軽自動車の世帯当たり普及台数が約40年ぶりに前年マイナスを記録し、普及が頭打ちになってきました。では、海外では売れないのでしょうか。

日本独自の規格である軽自動車ですが、小さなクルマの需要は海外でも確実に存在します。

軽自動車 人気に陰り? 世界で売れば国民も潤うはず

 軽自動車は、日本固有の存在です。1949(昭和24)年に制度が制定されてから着実に保有数を伸ばし、2020年現在、国内に保有されるクルマの3台に1台が軽自動車になるほど普及しています。

 ところが、その増加に陰りが見えてきました。

 全国軽自動車協会連合会が8月17日に発表した「軽自動車の世帯当たり普及台数について(令和元年12月末)」を見ると、44年続いた前年比プラスがストップし、2019年はマイナスという結果になってしまったというのです。

 具体的な数字を見ると、保有台数自体は3121万6609台(前年比20万3236台増)とプラスになったものの、世帯数がさらに多く増加。結果として、普及台数は100世帯に54.40台と、昨年の54.41台からわずかに減少となってしまいました。

 これはコロナ禍になる前の数値であり、日本における軽自動車の普及が頭打ちになることを示唆するものかもしれません。軽自動車は、利用者である日本国民のために欠かせないものですが、一方で日本を支える自動車産業にとっても重要な製品です。それが売れなくなれば、この先の日本の景気に悪影響を与える可能性も大。なんとも不安な状況です。

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スズキのインド子会社が製造する「アルト」。
インドでは国民車(画像:マルチ・スズキ)。

 そうしたときに、頭をよぎるのは「軽自動車が日本だけでなく世界でも売れるのではないだろうか?」という疑問です。せっかく開発した軽自動車を、そのまま世界でも売れれば、自動車メーカーが儲かり、巡り巡って日本国民の私たちも裕福になる。そんなバラ色の未来も夢見ることができそうです。

 では、実際に海外で軽自動車は売れるのでしょうか?

海外にもある「アルト」「ワゴンR」

 まず、市場があるかどうかが重要です。これまで筆者が取材で、中国やインド、ASEAN(アセアン)諸国を巡った経験からすれば、「小さなクルマのニーズは実際に存在する」といえます。

 中国では、外資と提携していない地元中国の自動車メーカーが小さくて安価なクルマを販売しています。また、スズキはインドで「アルト」、インドネシアで「カリムン・ワゴンR」を発売しています。もちろん、日本で販売する軽自動車とは若干違いますが、基本は日本の軽自動車をベースにした“小さなクルマ”です。

 つまり、中国でもインドでも、ASEAN諸国でも軽自動車のような小さなクルマのニーズは確かに存在しているのです。ちなみに、ホンダは「ブリオ」、日産は「ダットサン」ブランドで、日本にはない小さなクルマをアセアンで発売しています。

 では、そうした中国やインド、ASEAN市場に、日本の最新の軽自動車を投入すると、どうなるのでしょうか。

ヒットするのか。それともダメなのか。ここから先は、筆者の予想を述べさせていただきます。

軽自動車は世界に売れないのか 日本では普及頭打ち 本当にガラパゴス?

日産がインドでダットサンのブランドとして展開する「redi・GO」(画像:日産)。

 まず、日本の最新の軽自動車そのままではビジネスにならないでしょう。なぜなら、日本の最新の軽自動車は、非常によくできていますが、それだけ価格も高額になっています。

 日本市場で見ても、装備を充実させた軽自動車は、下手なリッターカーよりも車両価格が高いのです。それでも日本で軽自動車が数多く売れるのは「税負担が低い」「みんなが軽自動車を買っているから」「用途としても軽自動車で十分」というのが主な理由でしょう。一方、海外市場では、軽自動車への税金の優遇はありません。リッターカーよりも高額な軽自動車を購入する理由がないのです。

日本のそのままでは売れない 「安かろう」でも売れない

 また、海外で販売される小さなクルマの多くは、日本の軽自動車よりもエンジン排気量が大きくなっています。これは、実際に必要な動力性能と燃費性能を満足させるには、日本の軽自動車の排気量では小さすぎるというのが理由です。

規制がないところで合理的な排気量を考えると、だいたいの場合で、エンジン排気量は日本よりも大きくなります。インドやインドネシアで販売されるスズキの「アルト」などのエンジン排気量も同様です。

 もうひとつ、日本の最新の軽自動車がそのままでは売れない理由があります。それが現地の人の嗜好です。そもそも商品が売れる・売れないは、商品の出来ではなく、買う人側のニーズ次第というのが基本です。どんなに出来のよいものでも、不必要であったり、好みにあわなかったりするならば、誰も購入するはずがありません。

 そして、中国、インド、アセアンとひとくくりにしていますが、実際のところ、それぞれの国や地域では、交通事情が異なりますし、デザインの好みも違います。たとえば、タイとインドネシアでは、はっきりとデザインの好みが異なるといいます。日本と韓国の人が、外から見ると同じようでも、その嗜好はまったく別というのと同じです。よって、それぞれの国や地域のニーズにあわせた現地化が必要となるのです。

軽自動車は世界に売れないのか 日本では普及頭打ち 本当にガラパゴス?

ホンダがASEAN諸国で展開する「ブリオ」(画像:ホンダ)。

 最後に、海外市場を見ていて重要だなと思うのは、「安物が欲しい人はいない」ということです。

「所得が低いんだから安いモノを用意した」という、安かろう悪かろうという製品は、売れないというのが実感です。

 実際に、日産の「ダットサン」ブランドやホンダ「ブリオ」がASEANで売れているようには見えません。インドにあるスズキのディーラーでは、店員から「顧客の収入が上がると、いまのスズキを捨てて、他ブランドに行ってしまう。顧客の収入が上がる現状としては、もっと高いクルマが欲しい」という声を聞きました。

小さいクルマのニーズは縮小か

 そういう意味では、所得が上昇中である中国、インド、ASEANという地域においては、安い小さなクルマの市場は存在するものの、この規模はどんどん狭まり、もう少し大きくて見栄えの良いクルマのニーズが高まるはず。日本の軽自動車は高機能ですが、もっと大きなクルマと並べば貧相に見えてしまいます。そして実際に、もっと大きなクルマが安価に売っているのです。

 価格、見栄えというバランスを考えると、日本の軽自動車の海外進出は、ない話ではありませんが、それほど儲かるビジネスになりそうには思えません。ただし、海外市場というのは、意外にひとつひとつが大きなもの。インドネシアは人口が2億人もいます。そこだけでも大きなマーケットが期待できるのです。

 日本の軽自動車を、そのまま持っていって現地で売れるほどビジネスは甘くありませんが、日本で培った技術で現地モデルを作って勝負する。

そう考えれば、日本で熱心に軽自動車を開発するのも、技術向上という意味があるといえるのではないでしょうか。

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