通称「尼ロック」と呼ばれる「尼崎閘門(こうもん)」によって水害から守られている兵庫県尼崎市を舞台に、年齢も価値観もバラバラな家族が、さまざまな現実に立ち向かう中で次第に一つになっていく姿を描いた人生喜劇『あまろっく』が、4月12日(金)の兵庫県での先行公開に続いて、19日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開となる。本作で若くして一家に嫁ぐ早希を演じた中条あやみに話を聞いた。
-今回の早希は20歳の役で、笑福亭鶴瓶さん演じる竜太郎と結婚して、江口のりこさんが義理の娘の優子という、あり得ないような設定でしたが、最初に脚本を読んだ時はどんな印象でしたか。
私も第一印象は、設定に無理があるんじゃないかな、きっとみんなもそう思うだろうなと思いました。でも、こういう明るい家族の物語というのもあまりなかったですし、登場人物の一人一人に寄り添ったせりふがあったり、それぞれの人生の良さが短時間の中にぎゅっと凝縮されていると感じて、すごく心が温かくなる作品だと思いました。何より、江口さんと鶴瓶さんとご一緒できるのがすごく楽しみだったので、撮影に入る前からワクワクしていました。
-実際に演じてみていかがでしたか。
クランクインが、いきなり鶴瓶さんと一緒に夫婦として商店街を歩くシーンだったので、距離感を詰めないとリアルにならないとすごく悩みました。
-年上の娘役の江口のりこさんとの共演はいかがでしたか。
ちゃんと母娘に見えていましたか?
-最初は、「えっ?」と思うんですけど、不思議なことにだんだんと違和感がなくなってきました。
そうなんですよね。私自身も、だんだんと優子ちゃん=江口さんが娘かなって思えてきて…。もちろん江口さんは年上なんですけど、素直でかわいいというか、妹や娘みたいな感じに思えてきて。
-では鶴瓶さんとの共演はいかがでしたか。
鶴瓶さんはもうずっとあのままというか、竜太郎さんが鶴瓶さんであり、鶴瓶さんが竜太郎さんであるというような人です。
-今回の舞台は尼崎でしたが、関西弁のせりふも含めて、演じる上で大阪出身というのは大きかったですか。
もう10年以上東京に来ているので、だいぶ慣れてきたんですけど、今でも標準語を話す時は、違う言語を話しているみたいなところがあって、頭の中で変換している感じがあります。今回は大阪の実家に泊まって撮影現場に行っていたので、実家にいる自分を映したような自然さというか、本当の私が映っているんじゃないかなと思います。せりふも、20歳という設定なのでちょっと若い感じは出ていますが、ほとんどナチュラルな姿かなと思います。
関西弁って、怖い言葉にも聞こえるかもしれませんが、優しさもあって。「何でやねん」「知らんがな」とか、そこで終わるんじゃなくて、あまり会話がかみ合っていなくても、「何でやねん」って言葉だけでツッコミになったりして。しらっとした空気がなくなるじゃないですか。
-そういう意味では、コメディーに興味があったりもしますか。
すごく興味があります。私は、全ジャンルの中でコメディーが一番難しいんじゃないかなと思っていて。宮藤官九郎さんとか、コメディーのドラマや映画を作っている人はすごいなと思いながらいつも見ています。見せ方という点では、芸人さんが一番お芝居が上手だと思います。舞台上で見せる見せ方・間合い・落とし方というのは、やっぱり芸人さんが一番上手なんじゃないかなと思っています。
-今回は、今まで演じてきた役柄とは、だいぶイメージが違う感じがしましたが、ご自身ではどんな印象ですか。
今まで演じてきた役も、夢に向かって頑張っている役が多かったので、そう遠くはないんですけど、お芝居をしているという感覚が多少ありました。今回は、そういう感覚がなかったので、「中条あやみって、実際はどんな人なの?」と聞かれたら、「本当の自分は見せたくはないけど、こんな感じ」みたいな。ちょっと恥ずかしい気がするぐらい素の自分に近いです。
-早希のキャラクターについてはどう思いましたか。
早希ちゃんというキャラクターは独特というか、生い立ちや過去にもちょっと複雑なところがあったので、そこは意識して演じました。早希ちゃんが、何でこんなに家族に執着するのかと考えた時に、1人っ子で小さな頃はたくさんの愛情を受けて育ったけど、途中からご両親の事情でいろいろと変わって、自分がしっかりしないといけない、大人にならないといけないと思って生きてきて…。でも竜太郎さんと出会うことで、本当の自分に戻れるというか、自分が理想としていた家族だんらんを追い求めながらも、ちゃんとリアルな家族に出会えたということだと思います。
-最後に、観客に向けて、見どころも含めてアピールを。
一見、ちょっとファンタジー風に見えて、設定にびっくりするかもしれませんが、家族の温かさも、難しさも描かれているので、この映画を見て、自分の家族っていいとこあるなとか、実はあの人はこういうふうに見えないところで頑張ってくれていたのかなとか、気付くことがたくさんあると思います。すごく心が温まる映画になっているので、笑って、泣いて、ほっこりしていただければと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)