船もイカダも堤防も、春の大型アオリイカが盛期を迎えている。特に三重県南部では秋イカの終わりがなく、だらだらと釣れ続けてそのまま春イカシーズンに入った感じだ。
(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース中部版 編集部)
エギングとヤエン釣りで春イカ狙い
さて、今回同行してくれたのは、昨年末に孫が生まれた還暦スクイッドハンターの山根充伸さん。そしてフィッシングライターの戸松慶輔さんの2人。山根さんはこれまで何度も本紙に登場している、いわずとしれたエギングの名手。
そして戸松さんには今回ヤエンで挑戦してもらう。本人によるとエギングは大の苦手だそうで、今回はしっかりと生きアジを用意して実釣に臨んでもらった。
今回お世話になったのは、迫間浦で古くから渡船業を営んでいる宝成渡船。船長の羽根洋一さんに事前に話を聞くと、前週にはエギングで2.7kgのモンスターも上がっているらしい。
ヤエン釣法について
ここで少しヤエン釣法について説明しよう。タックル、仕掛けは極めてシンプルだ。磯ザオにリアドラグ式のスピニングリールをセットし、仕掛けはミチイトの先にチヌバリ1号程度の小さなハリを結ぶだけ。この小バリに生きアジを付けて投げるのだが、基本的にアジは自由に泳がせる。
アオリイカがアジを見つけて抱きかかえるが、アジに付いているのは小さなハリ1つ。
そこでイカがアジを食べることに夢中になったころ合いで、ゆっくり慎重に寄せてくる。もちろんイカにハリは掛かっていないので、違和感があればイカはすぐにアジを離して逃走してしまう。いかにイカに違和感を与えず寄せてくることがキモだが、このときのハラハラドキドキがたまらないのだ。
イカがある程度寄ってくれば、ミチイトに角度がついてくる。適度な角度になったところで、ヤエンと呼ばれる全遊動の掛けバリをミチイトに取り付け、そのままイカの元に滑らせていく。ヤエンがイカの元に届いたところでアワせれば……、見事イカにフッキングというわけだ。
ただヤエンがイカに届けばいいというわけもなく、ミチイトに角度がつきすぎればヤエンの落下速度が速くイカに激突。当然イカはハリに掛かる前に逃げる。この落下速度はサオの上下で微妙に調整するが、掛かるまでのスリルがヤエン師を魅了してやまないのだ。
朝の時合いは空振り
さて午前5時20分に出船し、ものの10分ほどでイカダに到着。山根さんはそそくさとタックルをセットし、渡ってから5分もしないうちに岸に向けてエギをフルキャスト。風は全くなく、絶好のエギング日和だ。

戸松さんは2号4.5mの磯ザオに1.5号のミチイトを通し、先にチヌバリ1号を結び、アジの尻尾に近いゼイゴの部分に刺す。この方がアジが自由に泳いでくれるのだ。
そして戸松さんはもう1本。コンパクトロッドにセットしたのは、ウキ釣り仕掛けだ。これは最初からアジに掛けバリをセットしたもの。使用したのはハピソンの夜釣り用アオリイカ仕掛けだ。
これは後から掛けバリを送るヤエンと違い、アジに掛けバリが付いているので、イカがアジを抱いた瞬間にハリ掛かりする。だが負荷なく自由に泳ぐヤエン仕掛けに比べ、余分なものが付いているのでアジの弱りが早い上に、イカが警戒してアタリの数が減るというデメリットもある。

開始して2時間、エギングにもアジにも全く反応はない。朝の時合いは完全に空振りに終わってしまった。実は宝成渡船の羽根船長からは、ここ最近アオリイカの釣果がかなり落ち込んでいると聞いていた。第一陣として入ってきた群れが産卵行動に入ったか、潮が変わったか。
1匹目はウキ釣り仕掛けに
それでも名手2人がいるのだからと、気楽に構えていたが、あまりの反応のなさに少々焦りを覚え始めたころ、ウキ釣り仕掛けをセットした戸松さんのコンパクトロッドがズズッと引きずられ、海に落ちそうになった。
慌ててロッドを手に取る戸松さん。見るとミチイトがぐんぐん沖へ引っ張られている。見ていた山根さんが「ほんまにイカのアタリ?」と言うほど激しいアタリだ。アワセを入れると、特有のジェット噴射。間違いなくアオリイカの引きだ。

ゆっくり寄せてネットに収めたアオリイカは、700gほどのまずまずサイズ。「絶対離すもんか!」とアジをしっかり抱きかかえていた。
ヤエンにも待望のアタリ
このヒットから30分ほどしたころ、今度はヤエン仕掛けの磯ザオにセットしたリールのドラグがけたたましく鳴り響いた。そう、ヤエン釣法ではドラグは極限まで緩めておくのが基本。イカがアジを抱いて泳ぎだしたとき、違和感を一切与えないためだ。

だがここで戸松さんが「まずいな……」とぽつり。ミチイトの方向がイカダを固定しているロープの方向に向かっているのだ。ここでようやくイトの出が止まり、手でスプールを押さえながら寄せに入る戸松さん。
ロープをいかにかわすかがキモ
戸松さんはヤエンがスムーズに落ちていくように、磯ザオを上下に操作する。そしてアワセを入れた瞬間……、グンッと止められて動かなくなってしまった。恐れていたことが起こってしまった。完全にロープに巻かれてしまったようだ。この時点で生命反応が消えており、イカはすでに逃走した模様。

山根さんいわく、「ジェット噴射の間隔からすれば間違いなくキロオーバー」とのこと。走るストロークを見れば、だいたいの大きさが想像できるという。
泣く泣くミチイトを切って、仕掛けを組み直す戸松さん。「イカダのヤエンの宿命ですね」と言う。そう、イカダでは必ずアンカーとイカダをつなぐロープが入っている。このロープをいかにかわすかが、最大のキモとなりそうだ。
昼から状況が一変
この直後、山根さんに待望のヒット。ボトムでじっくり漂わせていたエギをひったくったのは、目つきがいかついコウイカ。

続けて沖向きで乗せたのは、なんとアカイカ(ケンサキイカ)。イカメタルのターゲットだが、湾内にも入ってくるとは……。

サビキでアジを釣ってエサ補充
昼休憩を挟んでアジのスカリをのぞくと、残りのアジは3匹。これは最後まで持たないかもしれないと、戸松さんはヤエンとウキ釣りのサオを見ながら、サビキ釣りを始めた。
使用するエサはマルキユーのアミ姫とアミ姫キララ。最初はアタリが遠かったが、すぐにアミ姫にアジが集まってきたようで、勢いよくサオ先が揺すられる。上がってきたのは20cmないぐらいのアジ。ヤエンに使うにはちょうどいいサイズだ。
アジだけではなく、カタボシイワシや小サバ、カタクチイワシなんかも交じり、しばし癒やしの釣りを楽しむ戸松さん。ここで再びリールのドラグが鳴り響く。
待望のキロアップが浮上
今度こそ……とじっくりイカの動きを見極める戸松さん。イカの走りが止まったところで、ゆっくりロープとは逆の方向に誘導する。
完全にロープから離れたところで、いよいよヤエン投入。

グーングーンというジェット噴射をサオさばきでかわし、浮いたところで山根さんがネットですくい込む。待ちに待った1匹は、ギリで1kgありそうなオスのアオリイカだった。
エギングで執念の1匹
ここまでコウイカとアカイカの山根さん、午後2時を回るとさすがに焦りを隠せなくなってきた。ここでお茶を飲み、少し休憩。深呼吸をして再びロッドを手に取る。
ボトムだけでなく中層も意識し、じっくり見せながら誘ってくる。そして……エギが足元まできたところで、「よっしゃ~」と還暦の雄叫びが響く。

ジリジリ滑るドラグを押さえ、浮かせて取り込んだのはこちらもギリ1kgあるかな~ぐらいのメスのアオリイカだった。これまでこわばっていた山根さんの表情が、この日初めて緩んだ瞬間だった。
アジにサプライズゲスト
そして終盤にさしかかったころ、再びリアドラグ式のスピニングリールからドラグ音が響いた。だが結果から言うと、アジを襲った犯人はなんとハモ。そう、生きアジを泳がせている以上、イカ以外のフィッシュイーターも多くアタックしてくるのだ。

だがこのハモ、イカダに上げてからがとにかく厄介だった。掛かったヤエンを外そうと、ローリングしまくってミチイトはグチャグチャ、ヤエンはひん曲がってしまい、おまけに外そうとした戸松さんの手はヌメリでヌルヌル。リリースは無理で、戸松家のおかずになるべく、血抜きの後にクーラーに収められることとなった。
そして午後5時半に迎えの船に乗り込み、この日の釣りは終了。この時期らしく数は出なかったが、2匹のキロクラスにまずは納得の釣果となった。

迫間浦のアオリイカは5~6月にかけて最盛期を迎える。時期が進むほどヤエンの方が有利とも言われるが、エギングでも大型の可能性は十分。二刀流で記録にも記憶にも残る1匹を狙ってみてはいかがだろう。
▼この釣り場について宝成渡船
おすすめイカダ紹介
カカリ釣り、釣り堀で有名な迫間浦。今回は宝成渡船にお世話になったが、他にもおすすめのイカダ渡船店を紹介しよう。
日乃出屋は宝成渡船と同じく、迫間浦の老舗渡船店。やはりクロダイのカカリ釣りでは超のつく有名船宿だが、最近ではアオリイカでも名を馳せており、エギンガーも注目する渡船店になりつつある。
▼この釣り場について日乃出屋
澤村渡船は養殖イケスに隣接したイカダで、青物やヒラメなどの大物釣りに挑戦できる。今シーズンはまだ目立った大物は上がっていないが、五目イカダではアジが上がっており、アオリイカを狙うならヤエンか泳がせ釣りが面白そうだ。
▼この釣り場について澤村渡船
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<週刊つりニュース中部版 編集部/TSURINEWS編>
この記事は『週刊つりニュース中部版』2024年5月10日号に掲載された記事を再編集したものになります。