JR京浜東北線でワンマン運転が検討されているとの報道があります。都市部の大量輸送を担う路線でのワンマン運転は果たしてどうなるのでしょうか。
JR東日本が京浜東北線でワンマン運転を検討していると2020年6月27日(土)、共同通信が報じました。ワンマン(one-man)は「一人だけで」といった意味を持ちますが、ここでは列車に車掌を乗務させない運転形態を指しています。
ワンマン運転であることを示す列車の表示(2020年7月、大藤碩哉撮影)。
同社が将来的に目指している、運転士が乗務しない「ドライバレス運転」への布石として、首都圏の中心部、しかも10両の長大編成を誇る京浜東北線での導入計画は、都市部の運行形態の変化として大きな進展であるともいえます。2021年には外房線などでワンマン対応車であるE131系電車の導入も発表されていますが、東京都心を走行する京浜東北線でのワンマン運転となることが、新しい運行形態への大きなステップとなりそうです。
列車運転の基本形になっている「ツーマン運転」は、主に運転士・車掌の2名から成り「乗組(のりくみ)」と呼ばれることもあります。例外として、新幹線や特急列車などには車掌が複数名乗務していることもあります。先ほど車掌が乗務せず、運転士1名で列車を運行するのがワンマン運転と述べましたが、そのワンマン運転にも種類があります。「郊外型」と「都市型」です。
ここでの「郊外型」は、自動改札機がなかったり係員がいなかったりする駅を持つ路線で、運転士が運転以外の業務を行うものをいいます。列車の一番前のドアの所で、乗り降りする乗客のきっぷ確認や運賃精算などを行うもので、もしかしたら多くの人が想像するのはこの形態かもしれません。
かたや「都市型」とは今回の京浜東北線を例に、「郊外型」のように設備不足を補っているというよりも、昨今の少子化による人材不足対策や省力化のための形態を指します。ATO(自動列車運転装置)の導入を前提とした将来のドライバレス運転までも視野に入れた、先進的なワンマン運転の形ともいえます。

JR京浜東北線を走るE233系電車。同路線は将来的にワンマン運転化される予定(画像:写真AC)。
現行では、東京メトロ丸ノ内線やつくばエクスプレスがATOを採用してワンマン運転を行っています。ほかにもATS(自動列車停止装置)を保安装置とするタイプのワンマン運転もあり、これは東武亀戸線や名鉄尾西線、京阪交野線などの都市近郊で見られます。一口にワンマン運転といってもその種類は多岐に分類されるのです。ちなみに、旅客を乗せない貨物列車もワンマン乗務が一般的です。
今回話題になった京浜東北線は、ラッシュ時には満員になることもあります。ドア開閉時の確認も大変であるほか、大都市部の路線でそもそも1名しか乗務していないというところに不安を感じる人も多いのではないでしょうか。
人身事故 列車火災… 非常時の対応は重要課題ワンマン運転での重要な課題は、事故など異常時の対応ともいえます。例えば人身事故が発生すると、本来は運転士が現場の状況を確認し指令に伝え、その間の乗客対応は車掌が行いますが、ワンマン運転の場合はそれを運転士一人で行う必要があります。

京都鉄道博物館に展示されているダイヤグラムの実物。列車の運行時刻は秒単位で決められている(2017年10月、恵 知仁撮影)。
一見、都市圏であれば駅間距離が短く、非常時の応援もすぐに駆けつけられるような気もしますが、その駅自体もアウトソーシング化が進み、必要な処置が正しくできる駅員もどんどん少なくなっていることが懸念されます。
筆者(西上いつき:鉄道アナリスト・IY Railroad Consulting代表)も経験がありますが、ワンマン運転時に遅延が発生している場合、「次のターミナル駅での接続案内はどうなるか」などの懸念が頭の隅に残ります。運転に集中しなければならない場面で気が散ることは危険です。JR東日本が導入を計画するATOは、遅延などの運転条件も考慮されているようですが、高度な装置への設備投資ができない鉄道事業者との格差が大きくなることも課題です。
人件費は抑えたい でも安全運行は使命また細かいところでは、泊まり勤務時には通常二人で勤務している事業者で一人体制になると、起床を知らせ合うことができません。担当でない次列車の発車前の時間管理も行わなければならず、遅れを発生させる可能性も考えられます。

つくばエクスプレスの1000系電車。ATOを採用したワンマン運転を行っている(画像:写真AC)。
このようにワンマン運転やドライバレス運転などの一人乗務には様々な課題が散見されます。しかしテクノロジーによる安全の担保をはじめ、運行に関するバックアップ機能も図れるのであれば、最新技術の導入も当然、良いものでしょう。少子高齢化や新型コロナウイルス感染拡大による収入減少で運営がままならない中、不可逆的なところでもあるため対策を立てないといけないのも確かです。
運賃で儲けが出ないのであれば費用削減するのは経営的観点から見れば当然ですが、一方で鉄道の使命としての安全をないがしろにしてしまうのは大変怖いことです。そして運転士一人を養成するにはとても費用がかかります。過去にはいすみ鉄道で「訓練費700万円自己負担」も話題になりました。そのため、事業者がドライバレス運転を進めたい考えも理解できます。しかし、数値目標だけが先立って不安全な行動になってしまい、大きな事故につながってしまうのが最も危険です。