沖合に豊かな漁場を持ち漁業が盛んな茨城県。様々な魚介類が水揚げされていますが、中にはちょっとマニアックな「淡水魚」も含まれています。

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霞ヶ浦と茨城県

日本で一番大きな湖はもちろん琵琶湖ですが、二番目はというと意外に知られていないようです。答えは茨城県にある霞ヶ浦で、琵琶湖の4分の1ほどの大きさですが、複雑に入り組んだ形状をしており湖岸延長は日本一です。

霞ヶ浦が全国に誇る「小さな高級魚」シラウオ ほぼ淡水湖で繁殖が続く不思議とは
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霞ヶ浦(提供:PhotoAC)

霞ヶ浦はかつて、接続する利根川の河口から遡上してきた海水の影響を受ける汽水湖でした。そのため生息する魚種は非常に多く、ウナギやスズキ、シジミ、ワカサギなど様々な魚介が名産となっていました。

しかし1950年代に、霞ヶ浦周辺地域で大規模な塩害が発生したのを機に、河口堰を構築し海水が湖内に入ってこないようにしました。その結果霞ヶ浦は大きく環境が変化し、今ではほぼ淡水の湖になりつつあります。現在の価値観で言えば自然破壊と言えますが、かつては農業生産を増やすという大義名分のもと、このような事業が各地で行われたのです。

かつて採れていた魚介類の多くは採れなくなり、廃業する漁師も多く出ましたが、それでも現在もコイや淡水真珠の養殖、ワカサギやテナガエビの漁獲などが現在も行われており、スーパーなどでも手軽に購入することができます。那珂湊などの漁港で揚がる海の幸が有名な茨城県ですが、実は淡水魚介も気軽に食べられる地域なのです。

霞ヶ浦が誇る小さな高級魚

そんな霞ヶ浦で産する魚介類の中で、知名度は低いけど全国屈指の生産量を誇るものがあります。それはシラウオ。

霞ヶ浦が全国に誇る「小さな高級魚」シラウオ ほぼ淡水湖で繁殖が続く不思議とは
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新鮮なシラウオ(提供:PhotoAC)

シラウオはアユやシシャモと同じキュウリウオ科の魚で、大きくても10cmを少し超える程度の小魚です。しばしばシラスや、踊り食いで有名なシロウオと間違われますが、前者はイワシの稚魚、後者はハゼの一種です。

シラウオは江戸前の寿司ネタや天ぷらだねとして古くから珍重されており、霞ヶ浦産のものは徳川家にも献上された歴史があります。

霞ヶ浦のシラウオはAIによって鮮度判定が行われ、S判定のものは都内の高級料理店でも使用されて一種のブランドとなっています。

霞ヶ浦のシラウオが“特別”なワケ

茨城県のシラウオ生産量は青森県についで全国2位、しかもそのほとんどが霞ヶ浦で水揚げされたものです。そのため「霞ヶ浦はよほどシラウオの生息に向いているんだな」と思われるかもしれませんが、実はこの湖にシラウオがいるのはある意味不思議なことではあります。

1位の青森県における主要生産地である小川原湖をはじめ、基本的にシラウオは「汽水湖」もしくは「河川の汽水域」にて漁獲されます。彼らがそのような場所を好んで生息するためですが、霞ヶ浦は前記の通りほぼ淡水湖。それでも汽水湖だった時代から変わらず繁殖し続けているのです。

霞ヶ浦が全国に誇る「小さな高級魚」シラウオ ほぼ淡水湖で繁殖が続く不思議とは
霞ヶ浦が全国に誇る「小さな高級魚」シラウオ ほぼ淡水湖で繁殖が続く不思議とは
シラウオ丼(提供:PhotoAC)

霞ヶ浦では特定外来生物のアメリカナマズなど、シラウオを捕食する淡水肉食魚が多く生息しています。それでも今後も変わらず霞ヶ浦で生き続けていてくれるといいな……とその味が好きな一人として願うばかりです。

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<脇本 哲朗/サカナ研究所>