練習機の後継機として導入するT-7A「レッドホーク」や、イタリアのレオナルドが開発し、イタリア空軍、ポーランド空軍、イスラエル空軍などに採用されたM346のような既存のLIFTを輸入、またはライセンス生産することが、最も合理的な選択だと考えられます。
防衛省は、2019年度から2024年度までの5か年度のあいだに防衛力をどう整備していくかを定めた「中期防衛力整備計画」の期間中に、航空自衛隊のすべてのパイロットが訓練で最初に搭乗するT-7初等練習機の後継機の検討を行なう方針ですが、T-4のエンジンの不具合問題が長引くようであれば、T-4の後継機も含めた、将来の航空自衛隊の戦力に最適化した訓練体系の構築に乗り出すべきなのではないかと、筆者は思います。